月に行くより難しい地下世界
アメリカのアポロ計画は、アメリカ航空宇宙局(NASA)による人類初の月への有人宇宙飛行計画です。1961年から1972年にかけて実施され、全部で6回の有人月面着陸に成功しました。最初のアームストロング船長の時には、小学校の教室に設置してあるテレビで見ました。月面着陸は、人類が初めて有人宇宙船により地球以外の天体に到達した、人類史における科学技術の偉大な業績です。地球から月までの距離は38万kmですが、人類の英知を集結して到達することが出来ました。
しかし、いまだに到達できない世界が我々の足元に広がっています。いまでは忘れられていますが、アポロ計画と同時期にスタートしたモホール計画というもう一つの国家プロジェクトがありました。モホール計画は、地球の地殻を貫いて、地殻とマントルの境界であるモホロビチッチ不連続面まで掘削を行おうというアメリカ合衆国の大計画です。この計画は、当時、宇宙開発競争でソビエト連邦に遅れ取ったことを、地球科学で挽回しようという目的で計画されました。
モホロビチッチ不連続面(通称モホ面)までの深さは、大陸プレートでは50km、海洋プレートでも15~20km程度はあります。モホール計画では、アメリカ国立科学財団が資金援助をし、海洋での掘削が行なわれました。しかし、モホール計画は運営の不手際と予算の超過のため1966年に頓挫してしまいました。ただし、この時に開発された海洋底掘削技術は、その後の海底油田の掘削や生産技術に貢献しています。
現在最も深い井戸は、ロシアにあるコラ半島超深度掘削坑で、当時のソビエト連邦が地球の地殻深部を調べるために掘削しました。1970年に開始された掘削は、1989年には12,262mに達し、今も地球上で最も深い人工地点です。もちろん、これはボーリングロッドの先端が到達しただけで、人類はいまだに10kmの地下さえ到達できていません。
タイトル図は、ジュール・ベルヌが書いた『地底旅行』という古典的なSF冒険小説の挿絵です。この本では、地球内部は空洞になっていて、「アイスランドのスネッフェルス山の頂にある火口の中を降りていけば、地球の中心にたどり着くことができる」ことになっています。アイスランドはプレートの湧き出し口に位置している唯一の島なので、まだプレートテクトニクスを知らない時代に、アイスランドに目を付けたジュール・ベルヌはただ者ではありません。
地球の密度や地震波の観測などからも、地球内部に大きな空洞があるとは考え憎いのですが、大木のようなキノコが繁茂している地球空洞説は、ファンタジーとしては面白いと思います。