【空間認識能力を鍛える】天才児が数学やスポーツ等で発揮する潜在力
科学雑誌『Nature』の記事「天才をどう育てるか:45年間の超賢い子どもの研究からのレッスン(How to raise a genius: lessons from a 45-year study of super-smart children)」の中でも紹介された「空間認識能力(Spatial Ability)」が、今注目を集めています。
「学業が飛びぬけてできる子」の中でも、空間認識能力に秀でた子たちが、実際の社会に出てから優れた成果をあげていると言われています。
「(空間認識能力は)人間のなかで眠っている潜在能力のうち、最大の部分かもしれない」
心理学者 デイビッド・ルビンスキー氏
元来、相手やボール等との距離感の把握が重要なスポーツ、歩行者や物体との接触をスムーズに避けなければならない自動車の運転、図面を作成したり図面からものづくりをしたりする設計などの際には必要とされてきた空間認識能力ですが、その他の人生のあらゆるシーンでもポテンシャルが確認され、創造力やイノベーションと関連して主要な役割を果たしていると言われるようになりました。
さらに、人類学者のグウェン・デワー氏によると、空間認識能力は訓練によって向上させられると言われています。
そこで本記事では、この空間認識能力の正体と、鍛える効果的な方法をご紹介します。
1. 空間認識能力とは
空間認識(空間認知)能力とは、読んで字のごとく、空間を正しく認識できる能力のことです。学術雑誌『研究報告数理モデル化と問題解決』(第33号、2012年)に掲載された論文「ARを用いた空間認識能力向上のための学習方法」によると、空間認識能力の定義は以下のとおりです。
空間認識能力とは、3次元空間上において、物体のサイズ・形・向きなどの状態や位置関係を正確かつ速やかに認識する能力のことを指す。この能力によって普段生活する中で、目の前にないものでも頭の中で想像し、視覚的なイメージを形成することができる。
(情報学広場:情報処理学会電子図書館|ARを用いた空間認識能力向上のための学習方法 を元に一部編集)
また、空間認識能力は実際にない空間をイメージする力でもあります。空間認識能力が優れていると図形を脳内で回転させたり、その状態を3次元空間、つまり3Dとしてイメージしたりすることができるので、「2次元の地図から3次元の地形を簡単に把握できる」といった日常生活にも何かと便利な面が多くあります。最近では、創造力やイノベーションと関連して主要な役割も果たしていると言われるようになりました。
この空間認識能力は、生まれつきの差はあるものの、働きかけやトレーニングによって大いに改善することが分かっています。例えば、心理学者ジン・フェング氏の研究チームによると、銃を打つなどの3Dアクションのビデオゲームを10時間することで、大学生の空間認識力が改善されました。長期間のトレーニングはもちろん、たった「10時間」のトレーニングでも結果が出るというのは驚きですね。
2. 空間認識能力の性別差:女子より男子の方が優れている
空間認識能力は、生まれつき女性よりも男性の方が優れている傾向があることがわかっています。例えば「地図が読めない」「方向音痴」といった声も、女性の方が男性よりよく聞くのではないでしょうか?
