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ダメ人間、沖縄へ行くday.0

こんな後ろ向きなことばかり書いている人間でも旅行というものに行くのである。

とはいえ、旅行と行き先を決めたのは彼女である。

俺はなかなかに腰が重く、旅行なんて普段は考えもしない人間である。

生来のビビり症なので、下手な遠出は絶対にしないのである。

それに普段は酒と煙草と本と音楽くらいがあればそこそこに楽しめてしまうので、旅行なんてよっぽどのことが無ければ行かないのである。

それに俺は旅行の手配というのが恐ろしく苦手なのである。

まずは移動手段の確保。そして宿の予約。さらには大まかな旅程を立てること

そうしたことを考えるだけで旅行なんて面倒くさいことこの上ない。


そういえば。

俺を旅嫌いにしたエピソードがある。

以前、友人から頼まれ、旅行先と旅程を決めたことがあった。

その頃、つげ義春の『貧困旅行記』を読んでいたために、地方の鄙びた温泉地に行きたいとアイデアを出した。そして、友人も乗ってくれた。

そして、作品内で出てきた千葉県の養老渓谷へ行く、と決めた。

加えて、母方の実家が千葉県・南房総にあるので、多少のゆかりはある。

養老渓谷へは、ローカル線で行くらしい。

そこから、母方の実家方面へ電車で行き、南房総の海岸周辺で宿を取ろう、と思って、旅程を立て、宿も取り、旅行の手配をしたのだ。

なかなか風情のある旅になるだろうと思った。

色々と面倒だったが、何とかやれたぞ!と思っていた。


旅に出る前までは。


そして、何が起こったか。

四苦八苦して、なんとか目的地へは辿り着いたのだが、そこまでの俺の段取りは最悪であった。

第一、養老渓谷に行き、そこから引き返して、さらに電車に乗る、という旅程に無理があったのだ。

養老渓谷までは凡そ1時間。往復で2時間。そこから南房総まではさらに1時間半ほど。かなりの時間、電車に乗らなければならなかったが、旅慣れていないので、その時間をどう過ごすか、全く想定出来ていなかった。

加えて。

俺は地図が読めない。地図を見ても歩く方角がわからない。

そのせいで目的地までの行き先を見失うことが多々あった。

おまけに数字に弱いので、移動の距離や時間の算段は、ことごとく失敗だった。

そのために旅程は全くスムーズに運ばなかった。

やはり友人からは相当な顰蹙を買った。

俺自身、それなりに考えて組んだ予定だけに、ここまで上手く進まないのか、と大変ショックであった。

おまけに苦労して予約した宿は凄まじいボロさであって、部屋のカギを開けた瞬間にゴキブリが目の前を駆け回ったのだった。

友人には迷惑をかけっぱなしだった。

何度となく謝った。

しかしながら、終いにはその友人から

「お前とは二度と旅行へ行かん!」

と言われてしまったほどだ。

それからしばらくはその友人に会う度に、旅行で起きた出来事について文句を言われ続けた。

というか、今だに言われるのだ。「あの旅は酷かった」と。


それ以来、自分から「旅行に行きたい!」などとは二度と言うまい、と堅く心に誓ったのである。


そんな俺が旅行に行くのだから、さぞ珍道中になるのだろうと思った。

だが。


今回は彼女が完璧なアテンドをしてくれて、宿の予約から旅券、現地で使うレンタカーの手配まで、実にスムーズな段取りで旅行への足掛かりを作ってくれたのであった。

おまけに今回の『全国旅行支援』。旅費が大幅に縮小できた。

なんてよく出来た彼女なのだろう。

と感謝ばかりもしていられない。

俺も何かしら役に立たないと、と思った。

せめて、旅先の目的地くらいは目星を付けておこう、と思った。

というか、それくらいしかやることがなかったのだ。

俺は免許も持っていないし。

手も足も出ない、とはこのことだ。

そんな出来損ないのダメ人間に出来ること。

体調を整え、集合時間にきっちり遅れずに到着すること

それくらいなのだ。


旅行前夜。


夜までお仕事をし、帰ってきていつも通り酒を飲んでいた。

飲み過ぎてはいけない、と自戒しつつ、ぼんやりと思った。

「俺ぁ明日東京にいねぇんだな」

逆・吉幾三とでも呼びたい心持ちになった。

そんなふわふわした気持ちで眠った。

そして

当日の朝。

幸い、寝坊もせず、荷物も卒なくまとめることができた。

外へ出ると、やや肌寒かった。しかしながら、沖縄へ行くのである。

向こうはきっと暑いだろう、と俺はカーディガン1枚で空港への道中を過ごした。

今回の旅行、最大の懸念、それは移動手段であって、避けて通れないもの、「飛行機」だった。

day.1へ続く。

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