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ガチ音痴勢のための「底辺ソルフェ」
私は、既存のどんなソルフェージュのカリキュラムをやっても、致命的な音感がほぼ全く変化しなかった人間です。
そもそも「種類としての」絶対音感の要素が1mmも無いため、相対音感・移動ドの配慮のあるソルフェージュしか挑戦も出来ないのですが、そのどれをやっても、実際としても体感としても、特に何も改善せず「物心ついた時のまま」の耳の状態を維持していました。
◆
地獄の耳
その私の「致命的な音感」とは、他人曰く「ぶら下がっている」らしい音を聴いて、強烈に「上ずっている」という観念が脳裏を走り、他人曰く「上ずっている」らしい音を聴いて、強烈に「ぶら下がっている」という観念が脳裏を走るのです。
そんなわけないと思うでしょう?これが中高の、吹奏楽部だった頃の私の実体験です。
スピーカーから鳴るチューニングの音――一定であるはずのそのベー(Bb)の音が、時折 半音近くグニャグニャと上下に変化して聴こえていました。
何も、何も信じられません。
いま思い返して分析してみるに、私が “聴いて” いたのはピッチ(音高)ではなく、周波数(分布)特性・すなわち「音色上の何か」だったのではないかと推測しています。
具体的には、(整数次)倍音の多い音色を “上ずって” 感じ、(整数次)倍音の少ない音色を “ぶら下がって” 感じていたのではないか、と思います。
厄介なことに私はその「音色」を聴く聴覚に、「音高」に対応する共感覚を伴っていたようなのです。
音色の “高低” が視える、もとい聴けるらしい。
研究機関にでも協力を仰がないと、実際の所は不明ですけどね。
すべて憶測です。
本編
そもそも「正しく音が取れているのかどうか」すら、どうやったら自分で実践しながら・自力で確かめられるのでしょうかね?
そんな気持ちでずっと悩んでいる方のための、「ソルフェージュ系が大の苦手」だったこの私が考案した、ソルフェージュです。
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上のを自力で移調した方が確実にためになりますが、一応12キー版をまとめた商品を販売中です。
私が誰よりも身を以て知っていること。「音感の特性は、人それぞれ」。
それは、その人が培ってきた音楽観を反映する、その人の人生です。
目的も無いのに、無理に “矯正” したりすることは無いと、本気で思います。
だから、これの実践の仕方に、指示や制限は加えません。
私にとって、それは、無責任に他人の人生を否定するのと同じです。
しかし、あくまで「私のやり方」を紹介します。
だから参考になりそうだと思った部分だけ取り入れ、ご自身に一番「効く」やり方は、どうかご自身で見つけて下さい。
向かないと思えば、本楽譜の使用ごと中断して下さい。
誰に相談したって、ダメなことはダメです。
自分しか対処できない、そんなものも多少は世の中にはあります。
私にとってのこれです。
◆
【1】静かな場所で、必ず一人で行う。
【2】電子ピアノなど「絶対に調律が狂わないであろう十二平均律の楽器」を使い、音を確かめながら行う。
基本的にそれは来世でマスターするものと思って、まずは平均律を覚えることに専念しよう。
その過程で、純正も分かるようになっていくかもしれない。そうなれる人も居るはず。
【3】ガイドと同時に歌わない。必ず別々に、交互に鳴らす。
それは “ユニゾンの響き” をまず知っていなくては実行できない。今はそのための準備段階。
【4】まぁまぁしっかり発声する。安定したピッチを。
そもそもうまく定義されない。ちゃんと真っすぐ声を出す。
あと、発声に癖があると、ピッチだけ正しくても “音痴” に聞こえたりする。
後述するが、“ピッチ” は心理学的な存在でもあるため。
あと、出し易いように思えても、あまり低すぎる音域でやらないことを推奨する。
ピッチが認識しにくいことがあるのと、真剣に鍛えていないと「真っすぐ出す」のが難しい。
【5】テンポやリズムは、本題でないためとりあえず度外視する。
律儀に2拍伸ばさなくて良いし、メトロノーム要らない。
大事なのは、正しいピッチをいちいち確かめながら進めること。流れで済まさない。
【6】シラブルで何かしようとしない。統一して「あ」とか「m」で歌う。
「ファ-ミの間は半音」とか言い聞かせた所で、ピッチを取るのに邪魔になるだけだった。
だって「母音の変化が邪魔で、本当の正しいピッチに合わせられない」のだから。
全音とか半音とか、楽譜や鍵盤を目で見て理解するのみ。というか暗譜する。
シラブルを道具にして別のことまで欲張らない。極力マルチタスクしない。
【7】「毎回12キー全てでやる」必要は無い。一日に1キーでも良い。
キーは日によって気まぐれに変える。
一般人含め、皆なんだかんだ言って、絶対音感のカケラくらいは持ってる。
世間一般に全く理解されていないが、“絶対音感” は、音感の「種類」。
少なくともここでは「どんな音もドレミに聞こえる・ピッチが瞬時に分かる」ほど熟達している、という意味ではない。
【8】難しい音程(interval)の箇所・または “難しい音” を、変に意識しない。ピッチを移るに当たって、声帯以外は動かさない。他は微動だにしない。
「特定の音符を塗り分ける・印をつける」とかもタブー。
やることはただ「正確な音程幅を動き、正しいピッチに移る」だけ。声帯の張りの度合いのみ。
難しい音程、“難しい音” なんてモンは存在しない。まだそれらに慣れていないだけ。
先入観が最大の敵。
【9】できたら、録音して色々なスピーカー、ヘッドフォン、スマホ等から聴く。もしできたら、ピッチ解析までする。
スマホやPCのスピーカーで構わないので、「直接・耳に装着しない媒体」からも聴くこと。
ピッチの、“印象” が変わって聴こえるので、そこから「総合的にどうすべきか」を考える。
◆
特に「【6】~【8】には個人差が大いにある」ことが予想されます。
何度も念を押しますが「全部をこの通りにやることで、あなたにとっても一番 役に立つ」とは思えません。そういう意図で載せたのではありません。
「参考になりそうだと思った部分」だけ取り入れ、ご自身に一番「効く」やり方は、どうかご自身で見つけて下さい。
向かない・逆効果だと感じたら、本楽譜の使用ごと中断して下さい。
で、お前どうやって直した?
