面白い理系専門用語 ”親子”編
専門用語とは、ある特定の職業に従事する者や、ある特定の学問の分野、業界等の間でのみ使用され、通用する言葉・用語群のことです。カタカナ英語では、テクニカルターム(technical term)とも言われます。
私の専門は物理探査学なので、物理探査学でのテクニカルタームも数多くありますが、ここでは理系専門用語での面白い例を紹介します。計測制御の分野では、計測全体を制御する親機と、親機の命令で測定を実施する子機があります。親機はマスター(master)と言い、子機はスレーブ(slave)と言います。カタカナで書くと意味がよく分かりませんが、直訳するとマスターは”ご主人様”で、スレーブは”奴隷/使用人”です。
マスター&スレーブと似た関係に、クライアント&サーバーがあります。サーバー(server)は、サービスを利用者のリクエストに応じて提供するソフトウェア、またはその機能が稼働しているコンピュータのことを指します。クライアント(client)はサーバーに接続された子機のようなものですが、クライアントはそれぞれ独立していて、そのクライアントからの要求に対して、サーバーは情報や処理結果を提供します。マスター&スレーブは、マスターからの一方的な依存関係ですが、クライアント&サーバーでは、サーバーを介して接続されたクライアント同志は平等です。
計測制御の世界にはかわいらしい専門用語があります。それはデイジーチェイン(daisy chain)です。本来のデイジーチェインは、デイジー(daisy: ヒナ菊)でつくったチェイン(chain: 鎖)のことで、子供が作るヒナ菊の王冠や首飾りのようなものです。計測制御のデイジーチェインは、計測器を数珠つなぎにする接続法です。最近はあまり見かけませんが、GPIBなどのインターフェイスを使った接続がデイジーチェイン接続です。
コンピュータと関係のない核物理学の分野でも、親子関係を示す言葉があります。それは、親核種と娘核種です。放射性鉱物はアルファ崩壊やベータ崩壊を繰り返しながら、安定した元素へと次々と形を変えていきます。この時、崩壊前の核種を親核種といい、崩壊前の核種を娘核種と言います。親と娘という関係はちょっと変な気がしますが、これは英語のparent nuclideとdaughter nuclideを日本語に直訳したためです。
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