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『aラストティア』~荒野の楽園編~ 第三章グオーレ王国 01ここは異世界?それとも現実?

 第三章グオーレ王国 01ここは異世界?それとも現実?

村を出発した優理とカレンは、リングの導く先に従って荒れた荒野を進む。
リングを指にはめると微量な感触の風が指先に伝わってくる。その感じた風の方向にティアの所持者(マスター)が捕らわれているというグオーレ王国があるということにはなるが・・・・・・。
「本当にこの方向であっているのかな」
代わり映えしない風景に加え、目に見えて道だと思うような道もない。カレンはだんだん不安になってきていたのだ。
「そうだな・・・・・・」
優理も同じ気持ちだった。
正確な世界地図もないから一体今どこに自分たちが居て、あとどのくらいの距離で着くかすら分からない。ゴールが見えないというのは人を不安にするものだろう。

「この空気をなんとかしないといけないけど・・・・・・、これまで女の子と二人っきりで会話なんてしたことないしどんなことを聞いて良いのか話していいのか分からないなぁ・・・・・・。
そもそもカレンと会ってからまだ3日しか立ってないし知らないことだらけだな。」
 優理は頭の中でぶつくさと考えながら歩いていた。
「あのさ・・・・・・」
「えっなに?」
「なんでそんなに険しい顔してんの?」
「そんな険しい顔してた?」
「してたよ」
 どうやら考え事をしているときの優理の顔は怖いらしい。
「あの、えっと・・・・・・。考え事してたんだ。この空気をなんとか和ませられないかなって。でもあんまり会話というかなんて話して良いかが分からなくて、ほらカレンとも会ってからそんなに日も経ってないだろ?知らないことだらけでさ」
 するとカレンはぷっと軽く噴いて笑う。
「な~んだそんなこと考えてたのか。もっと深刻な悩みでもあるのかと思っちゃった」
「ごめん」
「じゃあさ、改めて自己紹介するってのも変だからお互いに質問しあうってのはどう?」カレンの気の利いた提案に「あ、それいいね」と返事をして頷く。
「じゃあ私から、優理は・・・・・・好きな子、彼女とか居たの?」
突拍子も無い質問に優理は目を丸くする。頭の上でごろごろしていたニュートンもピクンと身体が反応した。
「なっ・・・・・・急になんだよその質問!」
「その様子だといない感じだな」
 指先を優理に向けてくるくるさせながらカレンが言った。
「ぐ・・・・・・、おっしゃる通りだよ。彼女どころか現実の世界では友達すら居なかった。あまり人となれ合うのは得意じゃないんだ。」
 なぜか胸をなで下ろすニュートン。
「そうなのか?私はそんな風には感じてなかったが」
「まぁ自分から話しかけるってことはしないだけで、話しかけられる分には受け答えくらいはできる」
「へ~そうだったのか。次は優理の番だよ。苦手な話しかけるの頑張って」
軽くおちょくってくるカレン。
「じゃあ、そういうカレンは彼氏とかいたのかよ」
「ずるい!それ私がした質問じゃん」
「き、気にすんなよ!で、どうなんだ」
「い、いないですわよ・・・・・・」
「そ、そうか・・・・・・」
「反応薄っ!もっとなんかちゃんとした反応しなさいよ!」
「どんな反応が正しい反応なんだよ! ってイタイッ!?」
急にニュートンが優理の髪を引っ張った。
「ほら優理がちゃんとフォローしないから」
「いや違うだろ!なんで怒ってるんだよニュートン」
優理が聞くもニュートンは知らんぷりして頭から肩を通してポッケまで降りていった。
気を取り直して優理は少し真剣な顔をしカレンの方を向いて聞く。
「あのさ、カレンはこのセピア世界やティアについてどのくらい知ってるんだ?僕よりティアの使い方については詳しいみたいだし」
