アニソンは作曲家で聴け!♯5「大石昌良(OxT,Sound Schedule)」
通常アニメにおけるキャラクターソングというものは
声優がフューチャーされることはあれど
おおよそ作家陣に触れられることは、まず、ない。
それがどうだろう。
今や『ようこそジャパリパークへ』を歌ってる声優を言えるだろうか?
知らなくとも、大石昌良が作曲者だということは覚えているはずだ。
それは本来バンドマンでもありシンガーソングライターでもある、
プレイヤーとしてフロントマンを務める彼の功績である。
ここに大石昌良が自らに課した
ブランディング能力というものが垣間見えるのではないだろうか?
大石昌良×Tom-H@ck=octillion
大石昌良と言えばお茶の間でも見れるテレビで
歌ウマアニソン歌手代表としても出演しています。
なので微妙に作曲者としての側面は、
アニソン詳しい人くらいしか知らないのかな?とも思います。
私が彼の名前を認知したのは【ダイヤのA】第1期OP。
あの、【けいおん!】で有名なTom-H@ckが
新しいプロジェクトを始めるということで
かなり高いハードルからスタートすることになっていたはずです。
ところが、天高くそびえる嵩の
遥か上空を飛翔する歌声が飛び込んできました。
GO EXCEED!! / Tom-H@ck featuring 大石昌良
なんだこの楽曲は……かっこよすぎる!
あとこんな曲を朗々と歌い上げられるボーカルがすげぇ!
Tom-H@ckといえば、どこにボーカルメロディ置いてんのと言うくらい
オケに色んな要素を積めまくる超技巧派作曲者です。
一見、爽やか且つスポーツマンシップ迸る熱血ソングですが
その実プログレ的な細かいキメ部分やブレスの無さ、
高音すぎるキーで酸欠必至な変態曲。
そう、みなさんと同じく大石昌良の第一印象は
やたらと上手いボーカリスト、だったのです。
とくに当時はそんなに露出する機会もなかったので
(この曲が特別売れたわけでもないですし ※オリコン66位)
そこから彼の経歴を辿る航海が楽しみで仕方ありませんでした。
こんな人がポッと出の新人なわけがない、
そのくらい存在に興味を惹かれたのです。
3年後、晴れてTom-H@ckからの要請でOxT結成。
デビュー曲からさらに高緯度へぶち抜く傑作を生み出します。
Clattanoia / Oxt
※"Clattanoia"とは「カタカタ震える」「偏執」を組み合わせた造語
もう鬼かっこいい。いや、骨かっこいい。
出す曲出す曲全部かっこいい。しかもこちらは大石昌良作曲。
え、こんな曲も作れるのか……
ギター等のファンタジー編曲も併せて素晴らしい化学反応です。
ライブ等でのMCも冴えに冴えてて、二人のやり取りは夫婦漫才の様。
"おしゃべりクソ眼鏡"を自称しながら繰り出す話術は
アニソン作家の最前線とも言えるでしょう。
浸透力・求心力に秀でている、それが大石昌良の印象だと思います。
大石昌良は陽キャ?
では大石昌良は底抜けに明るいキャラクターなのでしょうか?
いえ、実はそんなことはありません。
Mステにまで出演したことのあるバンドSound Schedule。
そのフロントマンとして彼の音楽人生は始まります。
このときから知っていたぜ!
……と言えたらかっこいいんですが、そんな事はありませんでした。
ソロと並行して行っていたOKコンビも、
cuneのあとに小林亮三が誰かとやってるみたいだ、と
相方を知ることもありませんでした。
深堀りする過程でバンドやソロ活動を知るわけですが
……なんだこの燻ってる溶岩みたいな内省に満ちた考え方は。
2012年以前のインタビューを読んでみてください。
かなり腐ってます。超絶暗いです。
そう、彼はその溢れんばかりの才能を持て余したまま
Tom-H@ckと出会うまで陽を見ることがなかったのです。
加えてクリエイターとして話すときはほんとに超真摯。
このチャンネルは創作に携わる者なら見る価値アリです↓
なので浅沼晋太郎と羽多野渉が務める【ダイヤのA】のwebラジオにて
ゲスト出演すると知ったときはかなり不安でした。
え、表に出して大丈夫なん……?
