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採用は審査じゃない。合意だ

アドベントカレンダー4日目は、はじめての採用活動を通じて学んだことを振り返る。

0→1フェーズの採用でやってはいけないこと

0→1フェーズの起業家がチームを作るために採用するときに絶対にやってはいけないことがある。候補人材を並べてスキルを比較し審査することだ。少なくとも最後にやるべきで、最初にやることではない。そういう結論に至った考えをまとめる。

手段よりも最適な手順・順序を考える

わたしは何か一番だと自信をもてるスキルセットがない。営業をやったこともある。採用面談もやったことがある。マーケティングはチラシを作ったこともあるし、リスティング広告を運用したこともある。悪くいえば器用貧乏で、良くいえばどんな業務も面白いって思えるタイプだ。

仕事をすると多くの課題にぶつかる。課題に対して解決策を考えるときに、最適な手段よりも前に最適な手順を考えると上手くいく

どんな業務にも最適な手順があるから、それを考えているとどんな業務も面白く感じる。

意外と、何も考えずに、なんとなく候補者のスキルを見てる?

気づいたことがある。まず、候補者の学歴・職歴・実務経験というスキルを見る人が異常に多い。完全に主観的な意見だが、大企業出身者の採用担当者や大手人材紹介会社出身者はこの傾向が強い印象だ。彼らは書類を見るときにスペックを見て判断し、面談日を設定する。

この手順は大企業や大手人材紹介企業のように、候補者のプールが大きく採用側が優位な立場であるときは機能するかも知れない。0→1フェーズの採用ではおそらく機能しない手順だ。特に複業人材の採用では失敗するだろう。

採用手順やテクニックには流儀がある。他の手法やテクニックを否定するつもりもない。正解は複数あっていい。自分の頭で考えた複業人材採用の手順を振り返るのみである。

エンジニア採用の前準備

0→1フェーズで最も大切なことは、応募者と交渉しないことである。たとえば、0→1フェーズの起業家は他社と契約単価で勝てない。だから戦わないということだ。戦わずして勝とう。そのために、開発計画を立てる。重要な前準備だ。採用活動はここからすでに始まっている。

1 開発予算を決める

開発コストは実際にやってみなければ算出できない。いつだって予算はズレる。帰納的に決まるものだ。0の段階の起業家ならば、そんなもの不可能だと答えるかも知れない。こういう類の問題は、正解に幅を持たせて解決する。緻密にやるだけ時間の無駄だ。

開発予算はシンプルなかけ算で考える。「エンジニアの希望単価(月給)」×「開発期間」で算出する。

厳密にいえば、開発コストには人件費以外の費用も含まれる。しかし、0→1フェーズで会社を設立している場合、Amazon社AWSやMicrosoft社Azureといったクラウドサービスを利用することで開発に利用するサービス費用を極限まで無料に近づけることが可能だ。Webアプリケーション開発のタスク管理、仕様書などのドキュメントを作成するツールやサービスも無料の範囲内で乗り越えられる。

1.1 気になるエンジニアの月給にフォーカスする

まず、なんとなく気になったエンジニアの希望単価(時給あるいは月給)を見てみよう。Webアプリケーション開発のフルスタックエンジニアの相場は40万円〜120万円(平均70〜80万円)/月程度だろう。エンジニア自身の所属(会社員あるいはフリーランスか?)と複業案件に対する目的(収入増か?それとも経験獲得か?)、現在までの市場価値(これまでの案件単価や給与)によって相場に幅が生まれる。エンジニアのスキルセットは見ない。

1.2 プロダクトのリリース月を決める

次に、起業家自身が理想とするプロダクトのリリース月を決めよう。リリース月でよい。リリース日を決めてもズレる可能性が高いからだ。大体でいい。

リリース月はエンジニアさんに作りたいプロダクトを説明するときに必ず聞かれる。「何を作りたいのかはなんとなくわかりました。それで、いつまでに作りたいんですか?」と早晩聞かれることだろう。

