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ドリアンとかミクソリディアンとか(前編)

割引あり

 一応 全部 書き出しましょうか?

アイオニアン Ionian イオニア
ドリアン Dorian ドリア、ドーリア Doric mode
フリジアン Phrygian フリギア
リディアン Lydian リディア
ミクソリディアン Mixolydian ミクソリディア
エオリアン Aeolian エオリア
ロクリアン Locrian ロクリア

地名/民族名 由来なので、頭文字は大文字。今回はこれらの構造とかそういうのやりません。


 これら「各 教会旋法church mode, Gregorian mode)の名です」と紹介してしまいたい所なのですが、そういう訳にいかなくなってしまっている、というのが今回のトピックです。

 この状況が、数多の人々を困惑に陥れていると推測します。



コードスケールを齧るのをやめて下さいお願いします(本音)

 さっきの7つの名称(とその表記揺れとか)が使われる文脈は、音楽分野に絞る場合、それでも可能性として2通り考えられます。

 一つは「旋法(mode)」にまつわる話題。
もう一つは「コードスケール(chord-scale)」の話題の場合です。

 この二つは、とある理由から「すごく明確に区別」しておきたい。

 誰のためか?
別に「特に困惑していない」なら、区別視しないで地続きだと考えていても良い…とも言い得るのかもしれませんが、その感性は少数派な気がします。

 ※以下、「コードスケール」を「CS」と略します。

🔹

 前述の両話題で「これらの名称が共通して出て来る」理由は明快です。
CSの側が、教会旋法の呼称を流用したからです。
 というわけで「偶然の一致」とかではないし関係あるのは確かなのですが、しつこいですが「両者が同じ」だと考えてしまうことを推奨しません。

 どう違うのか。

 “旋法” の話をする場合は、中心音(tonal center)の話題が欠かせません。
(※この記事にて後述)

 一方でCSシステムという(即興演奏の)理論は「スケールを用いるだけ」であって、先の “旋法” における「中心音という概念の重要性」の話は、ほぼ無関係の文脈と言って差し支えありません。

 だから、要するにCSシステムは、本当に「ちょうど都合が良かったので、名称群を流用しただけ」だと考えておき、
 CSの話をする時は、「ドリアン」とか出て来ても「“旋法” の話ではない」のだと思って臨む必要があるかもしれない…人によっては。

――というのが、今回の話です。

本記事 執筆のきっかけの一つとなった質問コメント。あざっす。



中心音(tonal center)

 先に「中心音」の説明をします。
恐らく語の用例の数が不充分なため、一概に決めつけできない所はあるかもしれませんが、これは ”総称” です。

調性的な音組織における「主音(tonic)」、
教会旋法【い】における「終止音(final)」or「フィナリス(羅 : finalis)」
あるいは調式(Diàoshì)における「落音(Luò yīn)」or「結音(Jié yīn)」

ちょっと謎の【い】ってのは、(お手数ですが)少し読み進めてから引き返して来て下さい。


 …などと「文化圏とその体系によって呼称が異なる」というような事情は度外視してしまいたい時に、「中心音」とひっくるめて呼んで済まします。

 なので、読み進めるに当たっては「主音 的なもの」だと思って下さい。

 今回は簡単に流してしまいますが、世界各地の音楽の実例に「中心の音」とでも呼ぶべきような概念は、不思議と共通して存在しているみたいです。
 そうでなければ “総称” なんて成り立たないので。触れてだけおきます。



教会旋法(適当)

 事前知識としてもう一つ必要なんです。前編はこれの説明で終わります。

🔹

 西欧の「教会旋法」と呼ばれるモノ、勉強熱心な方ならお気づきのはずですが、どう見ても 2つ(?)あります

【あ】冒頭のように 7種(または省略して 6種、5種)紹介されるケース
【い】4種、または「ヒポ~」等という名称と共に 8種 紹介されるケース

「Hypodorian」とか、あと「正格(authentic)」「変格(plagal)」の文字を見たら【い】
「第三旋法」とか数字で呼んでいる場合もあります。それは【い】です。

の2つです。

【い】は、「音楽史」としての、より古い概念としての教会旋法です。
“こちらの” これらについて調べるのは、「歴史を勉強したい」方のみで良いと思います。「作曲の勉強」としては、意義に乏しいです

(東京藝術大学の作曲専攻では、 “こちらの教会旋法【い】” に依ったフーガの課題があると
聞いたことがあるので、万が一その場合は勉強して下さい。)

 今回は、“中世の” 教会旋法【い】のことは、忘れて下さい。
 1...2の...ポカン。

🔹

 厳密にはさらに「古代ギリシアの奴」含めて3つあるかもですが、流石に割愛します。
 (“正確さ” を以て)教えることが出来る人間が存在するのか怪しいです。「何が正確か?」すら、今日わからないな、という状況です。

 ルネサンス期の人も、ギリシア語の解釈ミスしたらしいです
 我々は、そうして生まれた「間違ってた方の呼称」を有難く受け継いで、今日 使っています

――Although both diatonic and Gregorian modes borrow terminology from ancient Greece, the Greek tonoi do not otherwise resemble their mediaeval/modern counterparts. 