正直、自給自足でこんなものを考えて自分で練習しているくらいで、まだまだ私の耳は信用なりません。
曲によって「延々とオケの半音下のキーを正確に追いかけて歌ってしまう(どうしてもそこから半音上げられない。上げようとすると “苦痛”)」ことなどが未だにあります。
とはいえ、随分と私の耳は改善しました。
前述の通り、他人にやらされたり他所で知ったソルフェージュは、私の難攻不落の耳には、ほとんど「影響が無い」ものでした。
何をしたら変わり始めたのか?
それは、「自分の歌の録音を自分でピッチ修正」することを始めてからのことでした。音楽大学卒業後です。
◆
結局は、自らの耳が信用ならないのです。軸が存在しません。
採点しないで問題集を解き続けるのは、狂気の沙汰です。
自らでは分かることの無い、全ての瞬間のピッチを、マシンに解析させて可視化し、一瞬一瞬を「合っている・合っていない」で観察しながら何度も再生する。そして修正後のピッチと聴き比べて「“これ” は、“合っている”」「“これ” は、“合っていない”」を、学習し続けたのです。
それらの感覚は、私にとっては、自明な・アプリオリ的な概念でも観念でもなかったのです。
「「「よく聴いて」」」
――何を?
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「録音をし、録音を解析」する必要があった。標本の固定。
イラストは いらすとや 様より。
その内、「これは、この解析の方が間違っている」とか、「機械的にただピッチを直した所で気持ち悪いまま・理想の感じにならない」とか、複雑な事例についても、徐々に徐々に知ることになっていきました。
そして、昔の皆が言っていた「ピッチ」の如何が、「まぁまぁいい加減」なものだった可能性も、なんとなく悟りました。
「ピッチ」って “感覚量” なので、物理的な周波数値・以外の外的要素が多いし、心理的な要素もある、曖昧さの残る概念なんですよね。
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(ピアノの最初のCの箇所は、音質とマイク性能のせいで
「第3倍音(基音の1oct.+完5上のG)」を拾ってしまっている。)
「ピッチを真っすぐ出す」と口では言えど、本当は「歌でガチの直線」は中々に困難。
そして音が移る瞬間は、しばしばデフォルメ誇張(一瞬くいっと尖る)されている。
このことを私は「知っている」が、歌っている時は「直角の階段状ライン」を意識しているだけ。
「音が切り替わる瞬間に、ピッチカーブを尖らせよう」などとは微塵も思っていない。
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この特性をよく理解し、逆に活かすことを考えるか、あるいはこの記譜法を捨てるか。
少し前の時代の “ゲンダイ音楽” の作曲家は、そんなことをよく考えていた。
◆
聴覚体験とは、物体の振動が周囲に発生させた「空気の密度の波」から、人間が「感じ取る」というよりそこから「脳内で作り出している」クオリアです。
他人の音の世界は、あなたの知っている音の世界とは「全く異なる様相」を呈している可能性が、今の所は誰にも否定できない。ただ「結果的に会話には齟齬を来さない」というだけ、かもしれないのです。
私の場合は、明確に齟齬を来しました。
「ソルフェージュが得意な先生」には見えていない景色が、私には見えていると信じて。
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「なぜか主音であるはずのドを低く取りがち」
「ド→シ と シ→ド の動きの時、シを異常に低く取りがち」
「ソへの下行跳躍の時、ソを半音まるごと低く取ってしまう」
「歌詞付きで同音連打の時、安定して低くなる」
「増一度上行を狭く取り過ぎる」
イラストは いらすとや 様より。
私には、「諦めないで」とは言えません。
責任も持てません。
話を聞くことと、そこから分析することと、それから思いつく対処を紹介することくらいは、私が良いとあなたが思うならば、します。