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『マウトハウゼンの写真家』ナチスによる人道犯罪の動かぬ証拠を守ったスペイン人

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時は第二次世界大戦の真っ只中。マウトハウゼン強制収容所にはスペイン人が7000人以上収容された。その多くはフランス軍と戦った兵士や内戦で破れた者たちだ。フランコ政権のスニェル外相はドイツ軍に捕らわれたスペイン人たちの国籍を剥奪。母国に見放された彼らはナチスの格好の餌食となった。収容所では囚人が虐待される一方で、ナチスの仕事を手伝うために重宝される者もいた。フランセスク・ボシュはそのうちの一人。カメラの技術を買われて収容所の写真現像所で働きはじめる。ある日ボシュはネガの整理をしていて偶然にもナチスの人道犯罪の証拠を発見する。彼はナチスの残忍な虐待を告発するべく仲間と協力して証拠品のネガを外部に持ち出す計画を立てるのだった。

ナチスが強制収容所に送り込んだ人々といえばユダヤ人・政治犯・同性愛者・ジプシーが知られている。そこにスペイン人が含まれていたことは全く知らなかった。マウトハウゼン強制収容所に到着した瞬間から命の選別が始まる。車載型のガス室、死の階段、犬に引き裂かれるなど殺しにかけてナチスは天才的なアイデアを持っている。辛うじて生き残れたとしても将校と囚人監督の暴力からは逃れられない。大人も子ども囚人であるだけで虫けら、それ以下に扱われる描写は正直見ていて苦しい。

この映画の主人公は息の詰まるような収容所で幸運にもカメラ助手の役回りを与えられる。身ぐるみ剥がされた同胞、宿舎の暮らし、偽装工作を加えた死体。ナチス将校パウル・リッケンは自分では手を下さず最も美しい囚人の写真を撮ることだけに喜びを見出している。この男からボシュはカメラ助手の役回りと少しの自由与えられる。この自由を最大限に利用し、見つけたネガフィルムを同房の仲間、収容所からドイツ人家庭に引き取られた子ども、囚人の性処理をさせられている女性に託す。ナチス敗戦の足音が近づく中、虐待の残忍さにも拍車がかかる。果たしてネガフィルムを託された人々が無事に生き延びられるのか。息を飲む展開が続く。

印象的なのはパウル・リッケンの芸術としての写真と、囚人たちが守り抜く人道犯罪の証拠の対比だ。前者は構図や演出に細かくこだわっているのに何の魅力もない。緻密な演出がただ不気味な冷淡さを放っている。対して殺された囚人の写真は目を背けたくなる現実にもかかわらず人の心を打つ。国籍や言語を超えた人間の良心に訴えかける力があるのだ。

「事実に基づく物語」という文句で紹介されるからには、この物語を生き延びて語り継いだ人がいる。ボシュと彼が持ち出したネガフィルム、強制収容所解放の際に撮った写真が後にどんな役割を果たすのかがエンディングで明かされる。1951年7月7日、彼は30歳で短い生涯を終える。“写真家”としての活動期間はごくわずか。しかし間違いなく偉大なカメラマンとして記憶されるべき人物だろう。

原題:El fotógrafo de Mauthausen 監督:マル・タルガローナ(2018年)



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