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ぶったん四方山話#5 カナダの寒さを舐めてました

 カナダのアサバスカ地方には、オイルサンドと呼ばれる重質油を含んだ砂層が広範囲に存在します。オイルサンドから油を回収する方法には2通りあります。一つは、露天掘りでオイルサンド層からオイルサンドを採掘する標準的な方法です。この方法は単純ですが、次のような大規模な工事が必要です。最初に、地表の地衣蘚苔類を取り除きます。つぎに、オイルサンド層までの表土層をはぎ取ります。このときのコケや表土は後で戻すので、どこかに保管しておく必要があります。最後にオイルサンドを採掘します。このオイルサンドに含まれる重質油を回収して、合成油を作ります。原油価格が低い時にはオイルサンドからの合成油は商業的に成立しませんでしたが、石油価格が高い場合は十分にペイします。油を取った後の砂は、元の地層に戻し、表土を被せて、さらにコケ類を戻します。この作業をリハビリテーションと言います。

 もう一つの方法は、オイルサンド層はそのままにして、複数の坑井(井戸)を掘って、一つの坑井から蒸気を入れて重質油の粘性を下げ、そのほかの坑井から油を回収する方法です。この油の回収過程をモニタリングするため、カナダのオイルサンドの現場で、流体流動電位法の実験をすることになりました。場所は、カナダ・アサバスカ州の北部にあるフォート・マクマレーです。私たちが実験で訪れた時は小さな田舎町でしたが、その後は、オイルサンドの開発とともに町が大きくなりました。

 フォート・マクマレーは、周りが数百kmもの針葉樹林に囲まれています。このため、夏はアウトドアのキャンプ、冬はクロスカントリースキーが楽しめます。また、北極圏に近いので、9月下旬から5月上旬までは、自然が繰り広げる光のショーとも言えるオーロラを観察することができます。私達が行った時にはありませんでしたが、現在ではオイルサンド・ディスカバリー・センターという教育的施設ができて、ブーツやヘルメット無しでオイルサンドの歴史、科学、技術を体験することができます。

 調査の時期は10月でしたが、昼間でも最高気温が0℃でした。現地について、流体流動電位法の測定準備のため、日本から持ってきたビニール電線を使って、基準電極となる遠電極までの数kmの電線張りの作業を始めました。やっと電線を張り終えて、測定本部までゆっくりと戻っていると、先ほど張った電線を現地のエンジニアが回収していました。「せっかく張った電線をどうして回収するんだ?」と聞くと、「この電線ではだめだ。寒さに耐えられない」と言われました。現地の耐寒仕様の電線を見せてもらうと、我々が持ってきた電線とは明らかに違って、被覆が固いビニール製でした。この電線だと-40℃までは大丈夫だと言われました。忸怩たる思いでしたが、その後の作業は現地のエンジニアに任せました。

 普段、暖かい九州で暮らしていると-40℃の世界は想像できません。フィールド調査で、また一つ貴重な経験を積みました。

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