【着ぐるみ制作】着ぐるみの目の素材いろいろ【アドカレ11日目】
この記事は「日陰工房アドベントカレンダー2022」の11日目の記事です。
着ぐるみの目の素材についてまとめます。目の作り方について、私が知っている情報はすべて書いたつもりです。
以下の順番に解説していきます。
手法例の紹介
各素材についての詳細解説
その他、考え方や細かい手法について
手法例
先にやり方から解説。
OHPアルミパンチアイ
OHPフィルムとアルミパンチを使った目です。初めてのケモ着ぐるみ制作に詳しい方法が書かれています。
元々はFancy Fur Pierrotのラクたろさんに教えてもらった手法です。
クオリティの割に失敗するリスクが非常に低く、難易度も低いです。
強いて言うならミスする箇所はOHPフィルムの印刷と白シールのカット、層の接着ぐらいしかないし、リカバリーも簡単です。
白目まで白シールで作るかどうかは好みです。私はハイライトだけ白シールで作っちゃう派です。
めんどくさいならFancy Fur PierrotさんとFurtic Studioさんがコミッション請けているので頼んでください。
アルミパンチシールアイ
アルミパンチにシールを貼り、針で穴を開けます。たったこれだけ。
非常にシンプルで簡単、また古典的で信頼性があり、未だに日本を含む世界中で使われ続ける手法です。
最大のメリットは程よい視界の良さと、通気性です。
目から空気が入れ替わるのは想像以上に大きいです。
特に、長時間活動したいキャラや、屋外で活発に動きたいキャラは確実に差が出ます。
白目まで穴を開ける、黒目の部分だけ開けるなど、人によって穴を開ける部分に差異があります。使う目の細かさも人によって違います。0.5ミリ径のA-3やPA-1、1ミリ径のA-8、1.5ミリ径のA-10やPA-21がよく使われている印象です。
穴を開ける以上、水気や蒸気でインクがにじむことがあるのはデメリット。にゃんの目もよくよく見ると汗の蒸気でにじんでます……。
アルミパンチプリント
アルミパンチに穴開けるのめんどくさいな? なら直接印刷しちゃえ?
というのがアルミパンチプリント。
たった板1枚ですべてが完結するのが良いところです。
昇華転写印刷するのが基本です。これなら濡れてもにじみません。
国内ではSTUDIO JOTAさんとこがやっています。
自力でやるなら、A-Subなどの昇華転写印刷専用のインクと紙を用意すればできます。プリンターを1台、昇華転写印刷専用にしなきゃいけないのがちょっと大変。
Kemonokapiさんとこは自力でやってる様子。
チロルアイ
田代憂さんの作り方。
チロルアイは印刷した紙とスモークフィルムの上から液晶保護フィルムを美透明接着剤で段差を埋めつつ貼る手法です。
気泡が入りやすく、かなり難しいです。
初制作でなぜかチロルアイ選んじゃって、時間も予算ないのに気泡が入りまくって発狂した記憶があります。
ショコラアイ
ショコラアイは印刷した紙をラミネートして、下に液晶保護フィルムを貼るだけです。
こっちは簡単です。
詳しくは読んで下さい。
ラミネートする以外にも、塩ビ板使ったりとかいくらでも方法は考えられます。
初心者が1からケモ着ぐるみ作る本や、ツキノワグマと学ぶリアル着ぐるみ作り方本の後半にある手法はだいたいショコラアイに近い方法です。
下記ブログの方法もだいたい一緒です。
以下の記事で紹介していた3番目の方法もほぼ同様。
Hoshino式
Hoshinoさんがやっている手法。知っている範囲で同じ方法でやっている人はいなかったはず。
低リスクでいい感じのクオリティの目が作れます。のぞき穴も分からないという優れもの。
詳しくは本買って見てください。
目本体
アルミパンチ
通気性が良く、硬く丈夫で使用実績も多い定番素材です。
東急ハンズ、モノタロウなどで購入可能です。
STUDIO JOTAなど、昇華転写印刷で印刷できる印刷所もあります。
個人的には、昇華転写印刷することをおすすめしますが、印刷した紙を貼り付けて穴を開けることもできます。最初期から現在に至るまで多くの制作者に使われている、非常に古典的で安定した低コストな方法の1つです。にゃんもこの方法です。
この方法の場合は、穴径約0.5~1.5mmのものが使われます。
【メリット】
通気性が良い
硬く丈夫
凹面に変形させることもでき、3D感の強い3Dアイを作りやすい
専用の印刷所がある
古典的で安定しており安く作れる
