~アイディアとクリエイティビティで福祉の枠を飛び越える~ ISIALグループ見学レポート
本日は、社会福祉法人悠久会のきらり作業所のスタッフと私で、佐世保市のミナトマチファクトリーの訪問に伺いました。
ミナトマチファクトリーの属するISIALグループは長崎県を拠点に、クリエイティブな取り組みで福祉業界を盛り上げている就労支援事業所です。
訪問して驚くのは、一般的な福祉事業所のイメージからは想像できないような洗練された雰囲気です。何も知らずに訪れると「都会のデザインスタジオに迷い込んだのかな?」と思ってしまうかもしれません。
その背景にあるのは福祉の枠にとらわれない柔軟な発想力と行動力。
本記事では実際に見学して感じたことや、そこで伺ったお話をもとに、クリエイティブ集団ISIALの取り組みを深掘りしていきます。ISIALが目指す福祉とビジネスの融合、その先にある可能性に触れていきたいと思います。
1.福祉の枠からはみ出すプロダクト戦略~ISIALの商品作りにかける思い~
「仕事を見つけるのではなく、創り出すこと」そう語るのはISIAL代表の石丸徹郎さん。
事業を開始したのは2011年頃、創業当初は現在のようにデザインを活かした事業ではなく利用者向けの手芸教室などの取り組みからスタートされたそうです。
「創設当時は事業も手探り状態で、地元の水族館などに飛び込みで営業を行い、商品を売り込んでいました」
「福祉事業所として仕事をもらうのではなく、一般企業と遜色ないクオリティや同じ土俵で仕事をしないと事業は発展しないと思っています。」
この姿勢はISIALの営業戦略にも反映されています。創業当初から「福祉」を前面に押し出した営業を行うことはせず、その代わりに株式会社「and.basic」のブランド名で営業を行う戦略を取ることを選んだそうです。
「福祉商品だからといって取引先から妥協してもらうというお情けは期待していない。企業にも負けない製品のクオリティを追求し、一般市場でも勝負できるプロダクトを生み出していきたい。」
そんな石丸さんの熱い姿勢が、各方面から注目を集めるISIALの原点であると感じました。
2.ISIALのデザイン部隊 「ミナトマチファクトリー」
最初に「ミナトマチファクトリー」を見学させていただきました。無印良品らしいシンプルかつ自然素材を活かした落ち着きのある空間、壁にはアート作品が飾られています。
作業スペースでは、グラフィックソフトやペンタブレットを活用してデザインをする方、色とりどりのカラーペンを使って長崎の風景を描く方。地域の日常風景をクリエイティブの力で、長崎の魅力を詰めたプロダクトが生み出される。そんな光景が広がっていました。
こうしてクリエイター達が生み出した製品は、県内を始め様々な場所で販売されているそうです。
3.ルネサンス高校と連携「ウェルプログラム」と就労移行支援「ホットライフ」
続いてルネサンス高等学校と連携した通信教育を行う「ウェルプログラム」と就労移行支援事業所「ホットライフ」の見学を行いました。
ウェルプログラムは通信制高校であり、大学受験の際には全日制高校の卒業資格と同等に扱われるとのこと。ウェルプログラムは福祉サービスではありませんが、提携する就労支援事業所を活用することで、職業能力の更なる向上と学費をカバーできる収入を得ることができるそうです。
就労移行支援ホットライフの特色としては、職業訓練はもちろんのこと、WordやExcelなどのPC関係の資格も取得を目指せるカリキュラムを用意しておりサービス契約終了時には資格を取得して就職する方もいるそうです。
「資格取得にばかり注目されがちですが、大事なのは就職した会社で活躍できることです。資格を持っているだけで就職できたり、長く定着できるわけではありません。」
「普段と違う環境でも実力を発揮することができるかが大事ですので、模擬就労として当事業所の色々な部門で働いてもらい、色々な人と協働して仕事を体験してもらう取り組みを行っています」と石丸さんは語ります。
