磁気探査
磁気と聞くと磁石を思い浮かべる人が多いと思います。磁石(マグネット)の語源となったのは,古代ギリシャのマグネシア地方で採れた天然磁石(マグネシアの石)であるとか,羊飼いマグネスが拾った不思議な石であるなど諸説あります。鉄などを引きつける不思議な力は古くから知られており,お隣の中国でも天然磁石で作られた方位磁針(指南魚)などが利用されていました。しかし,なぜ方位磁針が北(南)をさすのかは長い間謎のままでした。 イギリスのギルバートは,「テレラ」と名付けた球形の磁石で実験を行ない,方位磁針の地球上での奇妙な動きは,地球自体が一つの巨大な磁石であることから生じたものに違いない,と結論付けました。これが地球の磁気,すなわち"地磁気"の認識の始まりです。 しかし,地磁気は不変ではなく,様々なタイムスケールで変動しています。その最たるものが地磁気の逆転です。地磁気は約78万年前に逆転し,現在の状態に至っています。
一般に,岩石は磁性をもっています。岩石の磁気的性質は,残留磁化や誘導磁化によって特徴づけられます。残留磁化とは,永久磁石のように外部磁場とは無関係に岩石そのものに常に存在する磁化成分です。一方,誘導磁化とは,岩石の帯磁率と外部磁場の積で表されるもので,こちらの方は外部磁場がなくなると消失します。一般に残留磁化と誘導磁化の和を磁化と呼んでいます。磁化の強さは岩石の種類によって異なり,平均的には,玄武岩 > 安山岩 > 石英安山岩の順に磁化が小さくなる傾向が見られます。また,磁化には温度依存性があり,一般に高温になるほど岩石の磁化は小さくなります。磁化が完全に失われる温度はキュリー点と呼ばれていて,代表的な強磁性鉱物である磁鉄鉱のキュリー点は約580℃です。磁化の温度特性は磁性鉱物の種類と内部構造によって異なりますが,キュリー点を境として磁化が100%から0%まで一気に減少するというものではなく,温度の上昇とともに徐々に磁化が失われる場合が多いので,この性質を利用すると火山の地下における温度異常を捉えることができます。
磁気探査は岩石や埋設物の誘導磁化を利用した物理探査です。磁気探査では,プロトン磁力計やフラックスゲート磁力計などを使って地磁気を測定し,磁鉄鉱・チタン鉄鉱などの鉱床の位置や地質構造を推定したり,火山の地下構造や地殻構造の調査などにも広く活用されています。また磁力計による測定は地上だけでなく,航空機や調査船によって空中や海上でも行なわれます。磁気探査は地下構造の探査以外にも,不発弾等の鉄製埋設物探査や遺跡探査にも利用されています。