人生の岐路に立つ全ての人へ 「さよなら ほやマン」庄司監督インタビュー
石巻市出身の映画監督、庄司輝秋さん(43)の長編デビュー作「さよなら ほやマン」が11月3日、イオンシネマ石巻をはじめ全国50館で公開される。10日に同市内であった試写会には大勢の観客が訪れ、期待の大きさをうかがわせた。広告会社で働く現役のCMディレクターでもある庄司さんに、作品に込めた思いを聞いた。
全編網地島ロケ
「網地島の人たちには足を向けて寝られませんね」。1年前、約3週間にわたって網地島でオールロケ。島民の絶大な協力が大きな力になった。「東北で明るい前向きな物語を撮りたい」と考えて浮かんだのが、子どものころからよく行っていた網地島だった。
自ら脚本も手掛けた作品は、石巻の特産品ほやがモチーフ。震災で両親が行方不明になった兄弟と東京からやってきた女性漫画家が、成り行きで始めた共同生活の中で衝突しながら、それぞれ心の傷と向き合い再生していく物語だ。監督自身がせりふを吹き込んだ音源を俳優陣に配り、方言指導した成果も聞きどころになっている。
そもそも「ほやありき」のスタートだったという。数年前、生態を調べてみると、ほやは卵で生まれ、住みつくところを見つけると脳が離脱して、そこから離れずに一生を終えるといった事実に驚き、大いに触発された。
平成25年に文化庁の若手監督育成プロジェクトに応募した短編映画「んで、全部、海さ流した」が高く評価され、次のコンペに出品したのが、ほやを題材にした企画だった。惜しくも落選したが、山上徹二郎プロデューサーの目に留まり、映画化に動き出した。
ほやマンを思いついて物語は一気に進んだという。「思い返すと頭の片隅に、石巻の仮面ライダーがあった気がする」。ほやマンは、主人公の兄弟の父親がかつて島おこしのために考え付いたキャラクターで、作品の大事な要素になっている。
石巻市内であった試写会では、笑いが起こったり、すすり泣きが聞こえるなど上々の反響。「一番見てほしい場所、一番こわい場所で無事終わってほっとした。ようやくスタートできたって感じ」と庄司監督。
地元ならではの手ごたえも感じたという。「東京の試写会では津波の話ねってカテゴリーしちゃう人も時々いて。でも、石巻では皆さんは、あの時に自分はどう生きて、あれからどう生きてきたかって、震災と直結している。だから自分を重ねるところを見つけてくれてたんだろうなって」
確かに震災が大きなフックではあるが、普遍的なテーマが背骨にある。「だれしもどこで生まれるとか、どういう家族の元で過ごすとか、選べないことだらけの中で、こんなもんだろうなって諦める瞬間があると思う。でも自分が本当にやりたいことって何だっけ、と立ち止まって自分の人生をつかみ直すことが大事。人生の岐路に立つ全ての人に見てもらいたい。石巻を舞台にした映画だけど、どこに出してもきっと誰かの心に響く映画になったと思う」と力強く話した。
映画初出演で主演したバンド「МOROHA」のМC、アフロさん、ヒロインの呉城久美さん、俳優デビューとなった黒崎煌代さん、音楽の大友良英さんら監督の希望通りのキャスト、スタッフが一丸となった106分。「純度100%の感動作」のキャッチコピーに間違いはない。【元本紙記者・本庄雅之】
◆庄司輝秋(しょうじ・てるあき)
昭和55年9月19日生まれ。石巻市湊出身。石巻高校71回生。東京造形大学彫刻科卒。広告会社で映像制作に携わる。カラムーチョ、サントリー鏡月グリーンなどのCМを手掛ける。妻、3人の子どもと東京・国分寺市在住。