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地方にはマーケティング成分が足りていない?地方の経営者のつぶやき。

社会福祉法人悠久会の理事長の永代です。

 企業経営にはマーケティングが必要だと言われています。しかし、地方の経営者の会話の中で「マーケティング」の話題は皆無です。(私の観測範囲内においては)
 なぜでしょうか?私なりの仮説を考えてみました。

なぜ、地方で「マーケティング」の話題が出ないのか?

  1. 興味関心がない(学ぶ機会がない)

  2. マーケティングを意識せずとも野生の嗅覚で成果を出している。

  3. マーケティングに取り組んでみたものの成果が出なかった。

  4. セミナー等で少しかじって実践している(つまみ食い)

  5. マーケティングを勉強したけれども、よくわからない。

 私自身は「4」「5」のタイプだと思います。経営者向けのセミナーや書籍で学んだ経験がありますが、マーケティング知識を整理体系化できていません。多少は実践しているはずですが、意識化できていないので事業戦略のうち、どの成分がマーケティング要素なのか明確に区分できない状況です。

 マーケティングを理解している人が悠久会の事業を分析してくれれば、「御社の、ここの部分はマーケしてますね!」と言ってもらえるのかもしれませんが・・・

 本記事では、地方課題や地方企業の課題解決に対し、マーケティングが貢献する可能性特に「地方マーケティング」という観点から長々と考察していきたいと思います。


マーケティングとは?

 そもそも「マーケティング」とは何なのでしょうか。前提となるマーケティングの定義を紹介してから話を進めましょう。2024年に定義が改定されました。(34年ぶりに)

マーケティングの定義 ~日本マーケティング協会~

マーケティングの定義
(マーケティングとは)顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊か持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである。

注1)主体は企業のみならず、個人や非営利組織等がなり得る。
注2)関係性の醸成には、新たな価値創造のプロセスも含まれている。
注3)構想にはイニシアティブがイメージされており、戦略・仕組み・活動を含んでいる。

日本マーケティング協会

「マーケティングの定義」を読んで感じたこと

 マーケティングの定義を踏まえ、我々の社会福祉法人悠久会の経営と紐付けた上で所感を述べます。

  • 非営利法人もマーケティングの主体者となり得る
    我々の事業主体は社会福祉法人(非営利法人)です。当法人もマーケティングを取り入れる意義があると確認できました。
    昔、購入した『非営利組織の経営』(P.Fドラッカー)の書籍を久しぶりに開いてみると「マーケティングの章」がありました。
    (積ん読中でした・・・)

  • 豊かで持続可能な社会
    この文脈からSDGs(持続可能な開発目標)への意識が読み取れます。我々、悠久会もSDGsを推進しております。

  • ステークホルダーとの関係性
    福祉事業所と利用者さんに限定された関係性ではなく、関係機関、行政、民間企業や団体、地域住民等と関係を構築するべし。確かに「SDGs目標17 ~パートナーシップで目標を達成しよう~」でも、多様な主体との連携の重要性が語られています。

  • 顧客や社会と共に価値を創造する
    この箇所は難易度が高いと感じました。
    「価値を創造する」と言葉にするのは簡単ですが、
    明確に価値を定義し、実践するには高度なレベルが求められると感じます。

  • その価値を広く浸透させることによって
    プロモーションや販促活動を指している箇所です。私も以前は、この部分のみを「マーケティング」であると思い込んでいた時期がありました。

 マーケティングの定義では、企業や団体だけでなく「個人」もマーケティングの主体となり得ると示されています。ゆえに、経営層や管理職、マーケターに限らず全ての従業員もマーケティングに積極的に関わるべきでしょう。

マーケターでなくても、個人にマーケティングを。
~おすすめ書籍~

 書籍『マーケターのように生きろ』は個人のキャリアを築く際にマーケティングの要素を取り入れることを提案している本です。「マーケティングの定義」だけでは実践がイメージしにくい方は、こちらも読んでみることをお勧めいたします。

結局、なぜマーケティングが必要なのか?

