常温核融合の夢
核融合反応は、軽い核種同士が融合してより重い核種になる核反応を言います。通常は単に核融合と呼ばれることが多い。核融合は、原子力発電などで利用される核分裂反応とは全く原理が異なる反応である。この核融合反応を連続的に発生させてエネルギー源として利用するのが核融合炉で、技術的な困難を伴うため2023年現在実用化はされていない。
しかし、身近な場所に天然の核融合炉があります。それは太陽です。太陽の内部では、水素と水素が核融合して、ヘリウムを生成されています。ヘリウムの名前の由来は、ギリシャ語の”ヘリオス(太陽)”です。
人工的に、核融合反応を連続的に起こすためには1億度を超える高温と高圧が求められます。さらに、核融合反応によって飛び出る高速中性子の対策などが必要になります。そのため、なかなか実用化には至っていないのが現状です。
そんな難しい核融合反応が、「室温環境下で簡単な設備を使って起こすことができた」とする、驚くべき研究結果がサウサンプトン大学の化学者であるマーティン・フライシュマンとユタ大学の化学者であるスタンレー・ポンズによって1989年に発表されました。この研究で両氏は「パラジウムとプラチナの電極を、重水の入った容器に入れて電流を流したところ、過剰な熱や中性子線が検出された」と主張しました。これが本当ならノーベル賞級の大発見です。
それまで高温・高圧環境が必要だった核融合反応が、なんと室温環境下で確認できたという報告は世界中に大きなインパクトを与えました。その後、多くの科学者がこの実験の追試(再現実験)を行いました。しかし、常温核融合を裏付ける再現例は報告されませんでした。そのため、フライシュマンとポンズの報告から始まる常温核融合は「20世紀最大の科学スキャンダル」と呼ばれることになりました。
常温核融合の存在は、ほとんどの科学者から懐疑的にみられていますが、それでも常温核融合の研究を続ける研究者は多く存在します。この研究は、それほど魅力的なのでしょう。
最近では、Googleの研究チームがマサチューセッツ工科大学やブリティッシュコロンビア大学、ローレンス・バークレー国立研究所の研究者と共同で「Revisiting the cold case of cold fusion(低温核融合という未解決問題を再考する)」というタイトルの論文を、2019年にNatureに発表しました。Natureでは、”20世紀最大の科学スキャンダル”以降、常温核融合の論文を掲載拒否していたので、かなり異例のことです。この研究では、フライシュマンとポンズの報告を裏付ける証拠は見つからなかったものの、「常温環境下でも、金属が局所的に高温になることで常温核融合が起こる可能性」を示唆しました。
日本でも常温核融合の火は消えていませんでした。
2つも記事は、両方とも日経XTECHという産業技術関係のネットニュースに掲載されたものですが、クリーンプラネットというベンチャー企業が当該技術を持っているようです。前者の記事では2023年(今年)に実用化とありますが、そのような製品は今のところで回っていません。下の記事では、2030年に量産体制に入るそうなので、長生きして自分の目で確かめたいと思います。
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