アリエル
part of your world
という曲がある。
アンデルセンの童話「人魚姫」原作としたディズニーアニメの「The Little Mermaid」の挿入歌。
人魚のアリエルが、地上へ行きたいと渇望する歌で、アラン・メンケンのメロディが素晴らしい。ちょくちょく口ずさむし最初に映画を見た時はたいそう感動したものだ。
この歌の中でアリエルは水の中を貶め地上を礼賛する。
踊ったり走ったりできる
太陽の光を浴びれる
ヒレでは遠くに行けないから足がほしい
火が燃える
ヒレでは遠くに行けないことを除き、
(地上よりも魚の方が早く遠く移動できるはずだ)
確かに地上ならではの特権である。
しかし弱い。
火が燃えるのも、踊るのも、足が欲しいのも、彼女が海の生活全てを捨てるほどの説得力に欠ける。
なぜ人魚が人間の世界を羨むのかの説明がもっとほしい。
王子さまがいるから?
恋愛とはかくも人を愚かにするものか。
もしくは進化論的な?
全て生物は海から生まれ、徐々に陸に上がっていったから、「進化の先が陸である」という考え?
しかしまあ、アンデルセンもモヤモヤしたが、ディズニー版も輪をかけてモヤモヤが止まらない。アンデルセンは敬愛する作家の1人だが人魚姫はちょっと同感できなかった。
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死の恐怖の中でも「息ができない」は、焼死、拷問死と並んで三大恐怖である(私調べ)
「息ができない」は地中も水中も同じでどちらも嫌だけれど、やはり水死の方が若干身近である。
溺れかけたこともある。
ああ、今でも身震いするほど恐ろしい。
ある知り合いは子どもに習わせたいことno.1がスイミングだと言う。命を守るという観点からだそうだ。
もちろんどうしようもない巨大な津波などは防げないにしろ、泳げるという自信は泳げないよりは遥かに良い。
と考えると、
人魚は溺れ死ぬことはまずあり得ない。人間の渇望してたまらない「呼吸権」を持っているのである。
また焼け死ぬこともない。
なんと私の死の恐怖のうち3分の2を、アリエルはクリアしているのである。
海は陸より先には干からびない。そしてどこまででも行ける。地球上面積からいえば、海の方が遥かに広い。
海に住むなんて羨ましい。
小さな頃の私は人魚姫のお話に全く入り込めなかった。
そして今もPart of your worldを見聞きするたびにこのことを思う。
人魚は自らのprivilegeを理解せず、悪戯に無いものねだりをし、隣の芝生を青く見、人間の男性などに恋をするのだろうかと。
アンデルセンは人間の傲慢を描いた。
他の動物たちは叡智の塊であるホモサピエンスに憧れるはずだと。誰もが人間の暮らしをしたいのだと。
そのことに小さなころの私は違和感を覚え、後に怒りに変わり、現在は憐憫さえ感じる。
人間は憧れの対象どころか、他の生き物たちは人間のことを、なんとおかしな生き物だと軽蔑してるんじゃなかろうか。
儲けたい気持ちを
名誉欲を
権力欲を
抑えることもできずに、同胞同士線引きし争い環境さえ顧みない。
たいそう変わった生き物だと。
The Little Mermaidを見ていて、こんなことをふと考える。