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合コンに行ったら自己啓発セミナーの勧誘で、なぜか東京駅をベンツで2周した話

いや、タイトルがほぼ全てなのだけども。
一応普通ではない体験だったし、もうそろそろ時効かな…と思うので、せっかくなら思い出せる範囲で書き残してみようと思う。
先にお伝えしておくが、特定の集団や思想を否定する意図はない。あくまで自分の中で印象に残っている思い出である。

社会人になってしばらくした頃、友達から「合コン行かないか」と声をかけられた。
どうやら街コンで関わりのできた女性にセッティングを持ちかけられたそうだ。お恥ずかしながらこれまで合コンの経験がなかった僕は、とはいえ会社でも別に出会いもクソもなく、誘われるままに乗ってしまった。

メンバーとしてはこちら(男)4人、相手(女)4人である。
こちらはサークルの同期と後輩が集まっていたので全員顔見知り、相手も幹事の子の友達集団のようだった。
さて、肝心の飲み会はどうだったかというと…まあ、そこそこ楽しく過ごしたかな、という結果である。確か2次会までは行ったはずだけど、特に恋愛につながるような会ではなかった。

さて、問題はここからだ。一応相手のLINEは交換していたのだが、翌日女性側の幹事の子から連絡があった。

「昨日はありがとうございました! 良かったらまたお話ししましょう」

まあ、ざっくり上のような内容である。
普通に社交辞令だなと思いつつ、僕も「ありがとうございます、ぜひまた行きましょう!」と返事をした。すると、

「来週の土曜とかどうですか?」

と、次に会う流れの連絡がきた。
嘘だろ全然タイプじゃねえけどまぁせっかくできた縁だし、もう一回くらいは飲みに行こうかな…と、本当に軽い気持ちかつ最低な気持ちで、次の土曜に2人で飲みに行くことが決まった。

当日、幹事の子(今後は仮にAさんとする)が予約をしてくださったお店に集合した。
都内の…確か六本木かそこらだったはず。立ち飲みのお店で、ワインが似合うおしゃれな雰囲気だった。おすすめで紹介されたカルボナーラが安くてめちゃくちゃ美味しかったのを覚えている。
カクテルを飲みつつ、改めてAさんの身の上のお話を聞くことに。大体の流れとしては、以下のような感じだった。

・地方の生まれであること(かなり西の方)
・小さい頃に両親が離婚したこと
・働く上で、このままで良いのかすごく悩んでいたこと
・そんな中、Bさんという男性に出会ったことで大きく視界がひらけたこと

「Bさん本当にすごくて、実はこのお店もBさんが経営してるんですよ」

正直「へーそうなんだ。すごいね」くらいの感想だが、お酒も入っていたので、少しオーバーリアクションになっていたかもしれない。
そこから、いつの間にやらBさんがどのようにすごいのか、それに自分がどのように影響されていったのか、という話に。そして、

「Bさんと一緒に講習会にいってから、すごく考えが変わって」

講習会、というワードがそこで初めて出てきた。
そこでピンと来る人もいたと思うのだけど、その時の僕はいわゆる「自己啓発セミナー」というものを認識しておらず「そういう集まりがあるんだ。意識高いなーこの子」くらいにしか考えていなかった。

僕は(会話の雰囲気を壊したくなかったのもあり)興味があるフリをしていたため、Aさんからは「良かったらBさんとも一緒にお話ししてみませんか?」と提案が。
「お、良いっすね。飲みましょう」と僕。
今考えるとなんでここで断らねえんだアホかなのだが、お酒のせいで警戒心が緩くなっていたことと、まあそんなすごい人なら繋がりができるのも悪くはないか、という若干邪な気持ちがあったんだと思う。

その場は間もなく解散し、次は東京駅に集合とのことだった。
ここであらかじめ触れておくと、合コンを企画した片割れである僕の友達は本件と全く関係がない。Aさんからお礼の連絡はきたがそのままスルーしたらしい(それはそれでひどい…)。

そして当日の夜。東京駅でAさんと合流した僕は、間もなく来るというBさんを駅前で待つことに。
すると、目の前に黒塗りの車が、東京駅の電灯を全身に纏いながら停車した。あれ、これベンツじゃね。
窓から爽やかな感じの男性(多分Bさんである)がこちらに「初めまして」と挨拶してきた。これに乗って移動しよう、ということなのだろうか。飲みに行くつもりだったんだけど、この人飲まんのか?

