洗濯がこわい
洗濯が怖いのである。
正確に言えば、洗濯の後、乾燥機で乾燥させた衣服を取り込む時。
その時が怖いのである。
何故、怖いのか。
最大の理由は静電気である。
私は静電気というやつが実に苦手なのである。
あの「バチッ」と感と指先の痺れ、僅かな痛み。
ほんの些細なことであるが、あの静電気にびっくりした時点で、今日一日が台無しになったような気さえする。
その静電気に、生活の中で一番遭遇しやすいのが、乾いた洗濯物同士が擦れ、静電気を溜め込んでいる乾燥機から、洗濯物を取り出す時である。
そもそも、私がコインランドリーで洗濯をし、電気の乾燥機を使っているのが悪いのはわかっている。
安くてもいいから、自宅に洗濯機を置き、洗い上がった衣服は自然乾燥させればよいのである。
それもわかっている。
が、洗濯機を買って、設置をして、排水路を整備して、やっと使えると考えただけで導入を諦めてしまうのだ。
それに、次の引っ越しの際、荷物がさらに増える。
引っ越しの予定なんてさらさら無いのに。
そして、洗濯の度に、静電気との闘いに明け暮れてきた。
だから、私なりに静電気の恐怖を遠ざけるため、様々に工夫をしてきた。
まずは、乾燥機に入れる洗い物から毛織物の類を除けておくことだ。
これだけで静電気の恐怖は大きく薄れる。
さらに、柔軟剤入りの洗剤を使うこと。
これで静電気との遭遇率はグッと低くなる。
そして、念には念。
洗濯物を取り出す際、直接布を触るのではなく、洗い上がった洗濯物1枚を手に被せておき、直接静電気が伝わるのを避けるように取り込むのだ。
これに一番適しているのは、ポリエステル多めのトランクスである。
これのおかげで静電気はかなり抑えられることが、長い生活でわかった。
本当に、他人には役に立たない生活の知恵である。
白状しよう。
静電気に対して最も神経質だった、一人暮らしの初期。
私は薄手のゴム手袋を洗濯バッグに忍ばせて、コインランドリーへ行っていた。
静電気との闘いから逃れるためである。
あの、世の中のお母さん達が台所で使うような、ピンクや赤といった蛍光色ではなく、白濁した色の、付けていることが分かりにくいものを使っていた。
着けていることを悟られないようにである。
やっぱり自分でもちょっと神経質なことは自覚しているのである。
でも怖い。
私は恐怖への対処法を金で買うことにしたのだ。
大人になると、こういう金の使い方が実に多くなる、ような気がする。
しかしながら、今は冬だ。
油断すると、頻繁に静電気に「バチッ」とやられる季節である。
こんな時期の洗濯が一番嫌なのである。
乾燥機に放り込むものを出来るだけ絡ませないように、毛織物は入れないように、慎重に入れていき、30分後に取り出す。
乾燥が終わった直後は、きっと乾燥機でグルグルと回った衣類が毛羽立っているだろうから、少し時間を置いて取りに行く。
そして、やっぱり私の手には、履き古したトランクスが被せてある。
それでも、それでも、である。
「ピリッ」と静電気のような刺激に出くわすことがあるのだ。
これだけやってもまだあの恐怖から逃れられないのか。
ちょっと絶望的な気持ちになる。
しかし、段々と季節が進み、空気が潤んでくると、恐怖は段々と薄らいでくる。それまでの辛抱なのだ。
それでも日々、洗濯物は溜まり、洗濯物入れのバッグが一杯になったら、
私はまたしても静電気の恐怖と対峙せねばならない。
遠くの静電気のない季節が、日一日と迫っている、と自分を鼓舞しながら。
新年からくよくよした感じでお送りしております。
今年もよろしくお願いします。
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