PrusaXLとKaikaノズル装着について
この記事ではPrusaXLを紹介しつつ、テクダイヤ製の高精度ノズル「Kaika」のPrusaXLへの装着について書いていきます。
3Dプリンタ PrusaXLについて
PrusaXLの概要
チェコのPrusaResearch社の3Dプリンタです。2021年に予約が始まりましたがコロナ禍の影響で半導体系の部品調達が遅れ、2023年後半から出荷が始まりました。「5ツールチェンジ」を可能にした大型3Dプリンタ、いま市場に唯一無二の存在です。ひとつのヘッドに対して、交換可能なツールを最大5つまで追加でき、ツールを切り替えながらオブジェクトを作ることができます。
360mm×360mm×360mmの造形サイズで、かなり大きいオブジェクトも余裕。MKシリーズ系では不可能ということで相談のあった、人間が腕に抱えるくらいのサイズがあるプリント案件もすでにいくつか受けています。
小さいオブジェクトであればベッドに並べて、1プリント30〜50個ずつの量産が視野に入るレベルで運用できます。
僕がオーダーしていたぶんも、今年の3月に無事到着。以来いろいろ使いこなしが進んで、ツールチェンジ機構を活かした頂点とも言えるオブジェクトが出来上がり反響がありました。マテリアルにFlex素材、サポートにPLAを当てたスライスをしまして、およそ100時間のプリント、エラーなし。互いに融着しない素材を使えば、水溶性材料を使わなくても一気にサポートを剥がすことができ、きれいなオーバーハング、無茶な設計も実現できます。かなり応用が利きます。
去年配信で、ツールチェンジ、マテリアル変更しながらのプリントは2024年中に増えるし流行るよというようなことを言ったんですが、今年はPrusaのMMU3アップグレードを筆頭に、次々と3Dプリンタメーカーがフィラメントを自動で交換してオブジェクトを作っていく構造のオプションを展開しています。数種類あって、気軽に入手できる価格で流通しています。とはいえ構造上、ほとんどの場合そこそこのゴミを出すことや「マルチマテリアル」と謳っていても、軟質素材と硬質素材を同時に扱うには運用上のハードルがあったりします。
一方、PrusaXLのツールチェンジ機構はツールヘッドが独立して存在していて、硬質軟質問わずあまり深く考えずに同時に使用することができるので、使い方によっては画期的な構造を1度のプリントで作り上げる、3Dプリントならではの柔剛併せ持つプラスチック部品が作れるだろうと思っています。設定次第ではゴミも最小限、なんならゴミ皆無の設定でも運用できます。趣味の3Dプリントユースの延長にありつつ、ハイエンドプラスチック材料不要だがサイズ感的に業務で使いたい、というニーズも満たす3Dプリンタです。
正直言って場所が許せばもう1台欲しいです。このプリンタにしかできないことが多い上に、大は小を兼ねます。
Kaikaノズルについて
すでに僕の説明は不要だと思います、小山社長率いるマイクロノズルメーカー、テクダイヤによる3Dプリント用ノズルブランドです。
特徴やその優位性は小山さんやKaikaチーム、ユーザーがたくさん発信しているのでそこに譲るとして、とにかくオブジェクトを安定的にきれいにプリントできます。価格を見て高いと感じた人も安価なノズルで右往左往して結局、このノズルに行き着いているのではないでしょうか。
PrusaXLへの取り付けと留意事項
PrusaXLでもKaikaノズルの恩恵を受けたいということで、まず用意するものがノズルアダプターです。純正のものを手配することをおすすめします。
バイメタルの部品なので安価なサードパーティー製のものは今のところおすすめしません。過去この手のバイメタルノズル、バイメタルヒートブレイクは温度変化によって微細に形状変化するのか、すぐ使えなくなるという報告がありました。
交換方法はオフィシャルのマニュアルを参照のこと。
作業開始
ホットエンドを250℃にしておき、バックカバーを開けて配線を確認します。温度が上がりきったらクールダウンを指示し、ヒーターとサーミスタの配線を外し、ケーブル類を傷つけないように慎重にノズルを外して、このような状態にします。
アダプターをまず付けて軽く固定し、Kaikaノズルを付けていきます。
配線を戻して、今度はしっかりと固定し、270℃まで温度を上げてノズルを締め込みます。これで完了。
ツールオフセットキャリブレーションの実施
何度か移動させた経験上、PrusaXLではプリンタを移動するたびにツールオフセットキャリブレーションを実施するのが良いです。ノズルを交換したときは必須です。作業はSTEP18から。
PrusaXLではキャリブレーションがかなり有用なのでここまで追い込む必要はないと思いますが、デスクトップメタルやストラタシスの2ヘッドタイプのものは材料交換やヘッド交換のたびにたいてい下記のようなマニュアルキャリブレーションが必要です。
さてKaikaノズルですが、先端形状の違いから既存のPrusaノズルやその他のV6系ノズルとの併用はできないです。ツールキャリブレーション後、下記のエラーが出ます。
これはキャリブレーションの結果、ツール同士が想定した範囲にいないというキャリブレーション結果を示すもので、Kaikaノズルの先端の曲面形状とその他のノズルの形状が異なるために起きているように推測します。
キャリブレーション中の挙動として、ヒートベッド中央に設置するピンに対して、上と前後左右から、ノズルで数度小突きに行く動きがあります。これは5ツール分、繰り返されます。前後左右に小突きに行くときにロードセルセンサーで接触時の座標を読み取って反映させているものと思うのですが、Kaikaノズルの丸みを帯びた先端形状とV6系ノズルのシャープな形状とが異なっているために測定の数字が大きく異なり、それぞれのツールが許容できる範囲にいないという判定がされていると推測されます。
これは1と2のツールにKaika、3、4、5のツールにPrusaノズルにした状態でキャリブレーションをかけたところ発生したアラートです。キャリブレーションのシーケンスは最後まで進んだので案外そのまま使えそうでしたが、さすがに統一したほうが良さそうという感覚で、全部Kaikaに交換をしました。すべてのツールにKaikaノズルを装着することでこのエラーは解消しました。
ノズルは消耗品という前提
昔ほど3Dプリンタをいじくりまわして楽しむことがなくなったので、完全にシンプルユーザーとしての日々を送って久しいです。特にPrusaMKシリーズは4になってからホットエンドやサーミスタまわりの安定感が増したため、定期的に遭遇していたヒートクリープの頻度が激減し、断線や損傷による配線の交換、効率化のための改造もほとんどしなくなりました。
一方でやはり、プリント品質の最後を決めるのはノズルであり、消耗にともなって交換すべきなのもノズルです。PrusaXLでもアダプターを介することでKaikaノズルを使用し、オブジェクトのクオリティを担保できるので、今後もKaikaを愛用していきます。
余談ですが、ツール1にKaikaSを導入しています。ノズルを摩耗させるような材料をここにロードして、そうでもない材料を2〜5ツールに当てるという使い分け運用ができるので、いちいち心配する必要もなく便利になりました。このあたりの運用は経験値が溜まり次第また共有していきます。
ギャラリー
XLならではのオブジェクトの写真を掲載予定。
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