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ぶったん四方山話#9 カナダのオイルサンド見学の思い出

 カナダのアサバスカ地方には、広大なオイルサンドの鉱床が広がっています。オイルサンドとは、極めて粘性の高い原油成分を含む砂岩のことです。原油を含んだ砂岩が地表に露出、もしくは地表付近で地下水などと反応し、揮発成分を失ったものと考えられています。オイルサンドの色は黒ずんでいて、石油臭を放つことが特徴です。

 地表近くのオイルサンドは、タイトル画のように露天掘りによって採掘されます。しかし、地下深部にあるオイルサンド層は、露天掘りするにはコストがかかり過ぎます。そのため、オイルサンド層ま複数の坑井を掘削し、一方の坑井から水蒸気を圧入し、他方の坑井から粘性が高くなった原油成分を取り出す方法(Huff and Puff recovery technique)が考案されました。この方法は、現在では2本の水平坑井をオイルサンド層内に掘削して採油する手法(SAGD法) へと引き継がれています。

 流体流動電位法で、オイルサンドからの原油生産をモニタリングするための実験を実施するため、カナダのフォートマクマレーという場所に行ったことがありました。これは石油資源開発(株)との共同研究で、九大からは私を含めた3名が参加しました。実験の初期段階では、電線の張り直し等のトラブルもありましたが、その後は順調に実験が実施できました。

 フォートマクマレーでは、Syncrude社という会社が、オイルサンドを採掘し、そのオイルサンド中の油から合成原油を生産していました。そもそもSyncrudeというのはsynthetic crude oil(合成原油)をモジって作られた会社名です。流体流動電位法の実験準備が終わって帰国する前に、そのSyncrude社を見学しました。

 Syncrude社の敷地は広大で、全てを見ることはできませんでしたが、工場見学担当の女性社員が我々を案内してくれました。その女性社員は堂々としていて「我が社では・・・(実際は英語です)」のように、滔々と説明してくれました。その説明の中で印象に残ったのは、環境保護の取り組みでした。オイルサンドは露天掘りですから、地面を掘り返します。しかし、そのままの状態では環境が大きく変わってしまいます。そこで、手間がかかりますが以下のような手順でオイルサンドを採掘します。

 最初に、バッファローなどの野生動物を捕獲して、別の場所に移動させます。次に、地表に生えている地衣蘚苔類を丁寧にはがして、別の場所で保管しておきます。それから、オイルサンド層までの表土を採掘し、これも別の場所に保管します。最後にオイルサンドを露天採掘します。しかし、これで終わりではありません。この後、オイルサンドからオイルを除いたサンド(砂)を元の場所に戻します。さらに、表土層、地衣蘚苔類の順番で元に戻していきます。最後に、ある期間養生した後に、野生生物を元の場所に戻します。

 この話を聞いた時に、環境に配慮し、手間暇かけて事業を行なっていることを知りました。このような手間にはコストがかかります。そのため、原油価格が安い時には、合成原油は価格競争で負けてしまいます。ただし、原油の価格高騰が継続する今は特に問題ありません。

 世界211か国の原油埋蔵量のランキングの1位はベネズエラ・ボリバル共和国(2976億バレル)、2位はサウジアラビア(2679億バレル)、3位はカナダ(1731億バレル)です。ベネズエラとカナダが上位に入っているのは、通常の原油に加えて膨大なオイルサンド鉱床を有しているためです。ちなみに日本の原油埋蔵量は4412万バレルで、世界ランキングの順位は79位です。

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