富山の人たちとともに (カターレ富山/中間総括インタビュー)
【本稿について】
今回は、先日発刊されたカターレ富山ファンクラブ会報誌に掲載した私の巻頭インタビューです。カターレの代表となり、一年以上が経ちましたので、これまでの振り返りをするつもりで話しました。カターレ富山を応援されてる方に限らず、スポーツビジネスに関心のある方に読んでいただければ幸いです。
《INDEX》
■カターレに来て感じたこと
■就任後即取り組んだこと
■2022年度の取組み
■最後に
■カターレに来て感じたこと
J3のクラブは初めてだったので、正直、どういうものかよく分からなかったですね。カターレの過去の売上げを調べても6億円を超えたことがあまりないサイズ。J2に戻らないと駄目だということには賛同しましたが、営業収益一つとってもこのままではなかなか難しいなと感じました。何を根拠にJ2に戻ると自信を持って言えるのか今ひとつはっきりしない、というのが第1印象でした。
それと、J2に戻ること、それだけでいいのか、というのがありまして、スポーツクラブは優勝したり昇格したりすることだけがクラブの使命かというとそうではない。試合の日は勝ったり負けたりで喜怒哀楽を味わうことができますが、それだけでは「カターレがここにあってよかった」と富山の人は思ってないのではないか。やはり、サッカーの試合以外の事業もしっかりと取り組むという部分が薄かったと思います。
J2に復帰する上で財務的根拠が希薄だったことと、それ以外の日常の中でカターレを浸透させていく活動が計画的に進められてないというのが最初に来て感じたことです。
■就任後即取り組んだこと
去年から力を入れたところが三つあります。一つ目は、チームをとにかくJ2に戻さないといけない。これは繰り返し説明してきて誰もが認めるところですので、あまり説明の必要もないでしょう。
二つ目は、カターレの認知度を上げるということです。街を歩いても関わりが薄いし、ポスターもあまり飾られているわけではなく、試合会場には1000人や2000人ぐらいしか来ない。富山県に100万人もいるのに、試合会場に2000人というのは、明らかにカターレが県民に親しまれているわけではないことを物語っていますので、認知度を上げていかなければいけない。そうしたこともあって、どんどん情報発信をしていくことが大事だということを感じました。試合の結果や練習の風景だけではなく、会社が取り組んでいる事をすべからくきちんと皆さんにお伝えしていかないといけないと思いました。その中で、地域の人たちと一緒に取り組む活動について、今年に入ってから「カターレ・ザ・ユートピア」と総称して、SDGsと絡めて体系化してやっていますが、既に去年から、地域の人達に喜んでもらうようなサッカーの試合以外の活動をやっていこうと、色々なことをゲリラ的に始めたら「それ、いいからやろうよ」とどんどん広がってきました。例えば、ご高齢の方々に元気になってもらう主旨で始めた「Be supporters!」はJリーグで表彰されるなど大きく取り上げられましたね。
三つ目は、経営のベンチマークを数値化して見える化していくということ。これは対外的な発信内容もそうですし、社内での仕事等の出来栄えを評価するのもそうですし、それから自分たちが目標を持って仕事をしていく上でも、大事なことなのです。そもそも月別に予算もなく、グッズを売ったり入場者の目標も作っていなかったので、何をもって目標に向かって走っているのか定かではなかったところがあります。それは突き詰めていくと、社員のやる気が上がらない病巣を作ります。目標がないと漫然と仕事をしてしまい、達成感も味わえないわけで、最終的には膠着した社内の雰囲気を作ってしまいます。大きな目標から今日の目標まできちんと作って、達成感が1年かけないと味わえないような内容ではなく、1日1日が勝負みたいな形でやれるように、そういう目標設定を行ってきました。去年今年に限ったことではなく、この三つはこういう仕事をやっていく以上は続けていく必要がありますね。
■2022年度の取組み
今年の事業方針ですが、競技性、社会性、それから経営面ということで、今年は最初から条文化して、世間にコミットしました。
競技性について、チームの方は、わかりやすく順位や得点で数字が出てきますし、現時点で4位とチームがJ2に復帰する可能性の中にいるのはいいことだと思います。また、勝っていることに加えて、課題をはっきりと選手たちが自覚し、勝っているけどまだまだこのサッカーを向上させられると思っているところがとてもいい状態ですね。課題の多い勝利というのは、舞い上がったり、天狗になったりしないですからね。
