茶道未経験でお茶会に初参加した話
先日、生まれて初めてのお茶会に参加してきた。それも一人で。
結論、ものすごく楽しかった。行けて良かった。そのお茶会の名は松露会大会。京都宇治の興聖寺で開催された会だ。
私は茶道、お茶会、一切の未経験者である。茶道具も持っていないし、恥ずかしながら作法の知識もなにもない。話題のドラクエ3で例えるなら、ひのきのぼうで大魔王バラモスを倒しにいくようなものだ。
ではなぜそのお茶会に参加しようと思ったか。
理由は至ってシンプルで、お茶会で使用される「朝日焼の器が好きだから」である。
朝日焼のギャラリーショップもまた宇治にあり、そちらには数回足を運ばせてもらっている。朝日焼の陶芸体験で作ったお茶碗も愛用している。色合いが美しく洗練されていて、手にも馴染む器なのだ。
また、朝日焼の器は私の推しの「推し器」だった。知ったきっかけは推し活である。
ただ、初心者ひとりで参加するのは気が引けた。浮くのではないか、不慣れ過ぎて周囲に迷惑をかけるのではないかという不安からだ。
お茶会の流れや仕組みをまったくと言っていいほど知らないため、「器が好き」という気持ちひとつで参加して良いものなのか。どうしても敷居が高かった。
そこで主催の方に伺ってみた。
「こちらのお茶会に興味があるのですが、茶道未経験者でも参加して大丈夫でしょうか…?」
すると、とても親切かつ丁寧な返信をいただいた。
「茶道に親しまれている方から初心者の方、普段茶道に触れていない方まで、様々な方が楽しんでいただけるよう、主催としては考えております」「ぜひ参加をいただけたら嬉しく思いますが、茶会ご参加が初めてでお一人でご参加の場合は、少し楽しみにくいかもしれません」
おーっと!!まさにお茶会初めてかつ一人参加を考えていた私は、悩んだ。さすがに見送らせていただいたほうが良いだろうか。
だが、その後に続く言葉が私の背中を後押ししてくれたのだ。
「私なんかはどこでもひとりで楽しんでしまうので、(〜略)ぜひあまり構えずに来ていただけたらと思います」
心強い!!よっしゃ、それなら私もひとりで楽しんでしまおうではないか。めったにない機会だし、気になるし、ぜひ参加させていただこう。きっと後悔しないだろう。以上が参加を決意するまでの流れだった。
行くと決めてからお茶会当日までに、私がしたことは以下である。
・楽天で懐紙、菓子切などの茶道具セットを購入
・白い靴下を購入
・ヘアセットの予約をするか、前日まで迷う(結局予約せず、自分でアップした)
準備は整った。さあ、興聖寺にいざ参らん。
自分を鼓舞し、武士のような気持ちで京都に向かった。
案内を受け、まず私が入ったのは点心席。約20名ほどが同じ空間で席に着いていた。着物の方、私服の方、約半々だ。
点心がなにかをわかっていなかった私は、軽食程度だろうと思っていた。そうしたら、豪華なお食事が出てきたことに驚いた。朝日焼の器で日本酒もいただく。美味しかった。
こちらの席では、くじ引きや全員へのお土産など、色々な嬉しいサプライズをいただいた。
ただこの時点では、まだ緊張が解けなかった。
約一時間ほどで点心席を立ち、濃茶席へ移動する時に、前後だった三人娘(とあえて書かせていただく)と軽く会話をした。お庭綺麗ですねえ、とかそんな感じの会話だ。
三人娘達は、初対面かつ初心者の私と気さくに話してくれ、私が茶道未経験だと知ると、しきりにこの茶会一人参加をすごいすごいと褒めてくれた。一人で少し所在なかった私は、助かった!とばかりに三人娘についていくことにした。
濃茶席で和菓子をお受取するも、いまいち何をすれば良いかわかっていない私に三人娘はそっと懐紙の出し方、和菓子の切り方などを教えてくれた。助かる。私は見様見真似でそれを行った。
はーーー美味しい。そして、和菓子、美しい。
心が解ける瞬間だった。
裏千家の先生から、大河ドラマ「光る君へ」の話が数回出た。大河を嗜んでいたら、きっともっと話がわかって楽しいだろうなと思った。
三人娘は、このお茶会のためにはるばる東北からこの宇治に来られたという。皆、長年茶道に慣れ親しんでいる方達だった。
茶道にはすべてがあるのよ、と話していた。
季節、庭、花、掛け軸、茶、和菓子、器、空間。その全部を丸ごと楽しめると。そして身に着いた所作は、自分を救ってくれると。
始めるならお若い今のうちよ、とお茶目な笑顔で言われた。若くもないが、その空間にいた人たちの中では明らかに私が一番年下だった。
まさに、庭、花、掛け軸、茶、和菓子、器、空間すべてが素敵でときめいた。好きな器がきっかけで、お茶会を経験することができるとは思ってもみなかった。この日限定の器も見ることができて嬉しかった。
◆
帰り道、私は三人娘に「朝日焼さんの器でお茶できる素敵なカフェが京都の駅近にありますよ!」と、揚々とプレゼンをした。そのカフェはKaikado Caféと言う。皆興味を示してくれ、明日行こうかしら、と言ってくれた。
仙台お勧めのお店を教えてもらい、四人で写真を撮り、朝日焼のショップへ行き、連絡先を交換して別れた。
次の日、「カフェに立ち寄り、朝日焼さんの器で皆であんバタトーストをいただきました」
「素敵なカフェでした」という連絡をもらった。
お茶会、参加してよかったなと思った。あの空間に癒されたし、型に嵌められたことを型に嵌められたとおりに行うのが気持ち良かった。作法の快楽とでも言うのだろうか。
帰路についた私は、茶道のレッスンに友達を誘って申し込んだ。
自分とは無縁だと思っていた世界に足を踏み入れること。そして知識が深まること。すべてが新鮮で楽しくて、嬉しいことだった。一期一会の出会いもあった。
次に参加できるお茶会はどんなだろうか。それまでに、正座に慣れる練習をしておこうと私は思った。