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保存案の検討なき解体 サン・ファン号 4分の1後継船展示へ

 「サン・ファン・バウティスタ号」は、なぜ解体されなければならなかったのか。県慶長使節船ミュージアム=石巻市渡波=に係留中の木造復元船は11月に3本のマストが撤去され、たてがみを刈られたライオンのごとく痛々しく見える。老朽化を理由に、県が原寸大での保存を断念して4年。修復、保存が可能とする案が急浮上したが、検討されることなく解体工事が進められた。

 県知事選で宮城では過去最多タイとなる5選を果たした村井嘉浩知事。11月1日の当選後最初の定例会見で、サン・ファン号の解体工事を同10日から開始することを明言した。工事業者が決まり、予定通りのスケジュールではあったが、わざわざ会見で宣言したところに並々ならない決意をうかがわせた。

 「サンファン号の保存を求める世界ネットワーク」(白田正樹会長)のメンバーが「検討不十分で解体するのは違法」として知事を相手に、解体などに関わる公金支出を差し止める住民訴訟を起こしたのは、今年6月。

 サン・ファン号は約400年前に伊達政宗の命を受けた支倉常長ら遺欧使節が大平洋を横断した自前の木造船。平成5年に約17億円を費やし、県の一大イベントとして復元された。

 原告団は裁判で「復元船は今後、建造不可能な貴重な財産」「県が修復保存を断念したのは事実評価を誤認した判断の誤り」「原告が提言する保存方法を全く検討しなかったのは裁量権の範囲を逸脱している」などと主張した。

マストが撤去されたサン・ファン号

 裁判は現在、進行中。双方の主張は対立したまま解体工事は進んでおり、今後原告団が何らかの方針変更をする可能性もありそうだ。

 「世界ネット」はサン・ファン号の原寸大保存を求める複数の団体や個人が今年1月に結成した市民団体。もっと早い時期に声をあげていれば、と悔やむ声もあるが「県が(解体方針を)十分周知しなかった」との言い分もある。それでも3月以降に各地で開いたシンポジウムでは、専門家による保存案を公表。その後、正式に県に提出した。

 横浜国大の平山次清名誉教授(造船工学)は、ドックの水を抜いて砂に置き換えて補強する修復工事を提案。文化財建造物修理技術者の日塔和彦さんは、サン・ファン号を視察した上で「修復・保存は可能」との見解を示した。

 これに対し、県側の回答は一切なし。裁判の中で両案を否定、解体は妥当としている。

 工事の進行は手続き上問題ないが、根強い反対の声に十分な説明がないところに市民のいらだちがある。保存の具体案を一顧だにしない県の姿勢には「文化への理解が足りない」との声まで上がった。

 令和6年度には、ミュージアムのリニューアルオープンに合わせて、原寸の4分の1の大きさの後継船が展示されることになっている。祝福ムードに包まれるかどうか、微妙な空気と言わざるを得ない。【本庄雅之】


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