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♨漫遊記(番外編) テルマエ

 テルマエ(thermae) は、”熱い”という意味のギリシア語の形容詞 θερμός (thermós)に由来し、元々は温泉や熱いお湯をはった浴槽を意味しました。それが、ローマ帝国時代に大型化した公衆浴場を指すようになりました。

 テルマエは、ローマ人にとって生活の重要な一部だったようで、公の施設として建設され、貧富の差を問わず誰でも利用できたそうです。テルマエの中では、飲食、運動、読書、商売、哲学的議論などができたみたいです。さすがに”哲学的議論”ができる公衆浴場は日本にはありませんが、飲食や運動などができる浴場施設は各地にあります。このような施設が、数千年前に存在していたことが驚きです。

 『テルマエ・ロマエ』というマンガが少し前に流行りましたし、映画化もされたので”テルマエ”という言葉を聞いたことがある人は少なくないでしょう。ちなみにテルマエ・ロマエは”ローマの公衆浴場”という意味です。このテルマエ=thermaeと同じく、英語のthermo(熱)やthermal(熱の)の語源もギリシャ語のthermósです。このthermalに地球を表わすgeoという接頭語を付けたものが、”地熱の”を意味するgeothermalです。 地熱エネルギーは、英語ではgeothermal energyと言います。

 タイトル画はローマ帝国に支配されていた当時、イングランドのバース(Bath)に作られたテルマエです。勘の鋭い人ならわかったと思いますが、お風呂を表わす英単語bathは、地名のBathが由来です。このように、ローマ人は征服した各地にテルマエを作りました。ローマ人たちは本当にテルマエが大好きで、毎日のように通っていたそうです。ある時にローマの外から来た賓客が、ローマ人のテルマエ好きを知って、ローマ皇帝に尋ねたそうです。「なぜローマの人は1日1回、テルマエに行くのですか?」。ローマ皇帝はこう答えたと言われています。「1日に2回行くだけの時間をとれないからだ」。

 しかし、現在のイタリア・ローマでは”公衆浴場”の文化は完全に廃れています。昔のテルマエのような”公衆浴場”の文化を継承しているのは、世界でも温泉大国・日本だけです。

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