電気探査
私達の快適な日常生活には電気が欠かせません。電気に関する最も古い記述は,紀元前600年頃の古代ギリシャのタレスによる琥珀の静電気についての記述だと言われています。しかし,電気現象の科学としての進歩が見られるのは17世紀以降のようです。電気を実用化できたのはさらに後のことで,産業や日常生活で使われるようになったのは19世紀後半です。電池を触っていたファラデーへの「そんな役にも立たないつまらないことをして何になるんですか?」という貴婦人の質問に,「生まれたばかりの赤ん坊が何の役に立つというのですか?」と答えたファラデーの逸話が印象的です。その後急速な技術の発展によって,交通機関の動力源,空気調和,照明などの多くの用途が生まれ,産業や社会が大きく変化することになりました。また,電気通信やコンピュータなどが開発され,このようなブログも広く普及しています。
電気探査とは,地下を構成する物質の電気的性質を測定する事によって,地下構造を把握する方法です。電気探査は,1950年代の地下水や鉱山の探査から始まり,現在では土木分野などに広く利用されています。電気探査には比抵抗法,自然電位法(SP法),強制分極法(IP法)などがありますが,現在では調査目的に応じた様々な探査方法が考案・実施されています。国内の地熱資源探査の初期には,比抵抗法や自然電位法が活躍しました。土木の地盤調査では,比抵抗法が最も利用されています。地すべりの調査でも比抵抗法が利用されることが多く,2次元比抵抗探査が採用されることが多くなっています。
比抵抗とは"電流の流れ難さ"を表わす物理量です。比抵抗は物質固有の電気抵抗なので,長さや断面積などの物質の形状変化の影響を受けません。比抵抗法では,地表に設置した一対の電流電極から地下に電流を流して,もう一対の電位電極間の電位差を測定することによって,地下の平均的な比抵抗(見掛比抵抗)を計算します。見掛比抵抗は,測定された電位差と各電極の位置によって決まる電極間係数から計算できます。岩石や地層の比抵抗は,その構成鉱物の種類,乾湿の状態,風化・変質の状態,温度などによって変わるので,地下の比抵抗分布から地下構造を推定することができます。比抵抗法には様々な電極配置があり,代表的なものにウェンナー法,シュランベルジャー法,ダイポール・ダイポール法などがあります。また比抵抗は,着目する比抵抗分布によって,水平探査と垂直探査に分類できます。
自然電位法はSP(Self Potential)法とも言い,自然状態で地下に流れている電流によって生じる電位差の分布を測定する受動的な電気探査法です。 ある種の硫化物鉱床では,金属を含む鉱体の酸化・還元反応によって自発分極が発生します。この分極によって自然の電池が形成されて,地下に電流が流れます。これを鉱体電池と呼んでいます。日本での電気探査の歴史は,このSP法の研究から始まりました。また,大地の孔隙中を水が流れると,固液の境界面での電位差(ゼータ電位)に空間的な偏位が生じて流動電位が発生します。地すべり探査では,地下水の移動に伴って発生するこの流動電位を測定して地下水経路を推定します。この他にもSP法は地下水・温泉探査に利用されています。
流体流動電位法は,流電電位法の電極配置を応用した地下浸透流の挙動を直接モニタリングするための九州大学オリジナルの方法です。この方法は,既存の坑井のケーシングパイプを利用して地下深部まで電流を流し,あらかじめ地表面に設置した多数の電位電極で同時に測定される人工電位分布と自然電位分布から,地下浸透流の動的挙動を可視化するための4次元探査法です。地熱分野では,高温岩体発電に必要な人工フラクチャー造成のために実施される水圧破砕と同時にこの方法を行なうことで,新規のフラクチャーに沿った流体の流動に伴う自然電位変化を捉えることに成功しています。さらに,地熱井の蒸気生産の開始時や,熱水の還元開始時または定期点検時などと同期して実施することにより,地熱貯留層の地熱流体の分布および経時変化を捉えるフィールド実験にも成功しています。また石油の分野でも,石油の水蒸気攻法時と同時に長期間実施した流体流動電位法の連続測定で,高温の水蒸気によって粘性が低下したオイルサンド中の重質油の流動状態および流動方向を推定することができました。このように,流体流動電位法は多くのフィールドで地下浸透流の動的挙動を直接把握するモニタリング探査法として利用されています。
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