『ハナ 〜奇跡の46日間〜』卓球南北統一チームの活躍を描いた青春映画の傑作
1991年千葉世界卓球選手権大会での優勝を目指して結成された南北統一チーム『コリア』。南北の卓球選手が共に過ごした46日間をもとにしたフィクション。韓国代表のヒョン・ジョンファと北朝鮮代表のリ・プニは1990年アジア大会で決勝進出をかけて争った因縁がある。結局その大会では中国代表が優勝。北朝鮮が銀メダル、韓国が銅メダルを獲得することになる。その後、ヒョン・ジョンファは翌年千葉で開かれる世界大会に向けて練習に励んでいた。ある日韓国代表コーチに呼び出された選手たちは驚くべき計画を聞かされる。中国に勝つために北朝鮮代表との統一チームで出場するというのだ。自由な気風の韓国選手とSPによる監視付きの北朝鮮選手。果たして統一チームは大会に出場し強敵中国を倒すことができるのか。
当初は敵対していた者同士が強敵を倒すために手を組む。最初は仲違いしていたが次第に友情が芽生え、強い絆で結ばれた彼らは強敵との死闘に臨む。映画・ドラマ・小説・漫画・ゲームなど様々な形で描かれてきた物語だ。使い古されているだけに容易に展開が予想できる。正直このタイプの青春物語はちょっとな…
『ハナ 〜奇跡の46日間〜』はこんな凝り固まった先入観を見事に裏切ってくれる作品だ。もちろん物語の構造自体に珍しさはない。どこに魅力があるのか。それは”大人の都合”に翻弄されながらも健気に勝利を目指す選手たちの姿だ。国家プロジェクトとして自分の意志に反して韓国と北朝鮮から集められた選手たち。本来なら祖国の代表として強豪中国と相対するはずだったのに、統一チーム結成によってさらに大きな政治性を背負わされてしまう。始めは激しく対立していた選手たちも友情が芽生え、プレーの息もあってくる。すると今度は北朝鮮の容赦ない”大人の都合”が降りかかる。南の自由な気風に北の選手が影響されてはならぬと言うのだ。鶴の一声で北朝鮮選手団は準決勝の出場を拒否する。一体どうやって強敵中国が待つ決勝にたどり着くのか。中国代表を前にして選手たちはどんな戦いを見せるのか。息をつかせない展開が続く。
決勝戦はこの映画の重要なパーツだ。しかし本当のクライマックスは大会が終わった後にやってくる。”大人の都合”によって無理やり集められた南北の選手が、より大きな”大人の都合”によって引き裂かれてしまう。韓国版のフライヤーにはいくつかのバージョンがあるが、映画を見終わってからこの1枚を見ると泣ける。
ヒョン・ジョンファがバスに乗ろうとするリ・プニ向かって「お姉さん」と呼びかけるシーンで涙腺が決壊した。手紙を書くことも電話をかけることも許されない。二度と会えないかもしれない。だから最後のあいさつは「お元気で」。為す術もなく北朝鮮選手を見送る韓国選手たち。どれだけ国際情勢オンチでも極東アジアに暮らす人々ならこれが何を意味するかぐらいは理解できるだろう。
ありきたりな青春映画を面白くするのは悲劇だ。悲しい現実の中で育んだ友情だからこそ儚く、脆く、美しい。正直このタイプの青春映画はちょっと…と思う人にこそ見てほしい。きっと忘れられない作品になるだろう。
原題:코리아 監督:ムン・ヒョンソン(2012年)