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世間体が一番大事な母と

三連休に実家に帰った。
兄と私は、実家から西と東にそれぞれ車で2時間ほどの距離に住んでおり、それぞれが実家に帰ってはいるものの、なかなか都合が合わず、1年半ぶりに実家で顔を合わせ、一緒に用事を済ませた。

兄も私も母の性格を熟知しているので、言い争いはなかったが、一緒に行動すると兄も私も母へ思うところは同じであった。

実家は程よい田舎で、ご近所さんとの付き合いもしっかりある。それはいいところであるが、悪いところでもある。
一人で暮らす母にとって、ご近所さんとの付き合いはとても大事で、また、離れて暮らす私たち子どもにはとてもありがたい。
ただ、私は実家を離れて20年以上になるにも関わらず、母が話をするので、ご近所さんの状況をよく知っている。ようするに噂話が絶えないのだ。

そういう世界で生きてきたからか、母は常にご近所さんの目を気にしている。

声を出して挨拶していなかったら、「ご近所さんからいい年にもなって何をしているのかと思われる」
(会釈はしたものの、母には見えていなかったのか、母にとってはその挨拶では十分ではないと思ったのか?)

話し声が大きくなったら、「大きな声を出して、ご近所さんから笑われるわ」
(確かに地声は大きいものの、隣の家まで道路を挟んだら50mは離れているけれど、それでも聞こえるのか?)

噂話が度を過ぎていると思ったので、そう指摘したら、「そんなのみんな言っているわ」
(母に何も影響がないのに、どうしてそうも悪く言える?)

こんな感じで、子どもの頃からうんざりしていた。(そして、心の声は口にしない)

今回も居間の棚を新しくしたいという母の希望で設置したところ、
「これできれいになって、よかった、よかった」
「前もしっかりと整頓されていたけれど」
「ご近所さんはみんなもっときれいなの。ちょっと家に上がってもらっても、どう思われているかと気になっていたの」
「そんなの誰も気にしてないよ」
「そんなわけないでしょ」
母の返事を聞いたところで、兄が母に聞こえない小さな声で「お母さんは世間体が一番大事だから」とつぶやいた。

80歳近い母の考え方を今さら変えられない。兄も私も大人になったので、世間体を大事にすることが母の希望ならば、できるところは尊重しようと思えるようになった。

しかし、
「みんなにきたないと思われるのが嫌だから棚を新しくしたい」と頼まれるのと、
「お母さんがきれいにしたいから棚を新しくしたい」と頼まれるのとでは、
動く側の子どもとしては気持ちの持ちようが異なるのだ。
これが自分自身に影響することとなると、お互いに大事にしているところが根本的に違うのでなかなか大変だ。

世間体を大事にするあまり、母はしんどくなることはないのだろうかと思うこともあるが、この歳まで元気に生きてきたのだから、上手く折り合いをつけているのだろう。

世間体という言葉の印象は悪いかもしれないが、周りのことを一番に考えて動くことができるいい面もあるように思う。

自分、自分、自分では、他人と軋轢が出てくるだろうし、
他人、他人、他人では、自分自身がしんどくなるだろう。

結局のところ、何においても良い面と悪い面があって、バランスを保つことが大事なのだろうと思う。