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『キュリー温度』の思い出

 実家のお風呂が一時期、五右衛門風呂だったこともあり、実家にいた頃は風呂焚きが私の仕事でした。お風呂の焚口では、廃材を薪替りに使うのですが、廃材なので釘などが刺さっている場合があります。ある時、焚口から灰を掃除していた時に、灰と一緒に出てきた釘が”弱い磁石”になっていることを発見しました。その時には、「釘(鉄)は温度を上げると磁石になるんだ」と思いました。”温度を上げると磁気が上昇する”と思った私は、友人にその話をしました。

 友人は、磁石の磁力を大きくしようと目論んで、自分の持っていた大きな磁石を、コンロで焙って加熱したそうです。しかし、加熱によって磁石の磁力が殆どなくなってしまったそうです。この話を聞いて「どうしてなんだろう?」と不思議に思いました。この時は”お馬鹿な中学生”だったので、その理由がわからないまま、いつの間にかこの事を忘れていました。

 ずいぶん時間が経った頃、磁気探査の勉強をしていた時に『キュリー温度』という物理現象を知り、「あの時の現象は、このことだったんだ!」と、過去の記憶が蘇りました。

 鉄やニッケルなどの強磁性体は、外部から強い磁場をかけると誘導磁化により磁化します。外部磁場が強いと、その後で外部磁場をゼロにしても、磁化がゼロのならずに残留します。これが等温残留磁化です。このような強い残留磁化を持ったものが、(永久)磁石と呼ばれます。ただし、この磁石の磁力も温度が変わると、磁化が変化します。タイトル画のように、温度を上昇させると、”磁化強度は減少”します。さらに温度を上げると、”磁化が消滅”します。この磁化が消滅する温度が、この現象の発見者であるピエール・キュリーの名前を冠してキュリー温度と呼ばれます。

 キュリー温度以上に加熱された強磁性体は、一旦磁化を失いますが、冷却過程で地球磁場によって磁化されます。これが熱残留磁化の機構です。私が中学生の時に発見した”釘の磁石”は、熱残留磁気を帯びた釘だったのです。友人が磁石を過熱した温度は、たぶんキュリー温度を超えない高温だったので、磁石の磁化が殆ど無くなったわけです。10年以上たって、謎の現象が解明できました(当時)。

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