 企業であれ個人であれ、マーケティングは達成したい目的や解決したい課題があるからこそ行うものです。

 近年、企業の大きな課題の一つである「人手不足」問題。仕事はあっても人手が足りず、業務が回せないといった問題が深刻化しています。倒産の理由として人員不足を原因とするものが増えています。

 持続可能な経営を実現するために必要不可欠な「人材確保」。加えて、地方のまちづくりでも課題となる「若者の人口流出」。これらの課題を解決するヒントとして、地方マーケティングの有効性などを検討してみたいと思います。

採用課題:悠久会の新卒採用の現場から。~競合相手は都市部の大企業~

 私どもの法人も新卒採用活動を行っていますが、採用環境は年々、厳しさを増していると感じています。(難易度の上昇、工数の増加、手法の多様化等)

 新卒採用活動の一環として、2012年頃から福岡のドーム球場(現、みずほPayPayドーム福岡)で開催される合同面談会に参加していました。参加企業200社超、参加学生も1万人を超える大規模な面談会だったと記憶しています。(※近年はコロナを機に、合同面談会から、リモートを活かした採用活動にシフトしつつあります。)

 このような合同面談会では競争相手は同種の地方の中小企業ではなく、都市部の大企業も競争相手となります。合同面談会では、大企業の潤沢な資金力やリクルート人材の勢いに圧倒される状況でした。

 そもそも、合同面談会に出展する前から、マス広告を積極的に活用して臨む大企業には、知名度で勝つことは容易ではありません。実際、ブースへの集客にも差が生まれている状態でした。(戦う前から負けている・・?)

 真っ向から正面勝負を挑むのではなく、採用戦略を工夫しないと大企業には太刀打ちできないと痛感しました。(※補足:その当時はSNSでバズするみたいな一発逆転の施策がない時代でした。)

 当時の取り組みとしては、まずは自法人のプロモーション素材の作り込み。そして、面談会では学生を自法人ブースに呼び込む活動を頑張り、呼び込んだ学生へ一生懸命説明を行うというもの。採用戦略と呼べるレベルには達しておらず「根性論」頼りでした。(同種の社会福祉法人との差別化さえもできていませんでした。)

 限られた予算と人員での採用活動においては、まず新卒採用市場及び学生を深く理解することが重要です。さらに、自法人のポジショニングを明確にした上でターゲティングを行い、効果的なプロモーション活動を展開する。これらの採用マーケティングっぽい考えが必要だったのではないかと感じています。
 それ以前に自法人のミッションなどを踏まえ、リンクする「求める人材像」を明確化することも大事だったかな…と。反省ばかりです。

社会課題:人口減少による地域の活力低下。地元に若者が帰ってこない。

 地方の社会課題として、人口減少(特に若年層の都市部への流出)による地域の活力低下が深刻な問題となっています。

 人口減少問題の対策として、自治体が移住者を増やす取り組みを行っています。そして、働き手不足の問題には、外国人労働者の雇用を行っている企業も多くなりました。

 しかし、そもそも地元で生まれ育った若者が、地元を将来の選択肢として選ばない、もしくは選びたくても理由があって選べない。
地元出身の若者に選ばれない街に、明るい未来はあるのでしょうか?

 さらに、地元出身者に選ばれない街が移住者にとっての魅力的な選択肢になり得るのか。そして、外国人労働者が就労の場として今後も選び続けてくれるのか、疑問に思います。

 また、地元に戻りたくても、戻れない若者がいるのであれば、その原因を明らかにし、解決に向けた方策に取り組む必要があります。
若者に選ばれるまちになることで、移住者にも、外国人労働者にとっても魅力的なまちになるとも思います。(特に、外国人労働者は若い人が多いので)

顧客志向の視点で実践する地方マーケティング。顧客(若者)を知ることから始めよう。

なぜ、若者は地元に戻ってこないのか?
なぜ、地元企業は若者に選ばれないのか?