 ダイアトニック・モード(注:【あ】を指す。)とグレゴリアン・モード(注:【い】を指す。)は、共に古代ギリシアの用語を借用しているが、
件の古代ギリシアの「トノイ」(注:前述 “古代ギリシアの奴”)とは、(名称以外の)その他の点では似ていない。

注意:日本語訳は私によるもの。
https://en.wikipedia.org/wiki/Mode_(music)  2023/12/08 閲覧

 古代ギリシアのは「関係が薄い」と思って下さい。1...2の...ポカン。
これが元祖のはずなんですけど

 念押し確認しときます。
今日でいう “教会旋法" は、中世の教会旋法から呼称を引き継ぎ、
中世の教会旋法は、古代ギリシアの音楽理論(※これは教会旋法とは呼ばない)から一部 呼称を借りている。

でも正直この辺、調べてもよく分かりません。要出典(無理みたい)。

で、末席からCSシステムもなんか借りている。



教会旋法(“Modern” Western modes)


 ※この記事は以下、全て「旋法」の話です。後編までCSの話は無し。

【あ】とは、今日における「長旋法と短旋法 以外の音組織」の実例です。
  厳密には区別し得る部分ですが、「長旋法」は「長調」、「短旋法」は「短調」と読み替えても、概ね困らないと思います。

 「長調とも短調とも違うやつら」の話です。

(↓ここスルーできない人用)

 と言っても「アイオニアン」と「長調」を区別するケースは皆無なので、ここは同じです。
 同様に「エオリアン」と「短調」も、自然短音階(natural minor scale)を選択するなら同じです。

「違う」という主張は可能なのでしょうが、「個人的な感覚」の域を出るのか怪しいと思います。
短調」は、構成音がフレキシブルな所も含めて、“短旋法” という(最広義の)旋法と見なせる。

🔹

 「旋法」や「モード」と言えば、現実的に思い浮かべる意味があるのは、
【あ】の意味での「ドリアン」「フリジアン」「リディアン」
「ミクソリディアン」「ロクリアン」の(7-2=)5つになります。

 この内、中世(あるいは中世ファンタジー)のニュアンス、またケルトの系譜などで、圧倒的に「ドリアン」、

 次に、ブルース~ロックの系譜などにて、「ミクソリディアン」が頻出となります。

 続いてヘビーめなロック、フラメンコ、日本風などにて「フリジアン」、

 最後の「ロクリアン」は、かなり使い方に思案を要する、異端児です。

 「リディアン」は使い易いんだか使い難いんだかよく分からん感じです。

🔹

 なお、以上の参考曲は「厳密にその旋法からはみ出さないこと」を意図した作品では全くないため、あくまでもニュアンスの参考程度にして下さい。

 現実的にも、この感じで「旋法を意識してみた」程度に使うことの方が普通かと思います。(この行為の実態をモーダル・インターチェンジと呼び得る。)そうしないと退屈なんでね。

 拙作『7つの前奏曲』は、実質「7つの教会旋法による(部分もある)前奏曲集」です。

以下は比較的 長区間に渡って「厳密め」な例です。

ドリアン:Toby Fox『ruins』0:00~1:01
ミクソリディアン:植松伸夫『チョコボのテーマ』、Enya『Orinoco Flow』※1
フリジアン:Infraction & Alexi Action『Dune』※2、鷺巣詩郎『DECISIVE BATTLE』※3
ロクリアン:(考えようによっては)バーバパパ『ウ"ィ"エ"』主部ベースライン
リディアン:P-MODEL『美術館で会った人だろ』サビ以外 割とずっと ※4

※1 主部が G Mixolydian(途中 Cm Bb F の部分は除外)、中間部が C Major なので対比が鮮烈。

※2
動画内 “Trap Part” のみ(ちゃんと)旋法としての Phrygian Dominant みたいになっている。

※3 主にメロディのみ注目する場合。和音が Em になったり E△ になったりするため。 

※4 前奏だけ左のギターが (階名)シ♭ を鳴らすため、
(ちゃんと)旋法としての Lydian Dominantみたいな稀有な感じになっている。



せめて、旋法らしく


 さて、今日の7つの教会旋法(【あ】= Modern Western modes です。)は、「ピアノの白鍵」を用いて説明されることがよくあります。

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