チューリッヒ事件
石の上にも三年。スイスに来て3年目。
嫌なこと、避けたいことには飛び込め!ということで、現地で日本人と関わって仕事を始めた。
結論から言うと、スイスで日本人と仕事をすることは、あれこれ最悪の日本人を妄想でしつらえたのが功を奏したのか、色々な発見があって面白い。嫌いだったことが克服出来てきていることが嬉しくもある。先日、スイスの機械製造の会社と、日本の企業の少々年上の男性、Hさんとの英語のお手伝いをした時のことだった。
日本から来る企業でも、エンジニア出身の人は総じて真面目で熱心に映る。工場で説明を聞く姿、機械に食い入る目は真剣そのものだった。工場見学が無事終わり、会社の帰りの送迎車の中、後部席でHさんと世間話しをしていた時だった。Hさんは、今回のヨーロッパ出張の旅で発見があったそうだ。こう話してくれた。
「空港のアナウンスや空港会社の社員さんが、ズーリー、ズーリーって言っているの聞いて、ずっと何かなーと思っていたんですよ。あれってズーリックというんですね。あれってチューリッヒのことだったんですね。」
なるほど?そうか?何を今更。いや。いや、そうだ!その通りだ。海外旅行に慣れた人や英語をかじる日本人なら、同様に何を今更。と思うかも知れない。「発音ワルいですね」って言われるかもしれない。
しかし、日本語では正真正銘チューリッヒと言うではないか!何が悪い。送迎車を運転するスイス人の社員の運転手さんに、その会話の内容を伝えた。「日本語ではズーリックは、チューリッヒなんですよ」
そして、
「I am from チューリッヒ」 「Are you from チューリッヒ?」 この発音の通り、言ってみた。
そしたら、運転手さんが運転しながら爆笑した。純粋に、大笑いされた。
バカにするとかでなく、「ハハハ―!!!」って。自分で自分の発音を聞いても、我ながら変だと思った。
運転手さんにもとても可笑しく聞こえたんだ。
英語と日本語を交ぜるととても滑稽に聞こえる。音の相性が何だか、よろしくないのだ。。。
日本の教育で、英語の発音に敏感になるのが痛いほど、分かる。
大笑いされ、屈辱と恥ずかしさに私は0.1秒、人知れず涙が出た。
同時に、日本語の「チューリッヒ」の発音が、純粋に滑稽だった。。。
そしてこれが素晴らしく思えた!涙が出る程滑稽、これって素晴らしい!と思った。Hさんも、この場面ではつられて笑っていた様子だった。
Hさんはどこまでそう感じたかは分からない。しかし私は、こんな小さな何気ないささいなことだったが、内心感動して涙が出た。
「ねー。こうやって、痛い思いをしながら語学を学んで行くんですよ。」笑う余韻の残る中、私は呟いた。
これを笑って行けるなら、強く生きれると思う。自分に対してなのか、日本に対してなのか。曖昧であるが、本当に些細な瞬間の明るい兆しを感じた。小さな歴史的瞬間を、ここに刻もうと思う。
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