 このような地方の社会課題を解決するためにはマーケティングのアプローチが有効ではないかと考えました。

 マーケティングは、まず「顧客(若者)が本当に求めているものは何か?」などの顧客ニーズの理解が基本です。

 さらに、効果的な戦略を立てるために「Who(誰)」×「What(何)」の組み合わせを考えます。つまり、「誰にどんな価値を提供するか」を明確にする必要があります。

 顧客(若者)の解像度を高めることで、どのような価値を提供するべきかが明確になります。そして、次に「How(どうやって)」その価値を届けるかを考えることができるのです。

成人式事業に関わってみた ~若者を知るために~

 まちづくり団体である島原青年会議所に所属していた私が、2017年に副理事長として担当した職務の一つが「成人式に関わる事業」でした。

 そこで、成人式当日に「島原半島での暮らしと働くことについて考える」というテーマの動画を制作上映し、新成人の若者にアンケート調査を実施しました。

成人式動画放映プロジェクトのチラシ(2017年)

<この動画放映プロジェクトを選定した背景について>

  • ①自分自身の新卒採用活動から出た疑問:

    • 悠久会での新卒採用活動に携わる中で、地方の若者の地元企業への認知度や興味関心度について知りたかった。

  • ②若者の長崎県内定着についての課題を共有した経験から:

    • 事業の前年度に長崎県政策企画課との「若年者の県内(地元)定着にかかる意見交換会」に参加しました。

      • 議題内容:

        • 長崎の県内企業で働く若年者や、県内就職(Uターン就職を含む)について

        • 地元定着に効果的な働きかけの方法について

      • 長崎県の当時の状況(2016年当時):

        • 長崎県では毎年1万人の人口減少が発生している。

        • 15-24歳の年代(若者)は毎年4-5千人の転出超過である。

成人式映像制作プロジェクトについて

 先に述べた通り、当時、私も自法人の新卒採用活動に携わっていました。その際、福岡の合同面談会などで島原出身の学生に「悠久会をご存じですか?」「島原の企業で知っているところはありますか?」と問いかけたところ、意外なことに、島原出身の学生であっても当法人を含め地元企業を知らない方も多いことがわかりました。この経験を踏まえ、事業構築にあたって下記の仮説を立てました。

【仮説】

  • 地元企業の多くが学生に認知されていない可能性がある。

  • 「進学や就職=都会へ出るもの」という固定観念がある。
    ※島原半島には大学がなく、多くの若者が進学時に都市部へ移動する。

    続いて、仮説をもとに事業目的などを考えました。

【目的及び期待される効果】

  • 映像を通じて地元企業の存在を知ってもらう。

  • 地元で働く・地元で暮らすことを具体的にイメージしてもらう。

 プロモーションとしての映像を上映することで、島原の企業を知った新成人が「地元で暮らし、地元で働く」という選択肢を持つようになるのかを検証することを目的としました。

【実際に放映された成人式動画】
 下記YouTube動画は2017年の島原市成人式で上映された動画です。

 ※2021年まで本プロジェクトは実施されました。2017年以後の映像も下記リンクよりご覧になれます。

〇2018年-成人式動画:雲仙市島原市南島原市
〇2021年-成人式動画:島原市

 ※成人式動画は島原青年会議所の委託を受け、社会福祉法人悠久会の広報部門で作成しました。

「島原で働く」「島原で暮らす」ことがイメージされ、選択されるのか?ブランドカテゴライゼーションから考える。

 「島原への居住」「島原の企業への就職」が若者にどのように認知されているか分析するためには、マーケティングの一手法である「ブランドカテゴライゼーション」(下図参照)を活用することが効果的です。

 具体的には「島原で暮らす」「島原で働く」という選択肢が若者の「想起集合」に入り、さらに「第一想起」につながるのかを検証する必要があります。(参考「ブランドカテゴライゼーション」:ウェブ解析士協会 WACA)

 簡単に言うと「将来の居住や就職を検討する時に、島原が好意的な選択肢の一つとなり、若者が島原に戻ってくるのか?」です。

 この図をもとに「第一想起」につなげるための逆算を行うと、まず島原の企業を認知してもらうことが必要です。その上で、島原の企業と島原での暮らしの魅力を伝える必要があります。興味も持てない企業には就職しないでしょうし、島原で暮らす魅力を感じていなければ、地元に戻るという選択肢は生まれないでしょう。

