合成石油の話
前回の記事では、”人工石油”の記事を書きました。人工石油は、二酸化炭素や水を原料として作り出された石油に類した燃料です。今回の話は、ちょっとややこしいのですが”合成石油”の話です。
合成石油(合成原油)は、人造石油(artificial petroleum)とも呼ばれ、オイルサンド・オイルシェール・石炭などの炭化水素資源を原料として生産される合成液体燃料です。液化した石炭は商業的にはまだ実用化されていませんが、第2次大戦の戦前から戦中にかけて、石油資源に乏しいドイツや日本などで盛んに研究がすすめられました。
第二次大戦後は、中東での豊富な石油資源の開発によって、合成石油事業は経済的には成立しなくなり一時は殆ど消えかけていました。しかし、1970年代の石油危機(オイルショック)以降、研究開発が再開されました。石炭からの合成石油は最近ではあまり聞きませんが、石油合成を通り越した”ガス化”の研究が現在では勧められています。ただし、まだまだ実用化の段階には至っていません。
合成石油が商業的に成立しているのは、カナダのオイルサンドからの合成石油と、ベネズエラのオリノコタールからの合成石油です。どちらも粘性の高い重質油ですが、原油価格の高騰によって商業的に利益が出るようになっています。以前の記事にも書きましたが、石油埋蔵量のランキングでベネズエラが1位、カナダが3位になっているのは、オイルサンドやオリノコタールのお陰です。
カナダのオイルサンドは、アサバスカ州という場所に広範囲で分布しています。私は30年くらい前に行ったことがありますが、その時には小さかった北極圏に近い街・フォートマクマレーが、いまではかなり大きな町になっているそうです。ここには、Syncrude(シンクルード)社というオイルサンドの会社があって、その時に見学に行ったことがあります。社名であるSyncrudeというのは、合成石油(synthetic crude oil)に由来します。
シンクルード社の見学では、女性社員が説明してくれて、「我社では・・・」という堂々としたプレゼンに感心した記憶があります。もちろん、説明はすべて英語でしたが・・・。その当時、シンクルード社では、露天掘りしたオイルサンドから合成石油を取り出していました。またその頃から、地中にあるオイルサンドから重質油だけを取り出す研究も始まっていました。
いまでも、この時にお土産でもらったオイルサンドのサンプルを大事に持っています。