エッセイ2「好きな数字はありますか?」
好きな数字。
私にはそんなものは存在しませんが、
どうやら一般的には好きな数字というものが決まっているようなのです。
私としては好きな動物や食べ物についてはいくらでも答えることはできますが数字を問われてしまうと、苦手だった数学が頭をよぎるからかは定かではありませんが一切思い浮かばないのです。
好きな食べ物…卵料理
好きな動物…猫
好きな数字…?
20年生きてきてごく稀に好きな数字について質問されることがあります。
「好きな数字とかある?」
これに対しての返答は
「ない」
この一言で済む話なのですが、
このような答え方は私のプライドが許しません。
膨らませるだけ膨らませる。
会話に酸素を送ることとボウルに入れて寝かせることこそが私の使命であると自負しています。
それに相手の質問を雑に扱ってはまずい。
相手の私への好感度が数字の「3」より低いなんてことになっては屈辱的です。
そもそもこの質問に対する考え方はあるのだろうか。
まずは私が今まで聞いたことのある回答を例として紹介します。
まず1つ目。
「偶数の数字かな、割り切れるし」
ちなみにこれが私の中で最も謎の回答です。
なぜ割り切れる=好きな数字になるのでしょう。
ヒトは余りを出さずに分解することが好きに繋がる生き物なのでしょうか。
これは一見数字だから違和感なく感じる方も多いかもしれませんが、他のものに置き換えることでいかにおかしな回答をしているかが浮かび上がってきます。
たとえば私が意中の女性に告白したとします。
「好きです、付き合ってください!」
「ごめんなさい。私割り切れる人が好きなの」
決死の覚悟で告白した私は余りが出そうな男というレッテルを貼られお断りされましたね。
こんな意味不明な理由でフラれた私の気持ちこそとても割り切れるものではありません。
偶数だから好きだというのは常日頃から数字を識別できているという理系的賢さを我々に見せつけるための1種のアピールなのです。
結論これでは好きな数字という質問に対して適切に答えられているかというとそうではないということになります。
続いては2つ目です。
「うーん、10000かな」
これはお金のことしか考えていない現実的な、悪く言えば欲深い人間の回答です。
別に数字が好きなのではない。
彼らは諭吉や一葉が好きなのです。
お札のデザインが変わればすぐに「天は人の上に人を造らず(以下略)」などの格言も頭から消え失せてしまうことでしょう。
これも10000に付与された価値が好きなのであって数字自体に感情が動かされているわけではないと思います。
3つ目は「12番かな。野球部時代の背番号」という回答です。
これを私は背番号回答法と呼びます。
この回答こそ好きな数字を答える上で最も適した回答であると私は考えます。
自身に縁のある数字に愛着を感じるのは当然のことであり数字そのものにしっかりと好意の矢印が向けられていると思います。
野球、サッカーなど団体競技に青春時代を費やした人間のみが得られる権利であり、
この質問に正面から向き合うことができます。
ただしテニス部に所属していた私のような数字で識別する必要のない人間たちはこの3つ目の回答のカードを切ることができません。
「4かな。中2のときの出席番号」
おかしいと思いましたね。
こんなもの好きな数字の理由としては不適切です。
愛着などあろうはずがありません。
これは同じ数字が出席番号として繰り返されるような青木さん、青野さんにしか権利がない回答です。
答えた数字の背景に努力や歴史が見えるからこそ背番号回答法は成り立つのです。
最後の4つ目。
「2かな。どう頑張っても1になれないところがなんかほっとけなくて」
これは私が中学2年生の頃にひねり出した黒歴史的、厨二的回答です。
正直、なぜこのようなことを言ったのか覚えていませんがたぶんアレです。思春期です。
2を憂う気持ち、2を自分と重ね少し自嘲的に笑う感じが格好良かったのだと思います。
ちなみに今でも格好良いと思っています。
人間10年では到底変われません。
しかし、実はこの回答が最も数字に寄り添おうとしているとは考えられませんか?
少し頭がアレな答えではありますが、2に対して理解を深めようという献身的姿勢は当時の私ながらあっぱれであると賛辞を送りたい。
今までの回答は数字自体への関心は感じられませんでしたが、私の回答は数字そのものに好意を抱いている正真正銘の好きな数字への回答なのです。
なんかほっとけない。
これはもう好きの裏返しではありませんか!
好きなものに数字を絡めるのではなく、
数字を好きになる。
ここまできてようやく好きな数字という土俵に上がることができるのです。
私にとっての数字。
完璧主義者の1
頑張り屋の2
そつなくこなす3
クールな4
なんか落ち着く5
大人な6
元気いっぱいな7
おだやかな8
これからが楽しみな9
あなたの好きな数字はなんですか?
え、お前の好きな数字はなんなのかって?
そんなものはありません。
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