地熱発電所巡り(番外編) 奥尻地熱発電所
九州から、いきなり北海道に飛んで申し訳ありません。しかも奥尻島という離島です。離島での地熱発電は珍しく、日本では東京都の八丈島に続き、2例目です。ただし、八丈島の地熱発電所は現在休止中で、別の新しい地熱発電所が準備中です。
北海道南西部の離島・奥尻島には、越森石油電器商会が運営する地熱発電所(250kW)が、奥尻島のかつて硫黄鉱山だった山間部にあります。この地熱発電所は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から譲り受けた地熱坑井(こうせい)の熱水を活用して、バイナリー方式の発電を行なっています。バイナリー方式というのは、水蒸気の替りに、沸点の低い代替フロンなどの低沸点媒体を加熱し、その蒸気で発電用のタービンを回す発電方式です。通常の地熱発電では200℃以上の地熱蒸気が必要ですが、バイナリー発電では、これより低い温度でも発電が可能です。
もう随分前の話なので、若い人は知らないと思いますが、奥尻島は北海道南西沖地震の時の津波と火災で、大きな被害を受けました。我々の研究室では、そのちょうど1年後に奥尻島での調査をする機会がありました。この時は、まだその傷跡が残っていて、大きな被害を受けた沿岸部の集落を目の当たりにしました。私たちは、バブル景気の香りが残る奥尻島唯一のリゾートホテルに泊まりましたが、室内プールには大きなヒビが入り使えませんし、所々の壁にはX型の大きな亀裂も目立っていました。
宿泊した初日は、次の日が1周忌の慰霊祭だったので、テレビや新聞の報道陣でホテルはほぼ満室でした。1周忌のせいかは分かりませんが、初日の夕食メニューは「どれがメインディッシュ?。この厚揚げ?」と思えるくらい質素な内容でした。しかし、報道陣が返った後はどんどん夕食が豪華になって、4泊目の最後にはステーキが出てきました。
奥尻島の地熱調査では、流電電位法を実施しました。流電電位法では地熱坑井を使って地下に電気を流すのですが、現在バイナリー発電に使われている井戸が、その時の探査に使った井戸です。流電電位法調査では、坑井周辺の比抵抗分布を調べるのですが、測定点の移動途中では”硫黄鉱山”の跡らしい、地表に硫黄が析出している場所にも遭遇しました。
流電電位法のような電気探査には、大量の電線(ビニール線)が必要ですが、この時には200万円分の電線を購入して調査に臨みました。奥尻島は地形の起伏が激しく、さらに背の高い熊笹が茂っているなど、探査には悪条件が重なっていましたが、いまでは良い思い出です。