資格を取得させることがゴールではなく、社会人として活躍できる実力を身につけることを目的に支援を行っているからこそ、多数の一般就職を実現する原動力であるのだろうなと感じました。
4.佐世保布小物製作所の製品づくり
さらに見学を進め、別の作業スペースを訪れるとカタカタと小気味よいリズムでミシンを操る利用者さん達の姿が。こちらは「佐世保布小物製作所」。
当初は布小物の製品のみを製作していましたが、現在では製品の幅が広がり布素材以外の製品も製作しているそうです。
最新技術を活用した製品作り
さらに、ISIALでは手作業やミシンといった従来の製造手法だけではなく、積極的にデジタル機材の活用を行っています。機材室にはガーメントプリンタやラテックスプリンターなどの大型の機械も。
(ガーメントプリンタは、利用者さん達がデザインしたデジタルデータを読み込ませ、様々な素材に印刷ができます。)
驚くべきはデジタル機械の操作は職員ではなく、利用者の方達が行っているそうです。
「新しいデジタル機械の導入時も、我々職員ではなく利用者さんが主体的に打ち合わせや操作の説明を受けたりします」とのことです。
5.=Vote ~アートと雑貨のセレクトショップ~
最後は佐世保市を離れ、東そのぎ町にある=VOTE(イコールボート)へ。場所は「Sorrisoriso 千綿第三瀬戸米倉庫」の隣にあります。
地域で気軽にアート作品を楽しみ、購入できる場である=VOTE。障がい者のアート作品はもちろん、廃材などの再活用したサステナブルなアート作品などの販売も。
「お気に入りのアート作品やサステナブルな活動にVOTE(投票)する気持ちで応援してもらえれば」との思いが込められているそうです。
(日々の取り組みの発信は=VOTEの公式Instagramをご覧ください。
また、ECサイトもありますので、遠方の方でなかなか足を運べない方も購入することができるようです。)
店内には写真のとおり、様々なアート作品が並び、私たち以外のお客さんも多く訪れていました。障がい者アート作品を取り扱うお店と知らずに訪れ、購入される方も多いそうです。
それだけ、作品のクオリティが高く「障がい者アート」という冠に頼らずとも購入したくなる魅力にあふれているのでしょう。まさに、石丸代表が話されていた一般市場で通用する商品作り。ISIALが目指すプロダクト戦略が、ここで体現されているのだと実感しました。
6.まとめ ~福祉×ビジネスの融合による 新たな福祉の可能性~
様々なアート作品に触れ、私自身の感性も磨かれた1日となりました。
代表の石丸さんの話やスタッフの皆さんなどのお話を伺わせていただき、事業所や店舗の見学も行い感じたのは、ISIALの柔軟な発想やクリエイティブな取り組みが生まれる背景には、従来の「福祉」の枠を超えたビジネス視点を持っているからではないかと思いました。
ちょっと妥協するのに便利な言葉である「福祉だから」という言葉を使わずに、世の中が本当に求めるものに真摯に向き合うからこそ、高いクオリティのモノづくりを実現しているのでしょう。
また、組織作りも特徴的であり、商品企画、製造、営業といった各事業領域ごとに株式会社や事業所を使い分け、役割分担と連携が徹底されています。
正直、1日の見学では全体像を把握しきれないほど複雑で多様であったため、次の機会にもっと深掘りできれば・・と感じました。
「福祉とビジネスを融合させる社会実験へのチャレンジ」
前回のイベントで石丸さんがそう語っていたのを思い出しました。
実際の取り組みを見て、その言葉の意味をより深く理解することができました。
ISIALのプロジェクトは従来の福祉の枠にとらわれない、新しい福祉のカタチと可能性を示しています。
これからのISIALの歩みでどのように福祉の世界に変化をもたらすのか・・
その動向にますます注目せずにはいられませんね。