「前にも言ったが私の記憶も曖昧でな、優理に教えたこと以外で知ってることはもう殆ど無い。自然が失われたセピア世界で唯一の希望であるティアの所持者(マスター)。世界を救うにはこの世界のどこかにある楽園で聖杯に祈りを捧げること。もちろんティアの所持者(マスター)全員で。」
「7つのティアの頂点に立つ者として世界を救う。」虹色のティアを手にした時【神】という存在の何者かに言われた言葉を思い出し口にする。
「7つの頂点ってことは私たち二人の他に6人のティアの所持者(マスター)がいるってことになるね」
「まずは6人探すことからだな」
 自分たちがやるべきことの目標が見えてくるとそのために頑張らなきゃって気持ちなれる。優理は少し気持ちが楽になった気がした。しかしカレンは少し違った様子で言う。
「あのさ、やっぱり気になることがあるんだけど・・・・・・、イレイザ達のことどう考えてる?」
 村を出る前からカレンは気にしていた。イレイザのような敵の存在を。
確かにこの世界が元の人間の世界なんだとしたら、イレイザや骸骨兵士みたいな異世界やゲーム世界にしかいないような存在は異色。一体どこから生まれてきたのか、人類の敵なのか味方なのか?目的はなんなのか?わからないことだらけである。それともう一つ・・・・・・。
「カレンの赤のティアは火を扱うことができるんだよな?」
「そうだけどそれがどうかしたの?」
「イレイザが使っていたあの爆発って、一種の火なんじゃ無いかと思って。ティアの所持者(マスター)以外にも自然の力とか魔力とか扱えるやつがいるってことなのかなと」
「確かにティアの所持者(マスター)は唯一の希望とか言われているのに、他にも使える者がいるっていうのはおかしいかも」
「同じ系統使いであっても分からないってことか・・・・・・。そもそもセピア世界自体が現実では無い異世界って可能性もありえるか・・・・・・。だとしたら対等な力を持った悪役的存在?」
「つまり魔王的な存在もいるってこと?」
「その魔王を倒して世界を救うのが僕達ティアの所持者(マスター)・・・・・・。ありえなくはない」
「神の言葉には魔王のような存在をほのめかす言葉は一切無かったはず」
「たしかに神の言葉にはなかったし、村長は明らかにもとの世界の人間だ。つまり現実にいた人間」
「それは私と優理も同じでしょ?」
「そうなんだけど、完全に異世界なんだとしたらNPC的な存在に現実世界の人間が混ざってることになる」
 優理が知っている限りの異世界冒険ファンタジーでは、そもそも異世界=現実で生きている設定を除けば、大抵異世界転生・転移するのは主人公格になる人物や大量生産型の勇者であり、何でも無いただの村人や商人も現実世界の人間ということは少ないのだ。
「そうだとしたらこの世界は?」
「異世界のような現実世界、そんなとこだろう」
優理は真剣な口調で答えた。
「異世界のような現実世界?それって単純に異世界なんじゃないの?」
「え?」
「え?」
お互いに何がおかしいのと言わんばかりのへんてこな「え?」を発する。
この間とへんてこな音が頭の中を反芻すること数秒、ついにカレンは耐えきれずに大きな声をだして笑った。
「な、なにがおかしいんだよ!」優理は恥ずかしくなって声を荒げる。
「いや、なんかおかしくってさ そんな真剣な顔して【異世界のような現実世界】だっってっ・・・・・・」
そういうとまた笑うカレン。
「だってそうだろ!完全に異世界ってわけじゃないけど異世界のような感じなんだから異世界のような現実世界であってるだろ!」
「わかったって、そんなむきにならなくて良いか」
「むきになんてなってないし」
ややムスっとした顔をして優理が言う。
「ごめんって、まぁまだ分からないことだらけだから、今やるべきことをやろう」
完全に納得したわけでは無いがその通りなので優理もコクンと頷く。
考えたって仕方の無いことも有る、問題は以前解決したわけでは無いが、二人の不安は和らいでいることだろう。