 現時点で「第一想起」に入っていなくても、若者から「なぜ、選ばれないのか?」という理由を知ることは大切です。

 顧客理解(若者を知る)こそがマーケティングの出発点だからです。

アンケート結果から見えてきた課題 ~顧客を知れば打ち手が見えてくる?~

 成人式で得られたアンケートのデータを検証しました(2017年~2019年)
アンケートから顧客(若者)解像度を高めることができるのでしょうか。

①若者が長崎県内(島原半島)に残るために必要なもの

  • 希望する職種

  • 娯楽施設、スポーツ施設

  • 大型ショッピングセンター

  • 公共交通機関

  • 若者向け住宅

  • 大学等の教育機関

  • 奨学金(※現在、島原市には「ふるさとにもどってこんね奨学金」が創設)

②若者が長崎県内(島原半島)に戻らない理由

  • やりたい仕事がない(※半数以上)

  • 都会で暮らしたい(※県内在住者ほど高い傾向)

  • 県外の暮らしに満足

③地元就職(長崎県内-島原半島)を考えていない

  • 大企業に勤めたい

  • やりたい仕事がない

  • テレビ等の華やかな仕事に憧れている

  • IT関係の仕事をしたい

  • 仕事の選択肢が少ない

  • 都会の生活が便利だから

アンケート結果から見えてきた課題 ~顧客を知れば打ち手が見えてくる?~ 「Who」×「What」

 アンケート結果から、若者の「将来の就職先や将来の居住先」の意思決定には「仕事」「娯楽」「生活(ライフスタイル)」の3つが主要な決定要因であると推測できます。

 つまり、若者のニーズを満たし、課題を解決できたならば、地元就職を選択肢として考慮する人が増える可能性があります。

 地元志向である若者(Who)にどのような価値(What)を提供できるかがキーポイントとなります。これらを明確にした後で、若者に提供できる価値(プロダクトやコンテンツ等)を検討し、施策(How)を考えるとよいでしょう。

打ち手①:若者のニーズを満たす(What:コンテンツ作り)
・「若者向け住宅」のニーズには、企業が社員寮を用意する、行政が若者向け住宅を整備する等の施策が考えられます。
・島原市では「奨学金」が実際に創設され、一部のニーズを満たすことができました。
(※補足:近年のトレンドとしては「スタバ」がない。がトレンドでしたが、2025年1月ついに島原にスタバが上陸しました。若者のニーズ充足度が向上するのか・・期待です)

打ち手②:情報発信による認知向上(How:メディア活用)
 認知不足や誤解を要因とする場合は、適切な情報発信(プロモーション)を行うことが効果的です。

 例)「広報・PRの仕事は都市部にしかない」という誤解がある場合。
・島原で活躍している広報担当者の事例を紹介するコンテンツを作成する。
・広報職などの求人情報を都市部に進学している若者にリーチする施策(SNS等の活用)を実施する。
・オフライン施策としては、成人式の場面を活用する(高校卒業後、唯一、若い世代が一堂に会する重要な場)
・若者の親にリーチする(親からの口コミ=UGCを活用する)

 (※補足:悠久会でもデジタルマーケティングに力を入れていますので、SNS運用ができる人は必要ですし、時には外部ライターさんの力を借りることもあります。)

ニーズを満たせない人達にはどうするべきか?

 「何がなんでも都会に行く!」と都会でしか得ることができない価値を絶対条件とする若者に対して、地方で同じ価値を提供するのは正直、難しいと思います。

 しかし、実際に都市部で働くうちに仕事や暮らしに求める価値観も変化する可能性があるためブランドカテゴライゼーションで示す「保留集合」の位置をキープしつつ「想起集合」を目指すアプローチが有効だと思われます。

 近年は「関係人口」という新しい地方との関わり方が提唱されています。この考えをマーケティング戦略に位置付けている自治体もあります。

関係人口とは?地元との新しい関わり方

「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉です。

総務省

 島原出身の都市部の居住者は、元々は島原市民です。ゆえに、「観光客」以上であり、島原に住む「定住人口」未満となりますので「関係人口」に位置付けても間違いはないでしょう。