1.3 開発予算を算出する

私の場合、気になったエンジニアの月給は85万円。採用活動を開始したのは4月。リリース目標月は7月だった。開発予算は、85万✕3ヶ月=255万円である。この時点で255万円にびっくりする起業家はお金を貯めたほうがよい。

開発期間は基本的に伸びる。開発予算がオーバーすることはあっても、節約できることなんてほとんどない。世の中をもっとよくしたい起業家であれば節約できた期間が生まれたら、エンジニアさんに新しい機能開発を依頼したくなる。

2 開発予算から候補人材を絞り込む

2.1 許容できる月額開発コストを決める

前述の通り、Webアプリケーション開発において開発期間はアンコントローラブルだ。起業家自身が開発できなければなおさらだ。エンジニアの月給は起業家自身がコントロールできる。問題が発生しているときにフォーカスすべきはコントロールできる要素だ。

たとえば、毎月85万円の支出があると考える。会社にとって、起業家にとってどれくらいメンタルにインパクトがあるだろうか。月商100万円の場合、開発コストだけで売上の85%を占める。自分の給与はどうする?地代家賃はどうだろう?ランニングコストを振り返る。毎月いくらまで開発に投資しても、起業家自身のメンタルが健康でいられるか?

実際、わたしは月給85万円のエンジニア採用をあきらめた。

2.2 決めた月額予算に合致したエンジニアを見つける

唯一コントローラブルであるエンジニアの人件費についてコントロールしてきた。投じれるエンジニアの人件費が決まると、人材プールから候補人材を十数名〜数十名まで絞り込める。

まだスキルセットは見ない。この時点で候補人材が一桁であった場合は、月額予算が少なすぎるかもしれない。無理のない経営を実現するために、資金源について再考し、月額予算を多少増額できるように工夫する。

3 候補者をセグメント化する

コスト的に問題がない候補者が最低10名以上集まったら、セグメントに分ける。セグメント化することで面談数を圧縮することが目的だ。

3.1 0→1フェーズの起業家は何人と面談できるか

人材採用は量が重要であることは言うまでもない。多くの人材と会ったほうが、合致する人材と出会える確率はあがる。しかし、0→1フェーズの起業家にとってもっと重要なことがある。起業家自身が面談に割ける時間に限界があることだ。

リクルート出身だったり、エージェント、成功しているスタートアップ起業家に採用に関するアドバイスを求めると面白いほどこう答える。

「採用に王道はない。たくさんの人と出会うことが重要だ。」

自分の頭で考えた。この回答は半分正解であり、半分間違っている。すでにチームがあって、収益をあげる体制が整っているフェーズの起業家は自分の業務時間を採用活動に充てられる。しかし、0→1フェーズの起業家は、営業、社内オフィス業務(税務、会計、各種申請など)、売上確保のための受託業務、すべてひとりでおこなう。そもそも、たくさんの候補人材がいても全員と十分に面談すること自体が非現実的なのだ。

ひとりで戦っている起業家は孤独だ。だから不安になる。すると、多くの候補者と面談することで、その不安を解消しようとする傾向がある。これは罠だ。絶対に引っかかっちゃいけない。0→1フェーズの起業家はリスクに対しては時間をかけて対処すべきだ。不安に対して時間を割くべきじゃない。不安は時間をかければ解消されるとは限らない

こういった背景から、候補人材を絞り込む必要があると考えた。そのために候補人材をセグメント化する。面談したいセグメントを決める。

3.1 会社員とフリーランスに分ける

巷の外資コンサルのように頭良さそうなセグメント化するつもりは毛頭ない。複業を希望している候補人材を会社員とフリーランスに分ける。常にシンプルに時間をかけずにセグメント化する。

なぜ、会社員とフリーランスに分けるのか?これは、わたしが面談していくなかで学習した主観的なノウハウだ。会社員とフリーランスでは、複業案件に対するモチベーションの源泉が異なる

特にお金に対する重要度が異なる。会社員は給与が低いという不満があっても来月の収入を心配していない。フリーランスは来月、再来月の収入を心配している。フリーランスは契約期間と契約単価に対する問題意識が会社員よりも強い。生活がかかっているのだから当然だ。