で、なぜか助手席に座ることになる僕。Aさんは後部座席に乗り込んだ。
ベンツが東京駅を出発してから、軽くBさんの自己紹介をもらいつつ、何社か会社を経営していることを聞かされた。

「世の中で働いてる人のうち、自分の思い通りにできてる人って1%しかいないんだよね。どういう人だと思う?」

急に謎の質問が来た。「え、(何を言ってるのか)わかんないです」と恐る恐る答えたところ、「社長だよ」と回答がきた。
筆頭株主じゃね? というツッコミを心に押し留めつつ静かに聞いていると、急に背後のAさんが口を開いた。

「Bさんは、どうやってその1%の成功者になれたんですか?」

え、なんで急にインタビューみたいなの始めたんだこの子。左ハンドルを悠長に操作しながら、Bさんが悠々と答える。

「尊敬できる人を見つけることかな」

そこから、自分も昔は思い悩む時期があったこと、尊敬できる人との出会いを通して自分が変われたことを別に頼んでもいないのに語り出した。
BさんとAさんの謎のやり取りに、対する僕は「何やってんだこいつら?」である。というか、さっきから東京駅ぐるぐる回ってないか。

「○さん(僕のことだ)は、尊敬できる人っている?」
「いや、特にいないっすね」

なんだかイライラしてきたので、突っぱね気味に返した気がする。それからも数度の応対を重ねていると、やがて車が停車した。

東京駅の前に。

いや飲み行くんじゃないんかい! 結果的に行かなくて良かったけど!
僕とAさんが降り、そのままベンツは東京の光の中に消えていった。一体なんだったんだ、今のは。
「どうだった? すごかったでしょ」というAさんに、僕はひきつった笑顔で「まあ、そうだね。…思ってるのとはちょっと違ったけど」と返すしかなかった。

なんだか締めの空気になっていたのでもう解散かなと思っていると、Aさんは僕が興味を持っていると思ったのか、
「良かったら、もう一人と会って話さない? 女の人なんだけど」
と提案してきた。ここで断れば良いのに、なぜか僕は「いいよ」と答えてしまった。本当になぜなのか。「女の人」と言われたからか。

この辺りから、Aさんの連絡に「講習会」というワードがチラチラ現れるようになる。多分、セミナーの勧誘に本格的に乗り出したのだろう。
まだこの時点で、僕は様子がおかしいなと思いつつも、自己啓発セミナーというワードに辿り着いていなかった。
ちなみに、彼らのホームページを教えてもらって閲覧したことはあるが「研究会」という体裁を取っていて、活動記録も「みんなで富士山登頂した」とか「集まって料理会した」とか、社会人サークルのような内容だった記憶がある。

というわけで、またもや次の集合場所は東京駅の八重洲口。
そしてAさんと合流し、待つこと数分。
目の前に現れたのは、またもやベンツであった。

少しアンニュイな感じの女性が、窓を開けて手を振ってくる。流石にここまでくると、鈍感な僕でも「あ、これ前回と同じやつだ」と気付かされた。
案の定、助手席に座った僕に対して、その女性(Cさんとしよう)が簡単な自己紹介と今の成功体験を語ってきた。いや聞いてねえんだわ

そして決まった台本でもあるのか、Aさんが「成功に至るまでに大切なことってなんですか?」とCさんに語りかける。Cさんはハンドルを握ったまま。どこか夢見るような遠い目線で答えた。

「尊敬できる人をもつこと」

この時の自分に酔ったような言い方が妙に印象的に残っている。主に苛立ちの意味で。
すっかり不貞腐れた僕はろくに返答する気もなくずっと窓を見ていたのだが、やっぱり東京駅周辺を周回していた。しかも2周。

前回と同じく東京駅で降ろされ、ろくに会話する気もせず改札へ向かう途中の僕に、Aさんが尋ねてきた。

「ところで、次の講習会なんだけど…」

僕は速攻で「行かない」と伝えて改札をくぐった。これ以降、Aさんからの連絡はぱったりと止まった。
後日、近所の友達とご飯を食べている時に「それ自己啓発セミナーじゃん」と言われたことで、ようやく僕はその存在を認識することになった。
宗教やマルチ商法は認識していたが、「自己啓発セミナー」についてははっきりと認識する機会がなかったのだ。

ネットで調べると、似たような情報が出るわ出るわ。「ベンツ」というキーワードもしっかり条件を満たしていた。
まあ、その「講習会」とやらに誘うまでのダシに使われていたということか。可哀想な高級車である。

なお、数年後に全く関係ない繋がりから合コンに参加し、そこで幹事をしていた男性が今回と同じ自己啓発セミナーの関係者であることが発覚するなど、この話は自分にとって尾を引くことになるわけだが、それはまぁ良いとして。

冒頭で触れた通り、特定の思想が同じ集団に属したり、何かを信じて行動すること自体は、別に僕は何も思わない。その人の責任だからだ。
それに今回の件でいえば、僕も言い換えれば「向上心も団結力もない社会人」集団の一員なわけなので、求める理想が違うだけである。

ただ、他人を誘う行為には、善意の他に恣意的な損得勘定が見え隠れする。
社会的に「勝ち組」とされる経営者の姿を見せ、高級車であるベンツに乗せ、あなたもそうなれるはず、とセミナーへ一歩足を踏ませようとする。
残念ながら、僕はそんな姿に憧れなかった。

今もあるんだろうか、あの自称研究会は。願わくば、Aさんが「この世に1%しかいない成功者」になっていることを期待しよう。





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