社会性については、健康、福祉、環境、教育という切り口でいろいろなプロジェクト活動をやっていますが、これはまさに試合以外のところで、お年寄りや障がいのある方々にも喜んでもらう、青少年の子供たちにはつらつと元気になってもらうという活動です。県全体に跨って活動できるように、いろいろなプロジェクトが進んでいる状態ですから、これも広く進んでいくようになれば、富山の人たちはみんな「カターレがあってよかった」と喜んでもらえるのかなと。最近では、民間の経営者もトップチームに協賛するのではなく、地域貢献や社会福祉活動に対して「自分たちにはそこまでのことはできないけどカターレさんにその夢を託します」と言ってお金を入れていただく社会貢献型スポンサーさんも増えてきていて、とてもいいサイクルになっていると思います。先般、富山県さん、新田知事にも入っていただき、包括連携協定を締結させていただきましたが、県全体でSDGsやウェルビーイングなどのキーワードも入れながら、地域の方々が「ここにカターレがあってよかった」と喜んでもらえる活動を、行政と一体となって進めることができるようなフェーズに入ってきたことは、中間進捗としてとてもいい状態だと思います。
最後に残った経営面は今年中にかっこをつけていかなければなりません。一人一人が自己申告で、自分の業績について管理していく。特に、これからJ2やJ1に這い上がっていく上で、営業収益を6億円からJ2平均の15億円、J1の50億円まで引き上げて考えていかなければならないので、皆さんに喜んでいただいた対価がちゃんと収入に、入場料やスポンサー、グッズ、スクールという形でマネタイズされる、そうしたことが、個人個人の目標の中にちゃんと落とし込まれて、本当の意味で実績も伴った「全員営業」というのが、これからの一番の経営面での課題になってくると思っています。全員営業というのは、カターレを大きくしていく上で、みんなが喜んでもらうことをしながらそれをお金に換えていくということで、それを個人別にちゃんと目標を持ってやっていくということです。これからサイズアップをしていく上でとても大事になってくる、その局面にやっと来たと感じています。
人生は、だらだら生きるより、いつも目標を持ってみんなに感謝されて喜ばれるほうがいいのではないでしょうか。仕事は大変で生活もハードですが、多少厳しくても、社員もそうですし選手もそうですが、富山の人に喜んでもらって、感謝されて「俺、ここで仕事をやれて良かったわ」と思ってもらいたいですね。短い人生なんてあっという間に終わってしまいますから。そういう喜びを、この会社の仕事を通じて味わってもらいたい。これは社員やチームに向けたメッセージでもあります。
■最後に
ファンクラブのような応援してくれる人たちとぜひ共有しておきたいことがあります。それは、カターレと一緒にここに住んでいてよかったと思ってもらうためのファイナルゴール…時間はかかってもこれにこだわっていきたいと思っています。
まず、チームはJ1で優勝することを胸に秘めていたい。僕は他のクラブではこうしたことは言いません。ここにはそれを成し遂げる条件が揃っていて、僕のJ1で優勝した経験から不可能ではないと思っています。そして、その条件、優勝を可能にする強みがここには二つあります。
一つは、県内の経済基盤がしっかりしていることが何より大事です。プロスポーツはここぞというときにお金が必要ですが、富山県は一社当たりの法人の所得番付が全国で第5位です。Jリーグ58クラブのなかで、経済圏でいけばJ1のグループに入っているわけで優勝する可能性がなくはない。それから、世帯年収ランキングも第4位ですね。クラブが強くて魅力があれば、ユニフォームやグッズや年間チケットをたくさん買っていただける。これは他の地域だとなかなか言えないものですから、まずこの経済基盤が法人や個人のところで後押しいただける大きな可能性を持っていることが強みです。
それから二つ目の強みは、郷土愛の強さですね。プロスポーツは、ホームタウン制でやっていますので、そこの地域の人たちが地元に愛着を持って、その上でカターレが大好きだから、県を代表しているからと、自分たちの地域をひたすら愛している人たちが大勢いることがとても大事です。富山市は、ここに住み続けたいと思っている人たちが全国で一番多い地域ですよね。住み続けたい街ランキングで一番。そんな盤石な郷土愛や強い経済基盤があるのだったらどうしてJ1で優勝狙わないの、という気持ちが僕のようにJ1で優勝した経験者としてはありますね。カターレが今J3にいるのはどう見ても何かの間違いだろうと思います。これだけ条件が整っているのですから。
それと、ご高齢の方や障がいのある方が、ここ富山で自分の人生を楽しんでもらう姿が、カターレがハブになることでもっと県全体に広がるようになればいいなと思います。そういうことを考えると、僕も神奈川の自宅を処分して富山に引っ越し、今までの人間関係や利便性を失いましたが、住んでいる地域のことを大好きな富山の人たちに囲まれて暮らしているほうが人生は幸せだと感じるんですよね。この人たちと一緒に「富山が優勝した」と喜んでね。そういうところで人生を過ごしていくのも悪くないなって思います。だから、富山のために、富山の人たちの力を結集できるような、黒子になることができれば本望ですね。
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