 関係人口は①直接寄与型②就労型(現地就労)③就労型(テレワーク)④参加・交流型⑤趣味・消費型の5種類に分類することができます。それぞれの説明は下図を参考にしてください。

参考:国土交通省「関係人口の実態把握(PDF)」令和3年3月17日

地域課題の解決につながる関係人口

 総務省は、地域の課題解決の一つとして「関係人口」に大きな期待を寄せています。実際、地域の伝統行事には、地元出身者以外の方々や外国人が参加しているケースもあります。

地方圏は、人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に、変化を生み出す人材が地域に入り始めており、「関係人口」と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されています。

総務省

 過去に、私も「関係人口」を推進しようとWebサイトの構築とブログ記事の執筆していました。興味のある方は下記リンクよりご覧ください。(最近、更新していませんが・・関係人口プロジェクトを手伝ってくれる方も募集中です。)

遠く離れていても地元の仲間

 地元に就職や移住をしてくれないから、都市部の若者は関係ないとターゲットから外すのではなく、理由があって地元から離れてしまったけれども、地元に心を寄せてくれている若者は必ずいるはずです。その方々へ地元の情報を届け、つながり続けることは大事なことだと思います。

 私も、現在は地元に居住していますが、過去に住んでいたまちは、どこか心に残っているものです。私も少し前に、大学時代に住んでいた東大阪市の布施のSEKAI HOTELに宿泊したりしました。”商店街まるごと「まちごとホテル」”がコンセプト。昔住んだ、まちの商店街を散策し、商店街で食事をする。レトロな雰囲気の商店街はノスタルジック(郷愁)な気分にさせられました。

 この気持ちは何なのか?と考えていると、ノスタルジアの効果について取り上げた、面白い記事がありました。(※「ノスタルジア(郷愁)は、実は脳の健康に効く」東洋経済オンライン)

 地方でもよく聞く話として、地元の地域活性化に関わる時には「地域に骨を埋める覚悟で!」と迫るケースもありますが、帰省時にちょっと地元の飲食店でご飯を食べる、地元のお土産を買って帰る。地元のインスタをフォローするなどのライトでカジュアルな応援でも十分、地元に貢献してくれていると私は思います。(感謝)
 最近は、新しく地元に貢献する方法として「ふるさと納税」という方法もあります。多様な応援方法があると思います。地元に帰ってこない人を裏切り者扱いするのではなく、ただ、心を寄せてくれることにさえも感謝の気持ちをしっかり持ちたいものです。

 「島原を応援したい」そんなあなたのために、リンク(ふるさと寄付金)を貼っておきます。

情報戦略の観点から地方の現状を考えてみる。

 先ほども述べましたように「ふるさと納税」界隈が盛り上がりを見せています。力を入れている自治体も多いため、シティプロモーション戦略に取り組む優先順位が高まっています。

 人口流出問題、移住定住の促進。これらの課題解決に欠かせない、地方の情報戦略についても、少し触れてみたいと思います。

情報発信 ~情報過多の時代に地方の情報は不足している~

 都市部では、マス広告やSNSなど多様なプロモーション活動が展開され、都市部から離れて暮らしていても、私たちは大量の情報に晒されています。現代はまさに「情報の洪水」であふれており「情報過多の時代」なのです。

 しかし、地方では必要な情報が十分に発信されておらず、特にSNS上での話題などが少ないと感じます。それは、SNSで活発に投稿する若い世代が地方には少ないことが原因だと思われます。

 この状況では、地方を訪れる観光客や都市部に住む移住希望者がSNSで地方の魅力的な情報を得ることは難しいでしょう。

 人口減少時代の情報戦略を考慮すると、都市部に居住する若者が地方での就職や居住を考えた場合に、ブランドカテゴライゼーションで示す「非処理集合」(詳細な情報を知らないので検討に進まない)に陥る懸念があります。

