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自己中心的になりがちな自分に勝て


▲地獄絵

 なぜこの世の中に、争いはなくならないのでしょうか。人々が欲しがるものが空気のように無限と思えるほど豊富にあれば、争いは起きないでしょう。しかし、欲しがるものが少なく、その同じものをみんなが欲しがれば、争いが起き、激しい奪い合いになるでしょう。
 争いから手を引くか、話し合ってみんなで分け合うかしなければ、争いは長引くことになります。第一次世界大戦が起こったのは、中東で発見された油田をめぐってドイツとイギリスが対立したことが主な原因の一つでした。「クリスマスまでには帰れる」と言って出征していった兵士たちは、4年もの長きにわたって戦い続けることとなったのです。
 相田みつをという詩人は、次のような詩を書いています。
「うばい合えば足らぬ   わけ合えばあまる   うばい合えばあらそい   わけ合えばやすらぎ  
うばい合えばにくしみ   わけ合えばよろこび   うばい合えば不満   わけ合えば感謝  
うばい合えば戦争   わけ合えば平和   うばい合えば地獄   わけ合えば極楽」
対義的な表現で、「あなたは今、どちらですか」とわたしたちに問いかけてくるようです。
 

    こんな話があります。ある一人の男は、自分は死ぬと地獄へ行くのか、極楽に行くのか不安でなりませんでした。ある時、男は夢かうつつか、極楽と地獄の両方をこっそりと見に行くことを許されます。男は、いくつもの山を越え、最初に「極楽」に着きました。男は恐る恐るのぞいてみると、そこは明るく、テーブルにはたくさんのご馳走がならべられ、人々は楽しそうな表情で、一メートルくらいの長いお箸を使って食事をしていました。この上なく健康で、幸せに満ち足りていました。
    次に男は、再びいくつもの山を越え、やっとの思いで、「地獄」にたどり着きました。男は恐る恐るのぞいてみると、そこは明るく、テーブルにはたくさんのご馳走と一メートルくらいの長いお箸がならべられていました。おかしい、「極楽」と何も変わらないではないかと思っていると、そこへ人々が食事をしにやってきました。
    男は目を疑いました。何と彼らは、骸骨のようにガリガリにやせ細り、今にも倒れそうに歩いています。やっとの思いで席に着いた彼らは、おいしそうな食べ物を他人に取られてたまるものかと、先を争い長いお箸で必死に食べ物を自分の口に入れようとします。しかし、お箸が長すぎてなかなか食べることができません。しかも食べ物を奪い合って長い箸がテーブルの上でぶつかり合い、食べ物は次々に床に落ちてしまいました。そして、とうとう食事の時間が終わりになってしまい、誰一人として食べることができませんでした。
 男は、やっとその違いに気づきました。それは、お箸の使い方です。「地獄」の人たちは、長いお箸で食べ物を必死になって自分の口に入れようとしていましたが、「極楽」の人たちは、お互い目の前にいる相手の人に食べさせてあげていたのです。お箸は、そのために長くしてあったのです。

▲極楽の食事

   「地獄」と「極楽」に与えられた環境はまったく同じですが、人々のありさまには、大きな違いがありました。男は、人々がとったわずかな行動の違いが、これほどの大きな差を生んだことに大きなショックを受けました。そして男は、現実に返り、思ったのです。自分のことだけを優先し、他人を押しのけて自分の欲望を満たそうとするこの世の中は確実に「地獄」に近づいているのではないかと…。

    この話は有名な仏教説話にもとづいています。自分さえよければいいというエゴイズム、自分勝手主義が横行する世の中ではなく、時には自分より先に他人のことを思いやりながら共に支えあい、「共生」してゆく世の中でなければ、この世は「地獄」となってしまうという教えです。
    つまり、「極楽」も「地獄」もどこか別の地にあるのではなく、わたしたちの心の中にあるのです。しかも、心がどちらを向いているかというわずかな違いが世の中を大きく変えていくことを教えています。

    人間は「自分の幸福」ばかりを追求しても、望み通りの幸福を手に入れることはできません。人間の心はそのようにできているのです。もし幸福になった人がいたとしたら、それは「自分の幸福」のことを忘れ、「自分のなすべきこと」を無心に取り組んだ結果としてあるのです。順序を間違えて「自分の幸福」ばかりを優先しても、永遠に満たされることはありません。なぜなら、人間の欲望には限りがないからです。ある一定の望みを手にいれても、それが当たり前のこととなるからです。そうして限りなく欲しいものに向かって突き進んできた結果が、地球環境までも危機に追いやり、人類の存続をも脅かしているのです。
    自己中心的になりがちな自分に打ち勝ち、相手は何を考え、何を望んでいるかをお互いが常に考えられる社会は、喜びと友情にあふれる社会になることは間違いありません。「うばい合えば地獄  わけ合えば極楽」です。

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