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アニソンは作曲家で聴け!♯6「Tom-H@ck(MYTH&ROID,OxT)」
音楽の良し悪しは、必ずしも音色の波形密度ではない。
それは分かっているのだが、それでもやはり
一つの楽曲の情報量が多いとそれだけで
なんだか凄いものを聴けたような充足感があるし
なにより、やはり知らないよりはいろいろ知っていたほうが
それまで聴いてきた音楽もより深く愛せるような気がする。
"おもちゃ箱をひっくり返したような楽曲"。
そう称される音楽は、その実
計算され尽くした音楽理論の上で成り立つ、荘厳な造形美である――
GO! GO! Tom-H@ck
2009年、2010年。今から10年以上前。
アニメ業界のみならず、音楽業界、ひいては楽器業界まで巻き込んだ
一大ムーブメントが巻き起こりました。
その作品は【けいおん!】。
いまだにアニメ史にて語り継がれる、京アニ最大のヒット作、
そう呼んで差し支えないでしょう。
主題歌も大ヒットしました。
Cagayake! GIRLS / 桜高軽音部
作曲はTom-H@ckという、当時はまだ無名の作曲家。
彼は、専業作家デビュー作にして、
華々しくスター街道へと躍り出たのです。まさに天才。
ですが、Tom-H@ckは敗北感を覚えたと言います。
それはエンディングである『Don't say "Lazy"』の存在。
世間的にはこちらの曲のほうが浸透度が高く、
確かに今でも伝説の一曲と呼ばれるのはこちらだったりするでしょう。
さらに追い打ちをかけたのが『ふわふわ時間』。
こちらでTom-H@ckは再び前澤寛之に負け越すのです。
実は平沢唯(CV.豊崎愛生)のキャラソンである『ギー太に首ったけ』は
原作で既に登場していた『ふわふわ時間』の歌詞が詞先で
そのまま乗る仕様となっているそうです。
それはどういうことだろうか……?
実際採用されたのは前澤寛之の作曲した『ふわふわ時間』
そう、つまり、同楽曲の発表を賭けた
作曲家同士の凌ぎの中で削り負けしたということなのです。
これらがTom-H@ckのハートに火を着けた!
アニメ自体は第1期も大成功しました。しかし、更に爆発したのは第2期。
不意打ちのように耳をつんざくかわゆい声とバンドサウンドの奔流。
なんだこれ、こんな音楽聴いたことねぇ!
GO! GO! MANIAC / 放課後ティータイム
そう、27回のリテイクも施したという
Tom-H@ck最高傑作が放たれていたのです。
ゴリッゴリのファンクビートにフュージョンも混ざるようで
超高速BPMにkawaiiを搭載したごちゃ混ぜロック。
この"kawaii"が超重要。
『Don't say "Lazy"』は、いわゆる"一般人"や"音楽人"の耳にも訴求する
ロックサウンドとしてのかっこよさを内包していました。
アニメ要素は付随していたに過ぎません。
しかし、この『GO! GO! MANIAC』は
萌えアニソンらしいカワイさを保ったまま一般音楽に殴り込みました。
アニメにおける重要なファクターである声優の魅力を
実力の限界最大限まで振り切って世に知らしめる形となるのです。
馴染みのない人からしたら「電波ソング」ってこういうのじゃね?とまで
のたまうでしょう。
こんなチャート推移はそりゃもう当時は革命でしたよ。
そしてこれが代名詞となり、Tom-H@ckといえば
おもちゃ箱をひっくり返したようなハチャメチャに派手な曲
そう呼ばれるようになりました。
ただ、彼は回想します。
それはあくまでアニソンという業界にて求められた能力だと。
本来の構成で臨んだ楽曲が採用されて嬉しかったという『冬の日』。
彼本来の持つ
メロディセンスが既に優れていたと証明する一曲ではないでしょうか。
クリエイターとしてのTom-H@ck
【けいおん!】のイメージが色濃く残ったまま手掛けたのが
【僕は友達が少ない】、通称【はがない】です。
この作品ではキャラソンの約7割を手掛けており
【けいおん!】以上にTom-H@ckの色を確認することが出来ます。
【ソードアート・オンライン】の
組曲的なキャラソンも多数手掛けていますし、
引き出しの多様さには定評があります。
逆に京アニファンが"中の人"的な意味で歓喜するのはこちらでしょうか。
Passionate Squall / 聖痕のクェイサー
[ドSツンデレ]平野綾・[無口無表情]茅原実里
(from 【らき☆すた】【涼宮ハルヒの憂鬱】)
[ほんわかおっとり]豊崎愛生・[ドM気弱]日笠陽子
(from【けいおん!】)
の4人に[メインヒロイン]藤村歩を加えたオールスター仕様。
もうキャスト狙ってるだろとしか言いようのない面子です。
それをゴシックに料理したTom-H@ck。
すでにここで片鱗があります。←後述します。
平野綾や入野自由へも提供する中
その流れで当然のように飛蘭にも楽曲提供。
fortitude / 飛蘭
デジメタル!?疾走感がたまりません。
そして、昨日の記事でも若干触れてるのですが、
個人的にTom-H@ckの名前を気にし出したのは2013年です。
そう、【けいおん】じゃなかったのです。
【ダイヤのA】の『GO EXCEED』。
――が発表される少し前に、衝撃を受けた楽曲が発売されました。
アーティストとしてのTom-H@ck
Glamorous days / 日笠陽子
私がTom-H@ck提供曲で一番好きな曲がこちら。
緊迫したスリリングなストリングスが滑るゴシック・ロックで
日笠陽子の声質と相まって冷ややかに仕上がっています。
その上で、いろんな楽器の音がぶつかりあって聴こえるのに
俯瞰して聴けばそれらがギリギリの帳面で均衡を保っており
私はこれを前衛芸術音楽と名付けたいです。
前衛とは言いましたが、けしてわかりにくい音楽ではないはずです。
ただリズムが一定じゃないので歌いにくいったらありゃしない。
ロウ-トランス、という言葉があるなら
これはさしずめロウ-プログレと呼んでみます。
どうでしょう。
この方向性を突き詰めたのがMYTH & ROIDだと思いませんか?