研究によるとこうした「空間認識力」の性差は、「テストステロン」というホルモンが、女性より男性に多いためとされています。実際に、成人女性にテストステロンを服用させたら空間認識能力が高まったという研究もあります。
とはいえ、女性のみなさまやお子様も諦める必要はありません。空間認識能力は、トレーニングによって劇的に鍛えられることも分かっているためです。
心理学者デービッド・ツリエル氏らの研究によると、116人のイスラエルの小学1年生に3Dのイメージを操るプログラムを用いたトレーニングを施したところ、8週間後には女子と男子の能力差が消えてしまったといいます。
つまり、個人間の差や性別差はあるものの、後のトレーニングによって鍛えることができるのです。
3. 空間認識能力の鍛え方①親の関わり方編
まず空間認識能力は、親の関わり方によって改善することができます。ここではその具体的な方法を6つご紹介します。
1. 空間認識を促進する言葉を使う
「丸」「三角」「球」「大きい」「小さい」「高い」「ゆがんでいる」といった「形」や「空間的特徴」を表す言葉を用いる。
2. 空間認識を促す質問をする
「この荷物、バッグに全部収まると思う?」と聞く。「どうなるか頭の中で描いてみて」と視覚化するよう促す。
3. 地図を用いて遊ぶ
近所やお出かけ先の街に逝く際に地図を手に取って探検する。
4. カメラで撮影して話し合う
様々なアングルから写真を撮ることで、角度によって様々な形に移り変わる様子を体感する
5. 玩具や工作に親しむ
積み木やLEGOなどの組み立て式の玩具で遊ぶ、クリスマスツリーを作る、こいのぼりを立てるなど
3.1. 空間認識を促進する言葉を使う
何かと忙しい日々の生活では、つい「これを”あそこ”の”そのへん”に置いてきて!」などと言ってしまいがちです。ただそんな時こそ注意して「この丸い器を、あの背の高い戸棚の、上から三番目の棚の真ん中にしまっておいて」など、空間認識を促す言葉を使いましょう。
心理学者のシャノン・プルーデン氏が生後14ヶ月以上の52人の幼児と親との会話を調査した結果、「丸」「三角」「球」「大きい」「小さい」「高い」「ゆがんでいる」といった「形」や「空間的特徴」を表す言葉を豊富に用いた親の子どもの方が、46ヶ月後に空間認識能力が高いことが判明しました。
3.2. 空間認識を促す質問をする
「この荷物、バッグに全部収まると思う?」「このシーツをどちら向きにしたらベッドにぴったりかぶさるかな?」などと積極的に問いかけてみましょう。その際、「どうなるか頭の中で描いてみて」と視覚化するよう促すのも助けになります。
空間認識能力のトレーニングに限りませんが、子どもに質問をする際は「問い詰める」といった口調よりも、「一緒に考えるのを楽しんでいる」といった雰囲気にすることも注意しましょう。
3.3. 地図を用いて遊ぶ
近所やお出かけ先の街に逝く際に地図を手に取って探検する、家の間取り図を作りって実際の物(3Dの情報)と間取り図(2Dの情報)を照らし合わせる、といった遊びをしてみましょう。
2次元の情報と3次元の情報を変換しながら行き来する経験が、空間認識能力を鍛えることになります。
3.4. カメラで撮影して話し合う
様々なアングルから写真を撮ることでも、空間認識能力を鍛えることができます。ひとつの物が、角度によって様々な形に移り変わる様子を体感することができるためです。またその際、撮影した写真を見ながら話し合ってみましょう。
これに慣れてきたら、実際のものをお絵描きして写真と見比べるなども応用編として有効です。
3.5. 組み立て式の玩具を用いた遊びや工作に親しむ
積み木やLEGOなどの組み立て式の玩具で遊ぶことも、空間認識能力を鍛えることが分かっています。説明書をみて模型通りに作るのもいいですし、自らのアイデアを形にするのなら、空間認識力だけでなく創造力を培うことにもなります。
クリスマスツリーを作る、こいのぼりを立てるなど、季節の行事を「工作の機会」として取り組むのも楽しく空間認識能力を鍛えるコツです。
具体的に空間認識能力を鍛えるのに役立つおもちゃについては、次のセクションでご紹介します。
4. 空間認識能力の鍛え方②おもちゃ編
空間認識能力は、遊んでいるうちに自然と鍛えることができます。ここでは空間認識能力を鍛えるのに役立つおもちゃをご紹介します。
4.1. パズル