歌声は高々なれど、だいぶ特殊な視点を持った、いわば
言葉を選ばなければ陰キャですよ?と。
それがどういうことでしょう。
画面に現れたのは
浅沼の尊敬と愛の交じるイジリに応える軽快な姿でした。
ふぁいふぃんふぉん先生とまで呼ばれています。(※GO EXEEDの空耳)
まっさらな状態で挑んだとは思ってないんですが
あれよあれよと
番組のテーマソングがトークの掛け合いだけで出来上がっていく光景は
視聴者のワクワクを目の前で叶えてくれる創造主のようでした。
そしてこれが、彼の声優に提供した楽曲第一号となったのです。
(まぁ自身もメインで歌ってるので提供曲、とは呼ばないかもですが。)
最近でもアニソン特番や歌ウマ選手権、ライブのMC等で見せる
明るい歌のお兄さん的なポジションは健在で、
昨今のアニソンの普及に
最も貢献していると言っても過言ではないでしょう。
その一方で、親しい関係者からは
プライベイトはまったく喋らないと暴露されていたりもします。
その関西弁を操りしゃべりまくる明るいキャラは、
アニソンを歌う者として求められている役割を全うしようとして
出来上がったものであると自ら吐露している記事もあります。
これをブランディングと呼ばずしてなんと呼ぶか。
私は常々、
もっと作曲家はもっとスポットライトが当たってほしいと思っています。
その成功例の一つを、彼は体現しているのです。
オトモダチフィルム / オーイシマサヨシ
オーイシマサヨシ楽曲提供はさらに陽マシマシ
まぁ上記のアイベヤ with 倉持洋一&増子透は
超限定発売だったのでノーカンとして、
やはり大石昌良を語る上で外せないのはジャパリパークですよね。
社会現象にもなりました。
どうぶつビスケッツ×PPPがMステ出演した際は、
どうなるかヒヤヒヤしてみてたアニメファンも多いと思います。
本人が歌ってみた動画もすぐに拡散されました。
大好評、のひとこと。
ただ、実は彼の経歴で実際こういう曲調が多いわけではないです。
つまり、アニソンに求められている役割を全うしようとして
このようなパーティ感のある楽曲を作成して提供している
という裏付けでもあるわけですね。
任侠ギャグアニメ【ゴクドル】にも似た方向性で提供しています。
歌詞はコッチのほうがオヤジギャグ多くて好み。
ゴクドルミュージック / ゴクドルズ
この辺の特徴としては、アコースティックで作成したコード感に
クラシックなフレーズをサンプリングしてるところでしょうか。
そういう方向性で一番古いのは【血液型くん!2】主題歌。
最初から道筋がブレていない、まさにエンターテインメントです。
ブラッドタイプ☆ハートビート / アース・スター ドリーム
間接的にRoseliaの2名(相羽あいな/イワトビペンギン・中島由貴)に提供していることになりました。こういうのも面白い繋がり。
どこかで聴いたことのあるフレーズと
この手のワチャワチャ感はアイドルっぽい曲と相性がいいですよね。
一応ジャパリパークのPPPもアイドルっていう設定ですし。
というわけで女性向けアイドル作品でも成功しています。
MANKAI☆開花宣言 / A3ders!
そして、いっそこういう曲やるなら男女混声でもやってくれないかな……
という願いは【異世界カルテット】で叶いました。
異世界ショータイム / アインズ(日野聡)、カズマ(福島潤)、
スバル(小林裕介)、ターニャ(悠木碧)
うん、いいミュージカル具合。かゆいところに手が届きます。
この手法、斉唱ではなく単独歌唱の声優への提供ともなると
一気にソロ名義の楽曲に接近します。
聴いてて容易くオーイシマサヨシの声に変換できませんか?
フィッシングストーリー / 斉藤壮馬
シンガロン進化論 / 大橋彩香
もちろん、本来のシリアスな楽曲を提供することもあります。
唐沢美帆へは、そこはかとない儚さに寄り添う佳曲。
上記まではあぁ、大石昌良っぽいなぁと感じましたが
これは全然気づかなかったです。
酸素 / TRUE
暗黒期のソロワークスに通じる
後を引く切なさがかなりお気に入り。大好きです。
ウタをチカラにできるMay'nへは
シンフォニックな希望の唄を提供しています。
是非素敵すぎるPVと一緒に堪能してみてください。
未来ノート / May'n
これは今の御時世にシュパっと斬り入れる光あふれる曲ですよね。
めちゃくちゃ染みます。
そしてそんな功績をひっくるめて
昨年・今年とアニサマのテーマソングを担当。
サニサマ制作サイドも、毎回作曲者の選出が秀逸。
おそらく一番得意としているのはフォークソングで、
派手な編曲にすることも多いけれど
基本的にはアコギ一本で再現できる楽曲。
これらのほとんどをセルフカバーとして収録してくれるのも
ファンとして二度楽しめて嬉しいですね。
Afterword
というわけで第5段は大石昌良さんでした。
・エンターテイナー"オーイシマサヨシ"を演じる大石昌良
・故に提供曲は遊び心たっぷり。それが魅力。
・Tom-H@ckと出逢えてほんとに良かったね!
というようにまとめさせていただきます。
とりわけライブでは
もっと観客との一体感を煽るステージングをしているとか。
個人的に彼に関しては、楽曲が好きというより
楽曲に人間性が出てて好きになる、そんなイメージ。
ところで、ソロの最新楽曲がもはやかっこよすぎて
ぶっちゃけOxTと区別つかないんですけど。笑
大石さんの声って、悲しいかな、
実はそんなにアニソンっぽくないんですよね。
それがファンタジーな編曲との組み合わせの妙で
幻想と現実の橋渡しをしてくれるようなアンマッチさが
逆に癖になるのです。
さて。
ここで彼を取りあげたら
次回はTom-H@ckに触れないわけには行きませんね……
というわけで次回♯6「Tom-Hack」をお楽しみに!
(※次の記事がそうだとは言ってない)