そう、2015年。作曲家という裏方の枠を飛び出して、
彼は表立ったアーティスト活動を始めるのです。
L.L.L / MYTH & ROID
素晴らしく巧妙で摩訶不思議な歌詞のデジロック。
カラオケという文化が流行って以降、口ずさみやすい邦楽が蔓延した中で
かつて黒夢がCDに歌詞を載せないという暴挙に出た意図を彷彿とさせます。
歌えるものなら歌ってみやがれ。
……いえ、当人はそんな声明は出してないんですが、
実際歌いこなす難易度はトップレベルだと思います。
アーティストというものは本来こうあるべきなのかもしれません。
素人にはマネできないからこそ玄人という言葉が存在しているのです。
ともあれ私はこういうスタイルのほうが好みで、尊敬します。
思い返してみると『GO! GO! MANIAC』の時から全然歌いやすくないです。
歌い手とのディスカッションで生まれる熱量を楽しんでいるフシすら感じます。
ある意味同じ次元で、
されどMYTH & LOIDとは対象的な開放感を催すのがOxTです。
Laughter Slaughter / OxT
うん、Tom-H@ckは表に立って正解。
クライアントの要望に答える柔軟な力量も備えている彼ですが
こうしてやりたい表現でかき鳴らしてるほうがかっこいいです。
その他の提供先
前回の大石昌良にも言えるのですが
歌ってみた出身アーティストにも明るいです。
鹿乃はコンスタントにアニソンを担当しているので
耳にする機会は多いですね。
nameless / 鹿乃
前澤寛之を「普遍的」と讃えていますが
自身も十分普遍的な曲を提供してるじゃないの、と言いたくなる曲。
綺麗です。
唐沢美帆へは、やはりみんなシリアスな楽曲を提供するんですね。
終わりたい世界 / TRUE
こういうavexっぽい編曲になると
普段豪奢なオケに収まっているメロディの良さが際立ちます。
"おもちゃ箱感"は、アイドルなんかにも親和性が高いです。
【けいおん!】系統版。
破! to the Future / でんぱ組.inc
こうして聴くと、やっぱり電波曲って
音の構築の上に成り立つ難しい音楽なんだなと分かります。
MYTH & ROID系統版。
マジカル・ジャーニー・ツアー / マジカル・パンチライン
最近こういう
シリアスファンタジー楽曲を歌うアイドルも増えている気がします。
歓迎したい風潮ですね。
OxT系統版(?)。
SP-LuSH ROAD / えなこ
えなこはアイドルじゃないって?
コスプレイヤーも似たようなもんでしょう。笑
曲は思いっきりアイドルソングですし。
いやぁ、やっぱりTom-H@ck曲ってわかりやすいですね。
素晴らしい個性だと思います。
Afterword
Tom-H@ckさんはYouTubeをやっているので
いろいろ裏話が聴けて楽しいです。
こちらでは当時物議を醸し出した
田淵智也とのナタリーでの対談のことに触れています↓
こういう機会なかなかないから続けてほしい!熱烈に希望します!
冒頭で触れたTom-H@ck×前澤寛之なんか、
今だから聞ける裏話てんこ盛りでアニソンファン必見レベルです。↓
以上を踏まえ、
・一発目から大ヒットを飛ばした天才、それでも敗北感を覚えた反骨心
・そこに宿したのはプロ根性とロック精神。
・それはおもちゃ箱をぶちまけた上で構築された芸術的なバランス感覚。
以上がTom-H@ckの創作物の魅力の結晶だと主張したいと思います。
というか、内容的にも、
私の大好きな編曲家といったほうがいいかもしれません。
ジャンヌを始めとしたV系を含む
様式美を重んじるシンフォニックメタルが好きなのも
多分そういうとこが理由です。
ゴチャっとしたサウンドが好き。
Tom-H@ckはとにかく、MYTH & ROIDの1stアルバム「eYe's」の世界観が
ジャケットメイキング・PV併せて最高すぎるのです。美しい……
こういう音楽性で長く続けてる人少ないので、期待しかないです。
さて、コッチを取り上げたらもう一方も取り上げないとですよねぇ。
というわけで次回♯7「前澤寛之」をお楽しみに!
(※次の記事が必ずしもそうというわけではない)
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