 地方マーケティング戦略の観点からは、まず、若い世代が何に興味を持ち、どのような価値を求めているかを正確に把握しなければなりません。そして、興味と価値を感じる情報発信を行う必要がありそうです。

 さらに、現代では、大企業の洗練された広告宣伝よりも口コミなどの(UGC)が信用される傾向にありますので、一方的に発信を行うだけではなく、双方向のコミュニケーションも活発化させる必要もあるでしょう。この情報戦略の分野(マーケティングで言えば「How」)はトレンドや手法の移り変わりも早いため、常に情報収集とキャッチアップが必要な分野だと思います。

 そして、自治体が単独でシティプロモーションを展開するだけでは限界があるため、地元企業や商店、地元市民も含め情報発信に参加する「市民総クリエイター化」が求められています。多少、大げさな表現ですが、情報過多の時代には、質や量(またはターゲティング)を意識した情報を発信していかねば、地方の魅力は都市部の若者には届かないでしょう。

 さらに言うならば、地元の人達が積極的に発信するには、そもそもの「郷土愛」の気持ちが高まらないと、良い情報発信は生まれません。我々も魅力的ではない商品にいい口コミを書かない気持ちと同じです。書かされ感が満載の口コミには誰も心を動かされません。まちの魅力を高め「自ら自分のまちを宣伝(自慢)したくなる」そんなまちにすることが、まずは良質な情報発信が生まれる土台かなと思います。まちの小さな魅力を発見し、磨き込んで情報共有していく。そのような活動が必要だと思います。(一言で申しますと「シビックプライド」という領域になるのでしょうか?)

 ※シティプロモーションの話題とは少し逸れますが、社会福祉法人悠久会では「デジタルマーケティング」の推進に力を入れています。詳しく知りたい方は下記の関連記事のリンクも合わせてお読みください。

まとめ マーケティングで重要な視点 ~価値観を変える、新たな価値を創出する、共創する。~

 まとめに入る前に、再び「マーケティングの定義」を振り返りを行ってみましょう。

マーケティングの定義
(マーケティングとは)顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである。

日本マーケティング協会

 マーケティングで重要な視点は「価値創造」です。都市部に若者が流出するということは都市部での生活に価値を感じているという状況を反映しています。

 しかし、価値は多様なもので、都市部の華やかな生活に憧れる人もいれば、自然豊かな地方での生活に憧れを感じる人もいるでしょう。

 「都会か地方か」といたずらに二項対立を迫るべきではありません。対立が続けば「都市と地方」の分断を招いてしまいます。現在は双方とも、緩く関わる「関係人口」という新しい価値観も生まれています。都会と地方が協働・共創し、共により良い形で発展することが良好な関係なのです。「分断ではなく越境する」都会と地方を柔軟に行き来し、多様な価値観が混ざり合うような日本になってほしいかなと思います。

今までの価値観を変える ~パラダイムシフト~

 東京などの大都市は、絶え間ない人口流入により人口密度が非常に高く、メディアやマス広告によって創造と消費のサイクルが加速しています。(流行に追われ、新しい店舗が次々とオープンする一方で、すぐに閉店するケースも少なくありません。)

 さらに、昨今のSDGsの潮流から、大量生産・大量消費という従来の価値観の見直しが求められています。マーケティングの定義にも「豊かで持続可能な社会の実現」という理念が掲げられており、都市型の大量消費文化をプロモーションで煽り、より消費を拡大させる現状は世界の資源が不足する局面では強制的にパラダイムシフトを引き起こす可能性があります。

 このような大量消費の価値観を植え付けるプロモーションは、マーケティング本来の理念から逸脱しているとも言えるでしょう。都市部においては現在の過剰な消費を促すスタイルから持続可能なスタイル転換を目指すべきであると思います。

新しい価値を創造する ~共創~

 一方で、大量消費を前提としなくても「豊かで楽しい社会」の在り方や価値観を創造する。その価値観は特定の誰かではなく、顧客や社会全体で共創する。どこかの偉い大人が勝手に作ってくれるというスタンスでなく、若い世代も未来の担い手として積極的に参画する。

