見出し画像

『モカリック 修理工とボクの1日』11歳の少年の視点からナイジェリアの自動車修理工の暮らしを見つめる映画

画像1

主人公は11歳のポンミレ少年。父親は学校での成績が思わしくない息子に社会勉強をさせたいようだ。親子はまず地域一帯の自動車修理工を取りまとめる”群長”のところへ挨拶にやってくる。一通りの挨拶を済ませると群長は近くにいた見習いの若者にポンミレを預ける。こうして彼の見習い体験の1日が始まる。

舞台となっているナイジェリアの首都ラゴス郊外にある「メカニック・ヴィレッジ」には小さな自動車修理工場がびっしりと軒を連ねている。日本のそれとは違い現地の自動車整備・修理業は徹底した分業制で成り立っている。足回り・エンジン・配線・塗装を専門とする職人がそれぞれ店を構える。客は修理したい部分に応じて店を選ぶのだ。この映画の中で最もフォーカスされているのは独特の徒弟制度だ。それぞれの店のボスの下に見習いがいる。一定の見習い期間を経てボスや群長などから認められた男だけが見習いを”卒業”する。見習いとして働く若者たちはポンミレとは対象的に貧しい生い立ちで、その発言からはろくに教育を受けていないことが見て取れる。

自己主張の強い見習いたちは常に何かを言い争っている。貸した12インチのスパナが戻ってこないとか、誰が食堂の娘と付き合うかとか、サッカーフランス代表のメンバーはアフリカ人かフランス人かなど、終始他愛もないことで口論する。この見習いたちの人間模様が11歳のポンミレの視点から描かれていく。

群長は前もって少年の行き先をある程度決めてくれていたようだ。まずは自動車の足回りを扱う店で働く。ここで見習いをしている男はポンミレを子供扱いする。男は「一番速い車はベンツだ」と言い張る。ポンミレは「ベンツより速い車はたくさんある。ブガッティとか」と言い返す。男は「なんだそれ、俺よりモノを知っていると思うのか?ホイール交換もできないくせに。黙っとけ」と一蹴する。そして黙って作業を見ていたポンミレが一言「車体を上げる前にタイヤのボルトを緩めるのは間違っている」と指摘する。このやり取りで実はポンミレが車に詳しいことが明らかになる。

彼は次から次へと違う業種の修理工のもとへ連れて行かれる。エンジン屋では客とのひと悶着を目撃し、塗装屋ではポンミレの才能を見抜いたボスに重要な仕事を任される。行った先々での人間模様や見習い工の姿を見て少しずつ働く喜びを感じるようになる。

クライマックスは最後に開かれるパーティーだ。冒頭からその開催がほのめかされるが目的は明らかにされない。そしてこのパーティーにこそ本作のメッセージが集約されているように見える。メカニック・ヴィレッジで働く全ての見習いたちの目標とは何か、日々仲間たちと言い争いながら働く意義とは何か。楽しいパーティーがポンミレに大事な教訓を教える。

あっという間に1日が終わり再び父親が登場する。群長は少年の働き褒めてを父親のもとに帰す。そして1日を振り返ったポンミレの下す決断。大きく成長した息子の姿を見て父親や群長は驚きつつも満足げな表情になる。

この映画を見る人によっては単なる職業映画でつまらなく感じるかもしれない。世界の注目が集まるナイジェリア発のノリウッド映画とはいえ、普段見ている欧米やアジアの作品とはテイストが違って初めは戸惑うだろう。しかし「これまで存在すら知らなかったナイジェリアの修理工たちに感情移入できるようになる99分」と考えれば貴重な体験ではないだろうか。バカバカしくも懸命に生きる人々がコミカルに描かれている映画だった。

原題:Mokalik 英題:Mechanic 監督: Kunle Afolayan(2019年)


いいなと思ったら応援しよう!