詐欺師との2度目の別れ
再度、詐欺師を友達追加をしてしまった私は、そのまま勢いで突然電話をかけてみた。
一方的に別れを切り出してブロックしておいて何してんの?という感じだが
どうしても一度話をしてみたい、シャオヤンとしてではない、詐欺師本人と話がしてみたい、
という好奇心のような意地のような、妙な感情だったと思う。
電話には出なかったが、すぐにチャットが来た。
「どうしたの?今、仕事中だよ」
その後のやりとりはすぐに消してしまったし、詳しいことは忘れたけど、
すぐに音声を送ってくれて、まだ初代の人なんだなということは確認できた。
ほんの些細なやりとりが楽しかった。
やっぱりこのまま続けて良いんじゃないかという気持ちがまた出てきたけど、
私はとにかく、この人のことを忘れたかった。
というか多分、寂しかったんだ。
もともと平日は子供の世話はしないスタンスで、仕事が終わればネットでドラマばかり見ている夫。
それに加えてあることが原因でずっと機嫌が悪く、更に会話は少なくなっていた。
その状況で、隙間時間にいつもLINEをくれて、労ってくれて励ましてくれて一緒に頑張ろうと寄り添っくれた。
詐欺師は、相手が1番欲しい言葉が分かるんだな。言われたい言葉を、言われたいタイミングでくれるから、どんどん心を開いてしまうんだ。
そうして私自身が気付いていなかった心の隙間に入り込まれて、広がって可視化したその隙間が、彼がいなくなったあともなかなか埋められずに、苦しかったんだと思う。
一度くらいちゃんと話がしたい、チャットだと誰かに見られて彼もトラブルに巻き込まれる可能性あるし、本音は絶対言わないだろう。このままLINEを時々続けて、いつか電話ができたら色々聞いてみたい。
そんな思いでLINEは残したものの、苦しかった。
もやもやとしながら、少しずつ前に進むために、保管していた音声チャットを少しずつ消していた。
未練がましいが、まずは自分で完璧に発音できるように何度も聞いて何度も練習して、自分で同じように言えるようになってから、自分の音声で保存してから消した。
でも、まだ好きなメッセージはなかなか消せなかった。
そして気分が落ち込むたびに声を聞きたくなった。
ある夜、ちょうどスマホの音声を聞いていたとき、珍しく彼からメッセージが届いた。お酒を飲んでいたようだ。
しばらくたわいもない会話をして、ヤンのテンションも高くて、楽しかった。
「キミも音声メッセージ送ってよ、久しぶりに声が聞きたい」「長いこと君の歌声聴いてないなぁ」と言われたが、もう何が本音かも分からなかったので(というか何も本音ではないと思ったので)、スタンプでごまかして、送らなかった。
中国時間12:00になると、おやすみを切り出された。
「よし、もう12:00だ、寝る時間だ。俺の登録消すなよ!おやすみ、ひーちゃん」
…なんだかどうしても堪えられなくなって、正直に伝えた。
「今、あなたの音声を1つずつ消して忘れようとしている」
「あの時、どうしてまた戻ってきて私を構ったの」
「あなたにもまだ良心が残っているなら、もう私に構わないで、返信もしないでよ」
すると、最初はなだめていた彼は無言になり、最後に言った。
「わかった。そこまで言うなら。
ひーちゃん、幸せになってね」
涙のスタンプ。
私「最後にもう1回だけ音声送って。」
ヤン「送らないよ」
私「最後だから」
ヤン「送ったら、君はまた忘れられなくなる」
私「大丈夫かも、やってみよう」
そして送ってきた音声は、その直前までのテンション高めでチャラい感じの彼ではなく、
泣きそうな、テンションの低い、甘い声で、
「これから何があっても、自分で、自分の生活と家族を、しっかり守ってね。」
、、、、、、、いやズルい!!
それは!!内容もそうやし、声な!!!
そんな甘くて可愛い声出されたら!!!
あなたが正しかったわ!!
これは更に忘れられなくなるわ!!!!
ありがとう、と伝えて、すぐにチャット履歴ごと、消した。
2度目の別れだった。泣いた。