見出し画像

今日見た映画(2020/06/29)

・ラ・チャナ 監督:ルツィヤ・ストイェビッチ(2016年)

画像1

伝説のフラメンコダンサー、ラ・チャナの生涯を追ったドキュメンタリー。10代で叔父に誘われてダンサーデビュー。若くして結婚と出産を経験し、夫をマネージャーに据えてダンサーとして大成功。しかしその影では夫からの激しいDVを受ける。肋骨が2本折れたまま舞台に上がることもあったそうだ。保守的な環境では黙って服従することが美徳とされる。これだけ成功した女性でも子どもを連れて家を出る選択肢はなかったようだ。ある日突然夫が財産全てを持って失踪したことから生活は一変。どん底に落ちたラ・チャナは再びゼロからダンサーとしての道を歩み始める。華麗な成功と壮絶な家庭環境。そのギャップの激しさには驚かされるばかり。映画の最後では年老いても舞台上の椅子に座ってステップを踏む彼女の姿が収められている。彼女が踊りについて語る時、リズムをコンパスと言い換えていたのが印象的だった。娘は子供の頃に踊る母を見て「このままでは死んでしまう」と思ったそうだ。彼女の内面がコンパスに導かれてリズムを刻む時、肉体的な限界すらも打ち破ろうとする力が爆発していたのだろう。エンドロールの全盛期の踊りっぷりも素晴らしかった。

・パラダイス・ナウ 監督:ハニ・アブ・アサド(2005年)

画像2

とんでもない傑作に出会った。パレスチナから自爆テロに向かう二人の若者、サイードとハレードの物語。自動車修理工として暮らす二人にテロ実行役としての白羽の矢が立つ。覚悟・迷い・不安を抱えながら爆弾を体に巻きつけてイスラエルへと送り出される。しかし計画実行直前で二人がはぐれてしまったところから物語の緊張感がぐっと高まる。死んだように生きるか、名誉の死を選ぶのか。そして一旦はパレスチナに戻ってくるものの再び計画を実行へ移す。ヒロイン役が自爆テロを思いとどまらせようとする方法も良かった。「死なないで」と語らせることは簡単だ。しかしこの映画は彼女を海外育ちの殉教者の娘として描いている。どれだけ周囲が英雄としてたたえたとしても、残された家族はどうなる。イスラエルの圧倒的な武力を前にたった一人の自爆攻撃に効果があるのか。こうした彼女の問いかけもむなしく二人は再び計画を実行へ移すことになる。しかし前半とラストでは二人の心境が全く入れ替わっている。迷いを抱えた若者が次第に覚悟を決めていく表情の変化。パラダイスに行けるという確信のうちに爆弾のベルトを引いて散っていった。イスラエルの兵士たちを巻き添えにして。



いいなと思ったら応援しよう!