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物事をどう解釈するかで人生は変わる

▲3人のレンガ職人

 世界中をまわっていた旅人が、ある町外れの一本道を歩いていると、一人の男が道の脇でレンガを積んでいました。 旅人はその男のそばに立ち止まって、「ここでいったい何をしているのですか?」と尋ねました。「何って、見ればわかるだろう。レンガ積みに決まっているだろ。朝から晩まで、俺はここでレンガを積まなきゃいけないのさ。あんたにはわからないだろうけど、暑い日も寒い日も、風の強い日も、日がな一日レンガ積みさ。腰は痛くなるし、手はこのとおり。」男は自らのひび割れた汚れた両手を差し出して見せ、難しい顔をしてこう言いました。「なんで、こんなことばかりしなければならないのか、まったくついてないね。もっと気楽にやっている奴らがいっぱいいるというのに・・・。」旅人は、その男に慰めの言葉を残して、歩き続けました。
  するとしばらくして、また道の脇でレンガを積んでいる別の男に出会いました。旅人はその男に「ここでいったい何をしているのですか?」と同じように尋ねました。「俺はね、ここで大きな壁を作っているんだよ。これが俺の仕事でね。」男は疲れた顔でそう答えました。旅人は「大変ですね」と同じように慰めの言葉をかけました。しかし、その別の男は、「そんなことはないさ。だって、この仕事のおかげで俺は家族を養っていけるんだ。ここら辺りじゃ、家族を養っていけるだけの仕事を見つけるのは大変なんだ。俺なんて、ここでこうやって仕事があるから家族全員が食べていくことに困らない。大変だなんていっていたら、バチがあたるよ。」旅人は、その男に励ましの言葉を残して、歩き続けました。
  するとまた、しばらくして、さらに別の男が道の脇でレンガを積んでいるのに出会いました。旅人は、「レンガ積みのお仕事ですか。大変ですね。」と声をかけた。するとその男は、予想に反して、こう答えました。「ああ、俺達のことかい? 俺たちは、歴史に残る偉大な大聖堂を造っているんだ!」「腰も痛くなって、さぞかし大変でしょう。」と旅人はいたわりの言葉をかけました。「とんでもない。大聖堂が完成すれば、ここで多くの人々が祝福を受け、悲しみを払って生きていけるんだぜ! 素晴らしいだろう!」旅人は、活き活きと楽しそうな顔をして答えたその男にお礼の言葉を残して、元気いっぱいに再び旅を続けました。

  この寓話の出典は、イソップかどうか定かではありませんが、まったく同じ労働をしている3人のレンガ積みの職人が、それぞれ次元の異なるモチベーションで働いており、その結果、仕事ぶりが異なっていることがわかります。
 最初の職人は、レンガ積みという労働に対して、目的意識がまるでなく、できればやりたくないという後ろ向きな姿勢でしか日々働いていないため、出てくる言葉は愚痴ばかりでした。
  しかし、2番目の男は、同じ苦労はしていても、それによって家族を養っていけることに感謝しつつ、日々キャリアを重ねていました。
そして、3人目の男は、つらい仕事であるにもかかわらず、何のためにレンガ積みをしているのかをしっかり把握し、「歴史に残る偉大な大聖堂」の完成を想像しながら、後世に残る大事業に日々貢献できていることにワクワクしながら高いモチベーションで働いていたのです。

  この寓話が教えてくれることは、「まったく同じ仕事でも、それに対する心構え、すなわち為そうとする仕事への目的意識が明確か否かによって、自ずと仕事ぶりは異なり、結果も大きく変わってくる」ということです。
この明確な結果の差異は、日頃、私たちの身の回りで常々起こっているのですが、それが意識化されなければ認識されないままくり返されているのです。

  そのことに気づいた臨床心理学者のアルバート・エリスは、それまでの精神分野の治療が、「精神」の改善に重きを置いたため、長い時間を要していたのに疑問を感じ、1955年から提唱し始めたのが、「論理療法(REBT)」と呼ばれるものです。この「論理療法」は、現代ではエビデンスのある療法として広く知られている「認知行動療法」の基礎となりました。
「論理療法」とは、人が感じる心理的な問題は、「何が起きたか」ではなく、「それをどのように解釈したか」によって起こりうるものである、とする考え方です。そして、この「論理療法」の代表的な理論のうちのひとつが、いわゆる「ABC理論」です。

▲「atGPジョブトレblog

 「まったく同じ仕事でも、それに対する心構え、すなわち為そうとする仕事への目的意識が明確か否かによって、自ずと仕事ぶりは異なり、結果も大きく変わってくる」という上記の寓話が示すように、アルバート・エリスは、「A(出来事)そのものが、C(心理的な結果)に結び付く」のではなく、「A(出来事)が起きて、それをB(認知)して、結果的にC(心理的な結果)に結び付く」のであって、その「認知」の仕方、物事の捉え方が異なれば、おのずと「結果」も異なると考えたのです。これは、今では、「ABC理論」と呼ばれ、臨床心理療法の「論理療法」に活用されています。
すなわち、ABC理論とは、Activating events(出来事)、Belief(信念、認知)、Consequences(結果)の頭文字をとった言葉で、簡単にいえば、「起きた出来事自体(A出来事)はまったく一緒でも、それをどう捉えるか(B認知)によって、結果(C心理的な結果)は変わってくる」としたのです。

  例えば、交通事故によって、突然片足を切断しなければならなかったとしましょう。右足切断という出来事によって、ネガティブな思考に支配され、生きる希望を失い、自殺してしまう場合もあれば、右足を切断しても、ポジティブな発想の転換によって、「右足だけで良かった。自分にはまだ左足がある。」と捉え、片足スキーでパラリンピックに出場し金メダルをとる場合もあるかもしれません。
  この「右足だけで良かった。自分にはまだ左足がある。」という捉え方は、ある意味で、「もうだめだ」という否定的な考え方に対する「反論 “Dispute” あるいは “Dialogue” 」といえるでしょう。そしてさらに、「片足スキーでパラリンピックに出場し金メダルをとる」という運命への果敢な挑戦は、「D反論」によって打ち消され、むしろ一種の「負けじ魂」となり、その結果得られた信念や思考の変化がもたらした結果、すなわちポジティブ思考の「効果」(Effect)ではないでしょうか。これをABCDE理論といいます。

  「出来事そのものは変えられなくても、それをどうとらえるかによって、心の感じ方は変わる」「たとえ一旦は不適切で非合理的な思い込みにとらわれても、それに対して論理的に反論することで、新しい思考を得られる」とするのが、ABC理論およびABCDE理論の考え方です。
  このように考えていくと、ABCDE理論とは、「ネガティブ思考をポジティブ思考に切り替え、より合理的でより有用な方向に人生の舵を切っていくための手がかりとなる理論である」といえるかもしれません。

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