0→1フェーズで、複業人材によってチームを作るとはいえ立派な採用だ。採用って候補者の人生のすべてを決めるわけじゃない。でも、候補者の生活の方向性を決める。生活の方向性とは、その月の生活水準や働き方だ。残業が多くなれば、プライベートの時間を削ることになる。ご家庭を持っていれば、候補者本人以外にも影響を与える。候補者も同じ人間。生活がある。

契約期間が3ヶ月程度であれば、フリーランスにとっては不安だ。契約期間が3ヶ月ということは、1ヶ月目に仕事を始め、2ヶ月目にやっと慣れたと思えば、もう次の案件を探さないといけない不安が生まれる。3ヶ月目は契約最終月。契約更新のために現案件に対していつも以上にコミットしながら、リスクヘッジのために営業する必要がある。フリーランスの気持ちを考えれば、簡単に「3ヶ月でお願いします。」なんて言えない。

思いやれない想像力の乏しい起業家に、俺はなりたくない。

そうすると、会社員の候補人材のほうがマッチング率が高くなりそうだ。そういうわけで会社員とフリーランスの2つのセグメントに分ける。

3.2 稼働時間で分ける

複業人材は人によって稼働時間が異なる。例えば、時給5,000円人材で同程度のスキルセットをもった候補人材が2名いるとする。Aさんは会社員で残業が多めのスタートアップに勤務。土日のみ稼働なので週2日。Bさんは残業が少なくリモートワーク勤務。平日もスキマ時間で働けるので週4日。こういうパターンに分けられる。

稼働時間は起業家自身の事業の進め方の理想に合致するほうを選ぶ。週4日のほうが稼働時間が多いから、週2日と比べると当然進捗スピードは早い。しかし、Webアプリケーション開発はチームプレイ。起業家自身がコンセプトをアップデートしたり、画面イメージを作ったりする。そういう前準備があるから、エンジニアさんが開発に着手できる。もし、週5日で受託をやっている起業家は、週4日稼働のエンジニアさんが働きやすいように開発チケットを上手に渡せない可能性がある。チームとして最適な働き方を自分の頭で考える。まだまだ候補人材のスキルセットは見ない。

採用は審査じゃない。合意だ。

採用活動を通じて学んだことがある。採用って審査じゃなくて、合意なんだってことだ。

大学三年生の秋学期から就職活動をはじめた。インターンをしたり海外留学したり、良い企業に就職して親を安心させたかった。学生なりに取り組んだ。

多くの大企業の学歴フィルターに落とされた。多くの採用担当者にそれっぽいことをたくさん言われてきた。やっと書類選考が通過した。面接は完全に審査だった。内定をいただいた。社会人になると採用活動をやっている人事部は活躍していない社員が行く場所だなんていう大人も現れた。

こういう経験をしてしまうと、採用する側になったときに偉そうに審査してしまいそうになる。でもこれは間違いだって気づいた。採用はNizi Projectじゃない。応募者よりも採用担当者が偉いだなんてことも絶対にない。

仕事を探している人たちには夢や目標がある。社会に出て数年経つと結婚したり、やりたいことが増えたりする。彼彼女にとっての理想の生活、守るべき生活がある。応募者が理想や守りたいものを採用する側が否定する権利も審査する権利もない。

採用の面談は審査でもなければ、交渉でもない。合致することが重要だ。

「そういう考えなんですね、わかるかる。私もそう思います。」
「これくらい稼ぎたいんですね。私もこれくらいの支出なら高いとは思いません。」
「こういう仕事がしたいんですね。ちょうど私もその仕事をしたいって思う人を探しているんです。」

こんな感じで対話することが採用なんだだっておもった。

そうやって合致するためには、0→1フェーズの起業家自身が「投じれる予算」「働いて欲しい期間」を事前に具体的なものにする必要がある。そうした前準備を怠っている自分を棚に上げて、好みじゃないとスペックを見てはいけない。

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