難聴児の親になって初めて知った3つのコト
次女が難聴だと分かるまで、私の人生において言葉の発達に興味を持ったことは一度もありませんでした。強いていえば、アメリカへ留学した時にネイティブの人に囲まれて生活し、2年か3年経ってだいぶ英語が聞こえてくるようになったし、それに伴い話せるようにもなりました。もともと音楽を専門としている私は、英語を音楽のように聞き、聞こえたフレーズをリピートするという感じで習得したのだと思います。
娘は発見が難しいとされるタイプの聴覚障害で、聴力検査もパスしてしまいます。最終的に4歳で聴覚障害が判明し、補聴器をしましたが何も変わらず、5歳で人工内耳をして聞こえるようになりました。詳しくは以前取材して頂いた記事をご参照ください。
言葉をほとんど発することのない娘は3歳ごろから発達障害の疑いがあると言われたため、発達クリニックに通い始めましたが、そこで出会った言語聴覚士(以下ST)の先生から「聴覚障害の可能性がある」と指摘され、精密検査を受け、遺伝子検査をして、ようやく聴覚障害が確定しました。その後、家の近くにある別の療育施設を紹介され、STによる言語指導が始まりました。その時、すでに4歳になっていました。
◯難聴児の親になって初めて知ったコト"その1"
「言語聴覚士の存在」
娘は必要に駆られてSTと出会い、5年近く言語指導をして頂きましたが、そうでなければ私はSTの存在を知らなかったでしょう。療育施設にはSTによる療育を求める障害児と親でいつも混雑していて(コロナ禍に個別指導に切り替わりましたが)、同じように困っているご家族がこんなにいるのだと、これまで知ることのなかった新しい世界に飛び込んだ新鮮な印象がありました。
我が家はたまたま自転車でも行けるくらいの距離でしたが、中には1時間以上かけて車や電車で通っている方もいました。話をしてみると、聴覚障害以外の障害がある重複障害のお子さんや、娘と同じように特殊な聴覚障害で発見が遅れたお子さんなど、それぞれの事情がありわざわざ遠くまで来ているようです。今になって振り返ると、少しでもレールから外れてしまうと、セーフティーネットが無く、自己責任でなんとかしなければならない社会なのだと痛感します。
そんな家族や子どもを助けてくれる"寺小屋"のような場所がSTによる療育施設です。
◯難聴児の親になって初めて知ったコト"その2"
「自分が最初に言葉を覚えた記憶はない」
誰でもそうだと思いますが、自分が言葉をどうやって覚えたか、記憶がないのではないでしょうか。1歳から2歳くらいで言葉を真似るようになり、3歳くらいまでにはおしゃべりをするお子さんが多いでしょう。文字が書けなくても、言葉の意味が分からなくても、子どもはとにかく真似をして言葉を話します。言葉を覚えるのに"学習"をする必要はないでしょう。
しかし、聴覚障害のある子どもたちは、毎日勉強をしないと、言葉の発達に遅れが出てしまいます。娘は特に発見が遅れたため、すでに4年分の遅れがあります。しかも、子どもが一番言葉を覚える時期である2歳から4歳までに、全く言葉が入っていなかったのです。正直、絶望的な状況ではありましたが、親としてはそうも言っていられないので、とにかくSTに言われた通りに家庭学習を始めました。
子育ては、いろいろな体験をさせながら、親が知っていることを子どもに話したり、本を読んだりしますが、これらの方法が通用しないのが難聴児の子育てです。STからの情報を頼りに、我が家の奮闘記が始まりました。
◯難聴児の親になって初めて知ったコト"その3"
「手話や指文字の存在」
娘が音で言葉を認識できないと分かってから、最初に始めたのが"指文字"を覚えることでした。音が聞こえていれば、五十音の文字を音と一緒に覚えることが出来ますが、それが通用しませんから、音の代わりに指文字を覚えるのです。
療育で娘は指文字をどんどん覚えていきますが、すでにいい年齢の私は指文字がなかなか覚えられません💦 似たような指の形が多いですし、濁音や拗音が混ざってくると、頭の中がぐじゃぐじゃになります。
人工内耳の手術後、幼稚園の年長になる年齢に1年間だけろう学校幼稚部に通いました。そこでは手話も使うようになり、やはり娘はどんどん覚えます。私は・・・・・、頑張りましたが、それ以上に娘はどんどん習得するのです。周りのお友だちも、すっごいスピードで指文字や手話を表現してきます。「ご、ごめんねー、おじさん分からない・・・」と圧倒されましたね。
人工内耳で聞こえるようになるまで数ヶ月かかるため、最初は手話や指文字を使いながらろう学校でコミュニケーションをとるようになり、それと同時に文字や文法もどんどん理解できるようになりました。術後4ヶ月ほど経ってから人工内耳の効果も出てきて、益々言葉が発達するスピードが上がっていきました。いわゆる"トータル・コミュニケーション"により、会話が豊かになっていったのだと思います。
▶︎娘のペースで、前を見て、コツコツと
これまで話したように、娘はSTの指導を受けながら、家庭学習を通じて言葉を育んできました。現在は地域の小学校に通う6年生で、障害のない子どもたちと一緒に、楽しく、大きな問題もなく学習しています。今でも家庭で勉強のフォローをする必要のある場面は多々ありますが、昔に比べれば自分で自然と学ぶことも多くあります。聴覚障害と分かった8年前に、今の状況は全く想像がつきませんでした。
おそらく、当時の私と同じ心境の方がいらっしゃるのではないかと思います。私の体験が少しでも役に立つかもしれないと考え、このブログを始めることにしました。
障害児を持つ親としては、どうしても他の子の成長と比較してしまったり、なかなか前に進まなくて希望が持てなくなる時もあるかもしれません。ただ、毎日コツコツと家庭学習をしていれば、いつか振り返った時に「こんなに成長したのか!」と感じる時がくると思います。勉強が嫌いにならないように、出来るだけ楽しく続けられるといいですね。