ひびのこと。ー洗い場バイト
産後初の社会復帰に私が選んだのは洗い場バイトである。ランチタイムは忙しいだろうしきっと時間はあっという間だと思いながら、久しぶりの社会への不安を必死で押し殺す。
15分前には到着。(10分前には来てくださいと書いてあったから早めに着く分にはいいよね)と思い入店。受付の可愛らしい和服のお姉さんに声をかける。荷物を置くためにロッカーへ案内される。そこで一目でわかる「この店のボス女将」が着替えていた。挨拶をするも日雇いバイトのため軽くあしらわれる。それは仕方ないので、エプロンを借りて厨房へ。そこでお世話になるパートさん2人に挨拶。どちらも長く勤めていそうな気の利くパートさんと言った雰囲気。どちらかというと気の弱そうな庶民的なパートさん(ここではカトウさんという仮名で呼ばせてもらう)が私の業務指導担当に。
ランチメニューはある程度品数が絞られているようで、お盆にスプーンや箸をセットしたり茶碗蒸しを保温機で温めたりといった準備作業が黙々と進められていた。洗い物はある程度溜まった段階でお願いしたいということだったようで最初は私も配膳、準備の作業に加わることに。厨房の中にいた大将に呼ばれ、見られながらお盆の上に皿などをセットする。←ここでプレッシャーレベルが最高潮に。
慣れない手つきでセッティングを行う。それを観察する大将。残念ながらこいつはテキパキ要領良くできるタイプではないなということを開始数秒で見抜かれ、8割大将の力でセッティング終了。早速の社会の洗礼に落ち込むが、自分の力を妥当に判断されただけなので受け止める。
オープン直後から次々とお客様ご来店。お得なランチメニューを頼まれる方が多い印象。私はご飯、お味噌汁、(余裕があれば)茶碗蒸しを準備する係になった。見事な連携で次々にお盆の上に料理が配膳され、お腹が空いてくる。ご飯をよそいながら、標準のご飯の量を聞くのを忘れていたということに気付くも忙しそうにして聞ける雰囲気でもない。デカ盛り夫に慣れている私の裁量でよそってしまっていいのだろうかと思いながら、我が家の8割くらいの分量をよそう。そしてお味噌汁。左利きでも使いやすいおたまでひと安心。メイン料理ができるまではご飯もお味噌汁も準備はしないルールなので少しぼんやりとする時間があった。厨房から出される美しく美味しそうな料理に私の目は釘付け。さすがいいお店なだけあって器も素敵である。団体のお客様もいらしたようで厨房もフル稼働していた。ホールのお姉様がたも出来上がったお膳を滞りなく席へ運ぶ。カトウさんは、どの職場にも1人はいる皆から強く当たられやすいタイプなのか、ボス女将から他の従業員の前でこれ見よがしに嫌味を言われている。女の職場の縮図を垣間見て、ドキリとした。見ない、聞かないフリをして自分の仕事に集中する。
小1時間したところで洗い物が溜まってきたので洗い場へ移動。もうお椀やお皿が浸かっている状態だったので軽くゆすいでから食洗機にセットするという流れらしい。カトウさんも忙しいので特に説明も受けられなかったのが良くなかったのか(私も聞きにいかなかったのが悪かったが)大将が私の手際の悪さを見かねて隣にて直接指導。言われた通りにやろうとするもなかなかうまくいかない。下がってきたお皿が溜まっていくのを見て自己嫌悪に陥る。でも落ち込む暇があるなら手を動かして少しでも多くお皿を片付けねばと切り替える。弟子にもポイントを教えてもらいながら少しずつコツを覚える。←スピードはまだまだ遅いが。
ちょこちょこ大将による指導を賜りながらピークタイムを乗り越えることができた。大将、料理も作りながら私のような下っぱの指導もするなんてすごいな、、千手観音かよと思う余裕もできた。今後洗い場に入った時に参考にできそうなことをたくさん教えていただけたのでとてもありがたかった。
ラスト20分前くらいで茶碗蒸しの仕込みも手伝わせてもらい、充実した2時間半となった。
本当はまかないをお願いして食べさせてもらいたかったが、私が最初にそれを言うのを忘れていたので腹ペコで帰路についた。
産後初の社会復帰ということで非常に緊張していたが、猫の手も借りたいから単発バイトに求人を出していることもあり周りの人は親切だった。
同時に、自分が完全に社会復帰するのは難しいことだと思った。言われたことをこなすことも精一杯だった。しかも言われたことが全部できていたかと言われたらそうではない。でもこうして単発バイトでそれを思い知ることができてよかったと思う。これからも空き時間を見つけて、夫にワンオペ育児体験をさせて(と言ってもご飯の支度は全て私がしているが)共働き家庭への準備をしていこうと思う。
賄いを食べたかったのが今回の心残りである。