ユーザーを属性ではなく課題でとらえる
前回の記事では、ユーザーインタビューの失敗を通じて、じゃないほう起業家はマーケットサイズを先に考えたほうがいいという結論に至った。
本記事では、マーケットを大きく捉えるために実施したユーザーインタビューのPDCAを振り返る。
課題を軸足に、顧客を変える
マーケットを大きくするために考えることは、顧客数が多いところに事業アイデアを当てはめることじゃない。顧客となるユーザーを属性で判断せずに、課題で捉えることが重要だ。
「あれ?こういう属性のユーザーにも私が考えているプロダクトが役に立つんじゃないか?」という発想で、顧客を変えていく。
顧客を変えてみた
まずはじめに、顧客属性を人数の多いものに変更してユーザーインタビューを再開した。
顧客の属性を変える
データサイエンティストを雇用している企業は少ない。東京ですら数えるほどしか無い。まして、データ分析部署として組織化されている会社の数でいえば…どれだけ顧客単価を上げたとしてもIPOは現実的ではない。
そこで、データサイエンティストやデータ分析部署を「データを使ってお仕事する会社員」と考えた。そして、「データを使ってお仕事する会社員」でデータサイエンティスト以外の職種、特に人数が多くてどこの企業にもいそうな職種を考えた。マーケティング担当者だった。
マーケティング担当者の数は圧倒的に多い。中小企業でもマーケティングを行っている会社員もいる。顧客数が大きくなったのでマーケットサイズが大きくなった。
ソリューションが思い浮かばなくなる
職種を変えて課題インタビューを実施すると、想定外の壁にぶち当たった。インタビューで課題をヒアリングしても、その課題を解決するための事業アイデアが全く思い浮かばなくなっていた。
データサイエンティストとして働いた実務経験での葛藤、大企業のデータ分析組織をこの目で見ていた現場を知っている感じ。こういうものがマーケティング領域にはなかった。とにかく課題に対してリアリティを持てなかった。リクルート的に言えば当事者意識を持てなかったし、前回の記事のたとえでいうと、救いたいと思えない患者に見えてきていた。
やれやれだ。自分は本当に商人じゃないとおもった。顧客数が多いところで事業アイデアを考えるって決めたはずなのに、全然やる気にならない。起業家としての人生が一瞬でつまらなくなった。
製品を変える
職種で絞り込むことによって苦しむのであれば、売りたい人ではなく売る製品にフォーカスして考え直そう。
圧倒的汎用性を持った事業アイデアにする
NotionやSlackなど北米で急成長したサービスって、こんなにリーンに顧客開発していただろうか?どうしても信じ難かった。考えてみると、NotionやSlackは職種という垣根を越えて利用できる。顧客になる顧客属性の幅がとても広いことに気づいた。
誰もが気軽に使えるデータ活用のソリューションアイデアならぽこぽこ出てきた。データ活用に特化したZapierみたいなiPaaS事業をやろう!みたいな感じで色々考えた。
現状のリソースでカバーできない問題
これをやると何が起こるか?事業アイデアを考える分には、クリエイティビティがあって楽しい。しかし、顧客属性の幅が広くなりすぎて、だれにインタビューすべきかわからなくなる。リーン顧客開発が最適じゃーない。
これだけではない。汎用性の高いプロダクトは得てしてプロダクト品質が高い。今の弊社のリソースでは求められる品質をカバーできない。せっかくリーンスタートアップをやるためにチームを作ったのに、そのチームのリソースでは不足しているならば、チームを作っていないことと同じだ。
汎用性を高くする方法はアイデアは思い浮かぶものの…やはり非現実的だった。限られたリソースで最大限インパクトのあるソリューションを考えないといけない…。
課題を軸足に、顧客を変える
とあるユーザーインタビューのフィードバックに気づきを得る
ユーザーインタビューを振り返ってみると、こういうフィードバックをしてくれたユーザーがいた。ここに大きな気づきがあった。
顧客開発は、課題が一緒であるパターンを探すこと?
名探偵コナンのコナン君のように、頭にピーンって光がピーンってなった。
これまでのインタビューでは、自分が抱えている課題とユーザーの抱えている課題が一致していなかった。だから苦しかった。ソリューションアイデアが思い浮かばないし、救いたい人の数は増える見込みがない。
大学院生はどうだろう?まだ検証はできてないけれど、データサイエンティストとして働いている自分が抱えている課題と一致していた。
例えば、俺は難病患者を救いたくて医者になったのに研究費も集まらなくて苦労している。全く人を救えないなら意味なんて無いから、患者数の多いがん治療の専門医に専門領域を変えようと思ったわけだ。でもがん治療に取り組むモチベーションなんて湧かなかった。
難病患者を救えないって極端な回答を出していたけれど、同じような課題をもった患者がいることに気づこうとしていなかった。明らかに、自分自身でマーケットサイズを小さくしていた。
課題感はピボットしなくていい
課題に対する問題意識の強さを捨てちゃいけない
ユーザーインタビューが苦しかったのは、起業した理由を捨てている感じがしたからだとおもう。起業家は起業した理由を捨てちゃいけない。
もっと多くの人を救えるように考えよう
そのうえで、自分がスタートアップ起業家としてビジネスセンスを磨くために重要だった学びは、「課題は特定のユーザーのためのものじゃない」と考えることだ。自分が考えている課題はもっと多くの人を救えるんだっていう発想を持つことが重要だ。
このソリューションはデータ分析組織ではたらく分析者の人たちのためにある。データ分析組織は今は少なくてもこれから必ず増えてくるだろう。だから今のうちにやっておくべきなんだ!って思っていた。
やっと入社できた会社を副業禁止だったから退職した。数年後、その会社は副業推進するようになった。自分の先見性にちょっぴり自負があった。それに問題を現場で体感していた。絶対に解決したいと思う気持ちも強かったから起業したわけだ。でも、思いが強すぎて視野が狭くなっていた。
ビジョンっていうやつも、わかってきたかもしれない
この気づきがあってから、会社が掲げる「ビジョン」っていうのが腹落ちしてきた。ビジョンっていうのは一つの事業で救える顧客の幅を広く捉えられる世界観を言葉に直したものだとおもった。
ずっとエモいビジョンとか書けないよって思っていた。具体性のないビジョナリー()な人って苦手だって思っていた。でも、大きく捉えることは事業の可能性を高めることでもあるんだなって思えた。
そして、課題感は変えずに顧客属性を変えるユーザーインタビュー(3度目の正直)に挑む。(続)
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