映画を観た記録7 2025年1月4日 アレクサンドル・ソクーロフ『フランコフォニア/ルーブルの記憶』
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本作は、ロシアの巨匠ソクーロフ監督がルーブル美術館をたたえるフィクションでもなければドキュメンタリーでもない。ルーブル美術館と芸術を勉強したいのでざーますという人が見ると期待外れどころか怒り狂うかもしれない。NHK日曜美術館を期待するような人がな見ると、怒って発狂してしまうかもしれない。
本作は、ロシアの映画監督アレクサンドル・ソクーロフがフランス語でルーブル美術館と国家権力の関係をモノローグで送る映画のエッセーである。
冒頭から、ソクーロフ監督は、トルストイの死体写真、チェーホフの死体写真を見せて、トルストイさん起きてください、チェーホフさん起きてくださいという言葉を発し、マリアンヌという女性がルーブル美術館を歩き回り、Liberté, Égalité, Fraternité(自由、平等、博愛)と踊りながら叫ばせ、その叫びにソクーロフは、え、なんだってLiberté, Égalité, Fraternité(自由、平等、博愛)だって?と返答するとてもユニークな語りもある知的な映画である。そして、本作は、海外美術品が船で運搬していることに驚き、大波の時化の中、船を動かす船長と連絡を取って心配するという寸劇まで行うのである。実に、実にユニーク、チャーミング、インテリジェンスあふれる映画である。
そして、アドルフ・ヒトラーがルーブル美術館のまえに来て「素晴らしい」という実写フィルムをときにはつなげるとても興味深い映画である。
フランスに侵攻したナチス・ドイツの文化財保護担当メッテルニッヒ伯爵とルーブル美術館所ジョジャール館長との関係を中心に美術と権力という大きなテーマについてソクーロフ監督がフランス語でモノローグとして語るというとても日本の遅れた映画人にできない素晴らしすぎる映画である。
美術と権力の関係について巡るエッセー形式の映画なので、当然ながらルーブル宮殿をルーブル美術館に作り替えた皇帝ナポレオンにも言及する。皇帝ナポレオンに扮した男が、ナポレオンの肖像画に描かれている帽子をかぶり、皇帝ナポレオンが描かれた絵画を見せて、「これがわしじゃ」と語らせらたり、別のナポレオンが描かれている絵画に「これがわしじゃ」と言わせたあと、皇帝ナポレオンがジーっと絵画をみると「プロイセン人が混じっている」と落胆し、ソクーロフはナポレオンに向かい「卑劣なプロイセン人と言っていましたよね?」と問うと皇帝ナポレオンが横になり眠りこけてしまうのである。
本作についてあれこれ書き連ねるのはここまでにする。
本作は、美術と権力を巡るソクーロフ監督がルーブル美術館を材料に考察をフランス語でモノローグするという極めて独自性が高い挑戦的な一作である。
素晴らしいとしか言いようがない。
本作こそ、美術そのものである。