今日見た映画(2020/06/01)
・『サーミの血』 監督:アマンダ・シェーネル(2018年)
スウェーデンの北部でトナカイの遊牧をしながらテント生活をするサーミ人。そのもとに生まれた子どもたちは伝統を受け継ぐことを半ば矯正されている。サーミ人の子どもたちに用意された寄宿舎で教育を受け、外界との接触はほぼ断絶されている。主人公の少女、エレ・マリャは最初のうちは学校に行けることを喜んでいたが、次第にスウェーデン人による屈辱的な扱いに耐えられなくなる。”お前たちは臭い””その小さな脳では現代社会を生きていけない”等の差別的な言説に直面しながらも、学校を飛び出し都会に向かう。しかし受け入れてくれる人などいるわけでもなく、当てにしていた男にも捨てられ行き場を失う。かろうじてスウェーデン人の通う学校に入学したものの次は授業料という壁にぶちあたる。金を工面するために故郷に戻るも、一度は故郷を捨てた人間にコミュニティは冷たい視線を送る。ドラマチックな展開はないし、予想していたほどに胸くその悪い展開もなかった。でも静かな画面の中に描かれているのは、サーミ人として生まれてしまった不運に心をズタズタにされていく少女の姿。見ていて辛い。これが単に主人公だけに降り掛かった災難ではなく、歴史を通じて科学的・社会的・道徳的に正しいとされていたのだから余計に恐ろしい。きっとこの映画自体は何かの主義主張を啓蒙しようという目的を全面に出しているタイプの映画ではないだろう。でも個人の生活の目線でマイノリティに属する人々が、自分のコミュニティの内と外から、それぞれどんな眼差しを投げかけられてきたのかを皮膚感覚で追体験できる映画だった。
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