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チャンスはやすやすと逃げていく


▲チャンス


 古代ギリシャのポセイディッポスの詩に「幸運の女神には前髪しかない」という一節があります。
 「時」または「好機」を意味するギリシャ神話の神カイロスの容姿について述べたものといわれています。すなわちカイロスは高速で移動するため、独特の髪型をしており、出会った人が捕まえやすいように髪が前に垂らされてはいますが、後頭部には髪が無いため、後ろから捕まえることはできません。つまり、「チャンスは訪れたその時に瞬時に捕まえなければ、後から気づいて追いかけて行って捕まえることはできない」ことを意味しているのです。
 さらなる含意として、チャンスに気づける人は普段からチャンスをうかがい準備している人だけであり、チャンスをつかむだけの予知能力がなければ、そもそもチャンスの到来にさえ気づかないし、捕らえることもできないというわけです。

▲牛飼い

 「好機」を逃した、こんな逸話があります。ある時急ぎの用で、重い荷物を持って、遠くの町へ出かけようとしている若者がいました。若者は早馬に乗ろうと街角で待っていました。そこへ一人の農夫がやってきて、「そんなにお急ぎなら、私のこの牛に乗って行きませんか」と誘いました。しかし、若者は「牛は遅いから」と断ったのです。そして若者は早馬を待ち続けました。
 しかし、早馬は待てども、待てども来ませんでした。そして、さっきの牛はどこへ行ったかと見やるのですが、もはや牛はどこにも見あたりませんでした。

 この逸話は、私たちに「どんな小さなチャンスでも、何もしないで見逃すよりも、そのチャンスを生かし、成長していきなさい」ということを教えています。
 中国のことわざに、「道は近くても行かねば到着せず、事は小さくとも行なわなければ成就しない」というのがあります。ああでもない、こうでもないといたずらに思い悩んでいたところで、何の役にも立ちません。どんな小さな一歩でもいいから、歩き出さなければ始まらないのです。日頃から夢や願いを思い描いていれば、一歩前進への「好機到来」をキャッチできるでしょう。道が見えたら、どんな小さなことにも自ら望んで行動してみましょう。それが大きなチャンスを掴むための積み重ねになるのです。
 「やってみよう」という意志は、直観によってもたらされるものです。直観は、瞬時に物事の判断ができなければ、働きません。判断をするということは、脳が行動を瞬時に選ぶことができるということです。その背景には、脳内に、過去の経験や思考場面、身につけた知識が蓄積されていて、素早く判断し、決断を促すのです。仕事上の経験が豊富な人は、物事の判断が早くなり、仕事も早く終わるでしょう。また、初対面の人より、付き合いの長い友人の方が、相手の行動を予測しやすいでしょう。これらは、脳がたくさんの経験を培ったため、一瞬で判断したり、先の行動を予測することが可能になるからです。実際の経験でなくても、本を読んだり、人の話を聞いたり、自分で考えイメージするという「経験」をくり返すことで直観力は磨かれていきます。
 ただし、直観がすべて正しいとは限りません。判断を間違うこともあるでしょう。しかし、リスクを恐れては、何も挑戦できません。試してみることで、その直観が正しかったのか、もっと良い判断があったのかがわかり、それが経験値を上げるのです。決断力のある人は、失敗を恐れず、前に進もうとする強い意志をもっています。
 レストランでメニューを「10秒以内で決めよう」など、失敗しても特に問題のない小さな場面で、決断のスピードを訓練すると、大きな問題に直面したときの判断のスピードが上がります。また、日々の小さな決断がスピーディになると脳の雑念が減るので、より本質的なことに意識を向けられるようになります。雑念が多いとそれだけ判断力は鈍ります。また、常識や客観的妥当性ばかりを判断の基準にすると、自分自身の考え方が鈍っていきます。たとえ常識や人と違う考えであっても、自分自身が「これが最適だ」とはっきりと思えるなら、その直観を信じてみましょう。
 他にも直観を鈍らせる要因には、過剰な情報があります。テレビやネットから流れてくるたくさんの情報に気を取られがちですが、自分の人生にとって本当に大切なことは何でしょう。本当に大切なことは、そんなに多くはないはずです。
 チャンスだって、行動すればするほど、訪れる機会自体が多くなります。行動を厳選しすぎると、それだけ一回のチャンスが大きく見えて、プレッシャーになり、悪循環となってしまいます。行動する回数が増えれば、失敗してもまた次のチャンスに挑戦しようとするので、それだけチャンスの機会も増えていきます。チャンスを逃さないための一番のコツは、果敢に挑戦することといえるでしょう。
 ゲーテは「何をなすべきか、いかになすべきかをのみ考えていたら、何もしないうちに、どれだけ多くの歳月がたってしまうだろう」と述べています。

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