アメーバと経営と研究
アメーバ(ameba)は、単細胞で基本的に鞭毛や繊毛を持たず、仮足で運動する原生生物の総称です。大きさは、1mmを越えるものもあるが、多くは10-100μm程度です。アメーバは基本的に鞭毛や繊毛を持たないので、移動の際には、細胞内の原形質流動によって、その形を変えるようにして動きます。この運動のことを、アメーバ運動と言います。
この常に形を変える柔軟性の象徴として、アメーバを冠した経営方があります。これが、最近鬼籍に入られた京セラ創業者・稲盛和夫さんが提唱・実践したアメーバ経営です。アメーバ経営とは、組織を小集団に分け、市場に直結した独立採算制により運営し、経営者意識を持ったリーダーを社内に育成すると同時に、全従業員が経営に参画する”全員参加経営”を実現する独自の経営管理手法です。アメーバ経営は、本家の京セラをはじめ、稲盛さんが創業したKDDIや再建に携わがった日本航空など約700社に導入されているそうです。
アメーバ経営では、組織をアメーバと呼ぶ小集団に分けます。各アメーバのリーダーは、それぞれが中心となって自らのアメーバの計画を立て、メンバー全員が知恵を絞り、努力することで、アメーバの目標を達成していきます。そうすることで、現場の社員ひとりひとりが主役となり、自主的に経営に参加する全員参加経営が実現できるのだそうです。私は経営のことは全くの素人なので、「へぇ~、そうなんだ」くらいの理解度しかありません。
最近はよく、『選択と集中』という耳障りの良いキーワードが使われますが、これは”選択”が間違っていない時にしか、効力を発揮しません。人間が選択するわけですから、失敗も数多くあります。そんな時には、選択と集中は何の役にも立ちません。”トップダウン経営”と”選択と集中”が組み合わさった時、トップの判断が適切ならば、企業は大きな利潤を上げることができます。一方、トップの判断が間違えば、一気に業績は傾きます。例に出して申し訳ないのですが、シャープは液晶事業に集中し過ぎて業績が悪化し、外資に買われてしまいました。また三菱電機も、原子力部門などの不採算部門の業績悪化によって、最も採算性の高い半導体部門を売る羽目になりました。どちらもトップダウンの失敗です。
『選択と集中』は両刃の剣で、良い場合と悪い場合が極端な結果となります。その点、アメーバ経営では多様性のある小グループ単位なので、小グループのいくつかが不採算になっても、全体に与える影響は少ないのです。アメーバ経営の説明では、全員参加型経営がクローズアップされますが、アメーバ経営の本質(神髄)は、実はこのようなリスクヘッジ(リスクの分散)にあるのではないかと考えています。
大学や企業の研究でも、『選択と集中』が好まれていますが、個人的には大間違いなやり方ではないかと思っています。特に基礎研究の場合は、のちのち何が役に立つかはすぐに判断できない場合が多いので、”選択せずに”種々の研究を実施するのが良いやり方だと考えます。語弊があるかもしれませんが、研究には無駄(失敗)がつきものなのです。優れた研究成果は、多くの無駄(失敗)の上に成り立っています。
九州大学には、(財)稲盛財団より寄贈頂いた稲盛財団記念館という施設があります。この記念館は、世界中の人が集い交流を深めながら人類と社会の進歩発展に貢献するための”知の新世紀を拓く”新しい教育研究拠点として、学会・研究会・講演会等に利用されています。稲盛財団の設立にご尽力された稲盛和夫さんのご冥福を心よりお祈りいたします。