大学1年夏、山で修行した話。
はじめに
初めてのリゾートバイト.
大きなスーツケースを持って、うきうきで出かけた朝.
かがやく太陽は、これから始まるリゾバ生活を象徴しているかのようだった.
山登り。
長野駅からバスに揺られ、30分ほど.
うたた寝から覚めると、そこには建物がなかった.一体どこまで登るのか?と不安になっていると、ホテルに到着.
降りる人はわたしだけのようだ.
30分前までいた街が、はるか下に.
バスが行ってしまうと、鳥のさえずりの他には何も聴こえなくなった.
「ここで1ヶ月過ごすのだ」という実感が染み、みるみるうちに、それは何か深く黒いものに変わっていった.
その感情が "絶望" だと知るのは、支配人に会って間もない時だ.
支配人と、カビ。
ホテルへ到着し、支配人に館内を案内された.
"高圧的" な態度の人物だと一目で分かった.山の上だというのに.
来て早々「もっとハキハキ喋ってくんない?聞こえないんだけど」と3回程言われた.人生で初めて、大人に「お前」と呼ばれた.
寮は個室ときいていたが相部屋に通され、事情を話すとすぐ移してくれた.
これで楽になると思いきや、移動先はカビ臭く、二段ベッドが大量に置かれた倉庫.
士気が下がりきった翌朝も狂気の6時出勤、この景色である.
そしてやってきた休館日。
ついにお客さんのいない日、休館日がやってきた.仕事が休みになるのは、たまには良いものの
・賄いがない
・お湯を使える時間帯がごくごく限られる
という不便な生活を強いられることとなった.
レトルト食品やカップラーメンで飢えを凌ぎつつ、「リゾートバイト 逃げる」などと検索したのも、今となっては懐かしい.
増えていくもの、減っていくもの、変わらないもの。
積もりゆくストレス.唯一わたしを支えてくれたのが、同志の存在だ.
全国から集まった勇気ある若者たちがいたから、仕事を乗り越えられた.
夜な夜な喫煙所で集って、愚痴を共有したり、支配人のモノマネで盛り上がったり.中でも手持ち花火は、わたしにとっても(支配人にいじめられていた社員にとっても)忘れられない思い出になっている.
1ヶ月間の滞在中、何人もの同志が任期を全うし、山を去った.
その別れに際して、本当は肩を組んで一曲歌いたかったが、支配人の目を盗み、声を殺して花火を楽しんだのだった.
勇気を出して挑んだリゾバ生活は、想像以上に辛く、苦しいものだった.
それでも、わたしは次の春にもリゾートバイトに出かけた.今だって、ワーホリにお試し移住にゲストハウスに、と飛び回っている.
それは、山で出会った社員さんが、学生たちが、ヒッチハイカーが、おもしろい世界をたくさん教えてくれたからだ.そしてリゾバ中、娘の境遇を嘆いて涙していた親も、今ではわたしの挑戦を応援してくれている.
「かわいい子には旅をさせよ」と言いますが、
全国の大学生は全員、1ヶ月間山へGO!!