 ソーシャルグッドや「六方よし」な社会像を描き、その価値を広く浸透させる必要もあるのだと思います。

従来の「三方よし」を発展させた「六方よし」

人口減少問題を解決するための地方マーケティング ~価値の創造と共創~

 価値の創造と共創の観点で人口減少時代における地方マーケティングを考察すると、成人式で実施したアンケートに対する施策(プロダクト)にも創意工夫した価値の提案ができるかと思います。

〇ないものねだりからの脱却
 例えば「大型ショッピングセンター」が欲しいというニーズ。現実問題として、人口が少ない地域に大型資本が進出する可能性は低いでしょう。そこで、発想を転換して「地域に魅力的な商店を増やす」という解決策ならば創意工夫次第で実現可能な取り組みになるのではないでしょうか。

〇消費志向から創造志向へと価値観を転換させる
 「娯楽が少ない」という声は、地方ではよく聞かれる不足しているニーズです。確かに、都市部にあるような大型資本によるアミューズメント施設は地方ではほとんど見かけません。しかし、地方には豊かな自然という資源があります。この豊かな自然を活かした体験型コンテンツ・アクティビティを開発することで、都市部とは異なる、地方ならではの魅力的な娯楽を創造することが可能です。

 さらに、地方ではイベントを開催するための場所確保などのハードルが比較的低いため、自らイベントを企画し主催する側になってもよいでしょう。つまり、消費者として受け身的に娯楽を求めるのではなく、創造者として新しい価値を生み出す志向。地方だからこそ実現できる魅力的なライフスタイルを模索することもある意味、質の高い娯楽と言えるのではないでしょうか。

 例えば、悠久会では自然を活かしたコンテンツとして「焚き火イベント」を開催しました。都市部では焚き火を楽しむ場所を見つけるのは難しいですが、島原では、駅から車で10分もかからないアクセスの良い環境に豊かな自然があります。

 地方の「余白」を活かし、そこにある豊かな自然を活かしたコンテンツを創造することは、持続可能性なイベントのあり方の一つと言えるでしょう。

〇共創と価値の創造により新たなビジネスを生み出す
 若者にとって「仕事」は居住先を決定する重要な要素の1つです。しかし「地方には希望する職種がない」「選択肢が限られている」といった声をよく耳にします。そんな状況でも企業側の工夫次第で若者が望む仕事を生み出すことが可能です。

 例えば、地方では広報の仕事、SNS運用、マーケティングなどの業務が全く存在しないのではなく、専任社員を雇うほどの業務量がないので、総務担当社員などが兼務し片手間で取り組んでいる場合があります。これらの仕事を外に切り出すと、一社では専属の社員を雇うほどの業務量がなくても、複数の会社が共同でポジションを設けることで、地方でも若者が求める職種を生み出せる可能性があります。

 また、近年ではリモート勤務や複業、副業が広く認められるようになっています。従来の固定的な働き方にとらわれない柔軟な働き方が当たり前になることで、地方においても若者が望む理想のキャリアを築くチャンスが広がるかもしれません。

 さらに、視点を変えて「自分が望む仕事がないならば、自ら仕事を創造する」という創造志向に発想を転換してもよいでしょう。実際、地域によってはスタートアップ支援が進み、学生起業家も増えるなど新たなビジネスの流れが生まれています。リモート環境の整備が進んだ今、協働相手は地元企業に限らず、全国、世界の方とも連携した事業が行いやすい環境にあります。

 地方における人口減少-若者流出問題は、新たな価値の創造と共創により乗り越えられると考えています。地元に戻るという選択は、義務感からではなく、都市部では味わえない地方の独自の可能性や魅力を求めて、積極的に楽しむための選択であるべきです。大都市で誰かの光に照らされて輝くのではなく、地方で自ら輝く生き方を選ぶ。(都会の大企業への就職型から地方起業を含めリモートも活用した多様な就業スタイル)
それが新たな時代の価値観に変わるかもしれません。

 地域全体で若者と共創・創造し、地方での新たなライフスタイルと新たなビジネスモデルを創出し、持続可能で豊かな社会を実現する。これこそが地方マーケティングの真価であると思います。

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