そして私はいつまでも、消えないキャンプファイヤーを眺めていた
あれは、10年前のちょうど今頃。
高校最後の体育祭が終わった。
私の通っていた高校は直線で80メートルしか引けないような狭いグラウンドの、運動にはあまり優れていない文化系の少し変わった高校だった。
だから体育祭は、全校を4つの応援団に分けた応援合戦が最大の見どころで、リレーも綱引きもまぁ一応は盛り上がるけれど、有志が行うフィナーレの応援団の全体ダンスにとにかく全力を懸けている、というスタンスのものだった。
「第3位は……」から始まる結果発表が終了後に体育館で行われ、今はまだ呼ばれるな!と固唾を飲んでその声の続きを待ちながら「優勝は……」と校長先生がわざとらしくタメにタメを効かせた一言に手を握り合って耳を傾け、最後には呼ばれても呼ばれなくてもやはり涙を流したものだった。
そんなきらめいた青春が詰まった一日の終わりには決まって、80メートルしか引けない小さな狭いあのグラウンドで、全員を讃えるマイムマイムを踊る、といういわばキャンプファイヤーのような伝統の裏メインイベントが存在した。
最初は聴き馴染みのあるいつものゆったりしたリズムから始まるのだが、ボルテージが上がると共に徐々に音楽はスピードアップしてゆく。そしてサビともいうべき「マイム!マイム!マイム!マイム!」の瞬間に、円の中心に猛ダッシュで全員が突っ込み、高校球児さながら身体をぶつけ合って一本指を立てながら思いっっっきり飛ぶのだ。
誰がいつからやり始めたのかは全く知らないが、これが我が母校が誇る体育祭の、とことん真面目でとことん馬鹿馬鹿しい最高の締めくくりであった。
……昨夜、キナリ杯を終えて。
「これは何だか、あの時と同じきらめきだったなぁ」と後夜祭の岸田さんのキラキラの笑顔を眺めながら、私は感傷に浸っていた。
一応進学校だった我が校は、応援団のダンス用に公式的に練習時間が割り当てられることはなく、授業前、お昼休み、放課後、休日、という学外の時間を利用して各々が練習することになっていた。5月末に本番が控えているためGWなんてすべて無いに等しかった。
それでも、入団は自分で決めたことだから文句を言う人はおらず、目標に向かってひたむきにただダンスを覚え、団員全体の動きを揃え、体育祭当日に向けて粛々と日々を過ごした。
……これは、キナリ杯そのものではないか。
コンテストに出場するもしないも、自分次第。出さなくったって誰にも責められやしない。もちろん応援団とは違い個人競技ではあったものの、総勢4200名の出場者達はもはや同志!キナリ杯の開催を知ってから昨日までの期間、頭の片隅にはいつもキナリ杯がいた。
あの言葉、やっぱり変えようかな。
句読点の位置、ずらしたほうがいいかな。
そもそも、この作品で本当にいくのか?
他の作品見たけど、めちゃくちゃおもろいやん……
そうやって考え悩みあぐね続けた苦しすぎる出産時間を、約4200名の方が日本の、いや、世界のどこかで同時に過ごしていたと思うと、私はもうマイムマイムを踊らずにはいられなかった。
\ SAY!!レッサッサ!! / と、Twitterであやうく呼びかけてしまいそうだった。
今回、私には残念ながら、タメにタメた校長先生の明るい声は届かなかった。
そんなまさか、でももしかしたら。
なんて想像しながら時計の針を眺めては、1時間ごとに少しだけ落ち込み、それ以上に笑った。
いやいや、これはもうさすがに。
なんて薄暗い心に僅かな火を灯しては、21時を迎えてやはり落ち込み、それ以上にもっと笑った。
この目で見たことも会ったこともないひとと、「note」というツールを通して分かち合えたこの気持ちを、君と書いて恋と読んだRADWIMPSの野田洋次郎さんなら何と名付けるのだろう。
大人の青春と呼ぶには少しだけ恥ずかしく、単なる遊びと言われると腹立たしいこの感情を。
次々と上がってくる猛者達の受賞作を読んでは自分の足らずを知り、最後に改めて読み返してみては「それでも頑張って書いたよなぁ。」と自分が誇らしくなるようなこの感情を。
私がキナリ杯に出逢ったのは、イコール岸田さんに出逢い、そしてnoteに出逢ったタイミングだった。
同じ年齢、同じ関西人。共通点に惹かれて開いたその文章の数々には、驚きしかなかった。
赤べこの話には、声を出して笑ってそして静かに少しだけ泣いた。スズメバチとルンバの話には、笑いすぎてもはや声も出なかった。
そこから拡がったnoteの世界は、あまりにも自由でどこまでも広大で、誰かの言葉と感情が渦巻く、最高のエンターテインメントだった。
キナリ杯を経て鬼越トマホークさんが岸田さんのことを「ひとりM-1審査員の上沼恵美子さん」と表現しておられたけれど、関西人なら誰もが知るナニワの女帝(自宅は大阪城天守閣)を継いでゆくのは、やはり岸田さんなのかも知れないとにやりとしてしまった。本当に相手を想って発せられる嘘偽りない愛のある言葉を紡ぐひととして、とてもぴったりだと勝手ながら思っている。
改めて岸田奈美さんに、言葉では言い表せないほどの最高の感謝を。
共に闘わせていただいた4200名の同志に、称賛のマイムマイムを。
また、キナリ杯をきっかけに「磨け感情解像度」(投稿済なのでハッシュタグ無しですみません)という新たなチャレンジの場にも出逢わせていただいた。
" 感情解像度 "
この美しい佇まいの文字列を見ただけで、思いきって書いてみようと即座に決めた。いろんな方の解像度を知りたい、吸収したい。次はどれくらいの人とマイムマイムを踊れるのだろうか、今からまた苦悩とワクワクが止まない日々が始まる。
そして私はいつまでも、消えないキャンプファイヤーを眺めていた。