子どもの脳を刺激したり、手先を器用にさせたりするため、小さいうちからジグソーパズルを与えて遊ばせることは空間認識能力を鍛えるのに役立ちます。
そもそも、ジグソーパズルの製作・販売を手がけるシャフト株式会社によれば、ジグソーパズルは子どもの教育のために生まれたそうです。空間認識能力の他に記憶力も養うことができる、「無限の展開と可能性を秘めた知育玩具」とも言えます。
空間認識能力を研究するヴァージニア大学のジェーミー・ジロー助教授らが4~7歳の子ども847人に行った調査によると、パズルやブロック、ボードゲームで週に6回以上遊んでいる子どもは、空間認識能能力が高いことが分かりました。一方で、空間認識能能力に役立ちそうなお絵描きやスケートボードといった他の遊びでは、空間認識能力の改善が確認されませんでした。この結果から、パズル・ブロック・ボードゲームで遊ぶことは子どもの空間認識能力を高める可能性が示唆されました。
4.2. ブロック
上記の研究のとおり、ブロックで遊ぶことによっても空間認識能力を鍛えることができます。
ブロックのおもちゃには様々なものがありますが、ここではあの天才棋士「藤井聡太さん」も幼少期から遊んでいたと言われる、知育玩具『キュボロ』をご紹介します。
キュボロ クゴリーノ スタート
キュボロとは、上記の写真のとおりビー玉の通り道になる溝やトンネルがついた5cmの立方体の積木です。積木の上や下に水平の溝があり、内部にあるトンネルをうまく使って、自分だけの玉の通り道を作ります。
このビー玉がうまく転がるようにブロックを組み合わせるには、外側から見えない部分のことも考慮しなければならず、大人でもかなり頭を使います。最近では脳科学の研究により、脳の中の空間認識能力を司る「けつ前部」や、直観力を養う「大脳基底核」を活性化させることが解き明かされました。
5. 空間認識能力の鍛え方③ゲーム・遊び編
最近では、スマホゲームや家庭用ゲームで遊びながら空間認識能力を鍛えることもできるようになりました。
5.1. パズルゲーム(テトリスなど)
まず定番なのは、おなじみのパズルゲーム『テトリス』。カブリーニ大学のメリッサ・ターレッキ教授らの論文によると、学生に毎週1時間『テトリス』をプレイさせつづけると、3カ月後には、図形回転についてのテストの成績が大きく向上したとのことです。
5.2. 3Dシューティングゲーム
また子どもが大きくないとなかなか勧めづらいものではありますが、一人称視点で3D空間を移動しながら敵を撃つ3Dシューティングゲームでも空間認識能力を鍛えることができます。
トロント大学の研究によると、18~32歳の男女20名にWindows用ゲームソフト『メダル・オブ・オナー パシフィックアサルト』を10時間プレイさせた後、注意力や視覚処理能力を測定するテストを実施したところ、ゲームのプレイ前と比べて平均正解率が61%から74%に向上したという結果が得られました。このゲームは主人公や敵、マップ全体が俯瞰的に見られる三人称視点と異なり、より現実に近い一人称視点での臨場感が特徴です。ゲームを進めるには、画面に現れる敵や目標物に注意を凝らしながら照準を合わせて敵を撃つことが必要となるため、プレイヤーの空間認識能力を鍛える効果があるようです。
5.3. 鬼ごっこ
空間認識能力を鍛えるには、やはり3次元の空間を自由に動き回るのが一番でしょう
パーソナルジムトレーニングジム「レブルス」の代表を務め、『12歳までの最強トレーニング』などの著者でもある谷けいじ氏によると、鬼ごっこは、常に自分と鬼の位置を把握しつつ、園庭や公園にある障害物を利用して移動ルートを考えなければいけない、空間認識能力を育む代表的な遊びとして挙げています。
安全上の理由などで子どもが外遊びをする機会が減っているのが現状ではありますが、安全を守ることと子どもに質の高い教育を施すことは別の論点でありそれぞれに適した対策が必要です。転んだりぶつかったりして危ないからと鬼ごっこを禁止せず、たくさん遊ばせることが、子どもの成長に繋がると考えられます。
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子どもの才能を開花させるために、親としては無視できない空間認識能力。その重要性と、その鍛え方がご理解いただけていれば幸いです。いずれの方法も、工夫すればお金をかけずに体験させることができますので、ご覧になった方々の子どもへの関わり方が少しでも変われば嬉しく思います。