【デメリット】
穴が見える
フラッシュを炊くと穴の中が見えてしまうことがある
通気性があるため、角膜を付ける場合は塩ビ板などで穴を塞いで密閉する必要がある
余談ですが、裏は黒く塗らないと反射して外が見えなくなります。
塩ビ板
他の素材と組み合わされることも多い定番素材。透明な板で、他の素材の支持材や、角膜を付ける際の蓋として利用します。
アルミパンチに角膜を付ける際は、塩ビ板で穴を塞ぎ、周囲をコーキングで密閉して、角膜の内側が曇らないようにします。
上にハイライトなどの白いシール等を貼る場合に、少しだけ奥行きを作るのにも使います。
【メリット】
透明板の中では切りやすく、加工しやすい
比較的透明度が高い
【デメリット】
接着できる接着剤が限られ、やや接着しづらい
スモーク塩ビ板
色付きの塩ビ板です。
表面にスモークフィルムを貼るのとほぼ同じ効果が得られます。
気泡のことを考えなくていいだけでだいぶ楽です。
濃度が足りなければ重ねればいいです。
液晶保護フィルム
塩ビ板よりも丈夫で薄く、糊が付いています。
表面も傷が付きにくいです。
塩ビ板同様、上に白いシール等を貼る場合の奥行き作りにも使います。
【メリット】
塩ビ板よりも薄い
糊が最初から付いている
表面に傷が付きづらい
【デメリット】
塩ビ板よりも曲がりやすい
ジャバクロス、ビニールキャンバス
縦横に織られた、隙間のある布です。
安価で柔らかく、ペンや絵具による着色がかんたんです。
縦横の織り目がやや目立ちます。
【メリット】
安い
柔らかく、加工が簡単
絵の具で塗れる
【デメリット】
布の目が荒く、やや見える
穴が見える
OHPフィルム
プリンターで印刷可能な透明なフィルムです。
白く塗ったアルミパンチの上とか、ミラーフィルムの上とかに重ねるとキレイに発色します。
透明のため、全面を視野として確保可能なのがメリットです。
レベル調整やトーンカーブで調節して、若干濃いめに印刷するのがポイント。薄かったらガッツリ印刷の濃度を上げましょう。
間違っても2枚重ねにはしないこと。視界がぼやけて何も見えなくなります。
重ねるならIROMIZUのような、透明度の高いカッティングフィルムにしたほうがまだマシです。
にゃんの最初期の目はこれです。
こちらはミラーフィルムに重ねたものです。
OHPフィルム単体だと透けてしまいます。
【メリット】
プリンターで自宅で印刷可能
全視野が簡単に確保可能
【デメリット】
塩ビ等と比べるとやや透明度が低い
裏に発色用の白い面などが必要
ぬいたちさんがOHPフィルムをミラーフィルムと接着する方法を書いています。
スモークフィルム、カッティングシート
スモークフィルムやカラーフィルムなどの、色の付いた接着可能なシートです。塩ビ板などに貼り付けて使用します。
透明フィルムであれば、IROMIZUなどが有名です。ミラーフィルム等に重ねたり、IROMIZU単体で重ねたりして複数の色を作り出すこともできます。
スモークフィルムは車用品販売店に売ってます。
【メリット】
透明感を出せる
視界の範囲を広くすることができる
【デメリット】
少量しか使わないため割高になりやすい
切り出しも貼り付けも仕上がりに直結するため難易度が高い
視界に色が付く
透明フィルムを発色させるには、裏に白版か、白く塗ったアルミパンチか、ミラーフィルムが必要
余談ですが、IROMIZUの白は光を拡散させて白に見せているので、曇っています。なので、視界には使えません。
現在制作中のテルルの目は、ミラーフィルムの上にIROMIZUを重ねて作っています。色が付いているところが全面視界で、かつ非常にクリアであり、そのうえ全く中が見えないです。
ミラーフィルム
スモークフィルムと似ていますが、光を反射します。
そのため、カラーフィルムやOHPフィルムと重ねると全視界の目が作れます。
ただし、光を反射してしまうため、キラキラ角膜が鏡のように反射して光ってしまいます。マットな質感の目に仕上げたい人には向かないです。
撮影でも角度によってはフラッシュで目が光ってしまう確率が高いです。
【メリット】
白版や白く塗ったアルミパンチを挟まなくても、カラーフィルムやOHPフィルムを発色させられる
独特のキラキラ感がある
【デメリット】
目が反射するようになってしまう
ハイライト
目の白い部分をきれいに発色させるのに使う素材です。
自分が使いやすいものなら何でも良いと思います。
白光沢シール
目のハイライトをキレイに発色させるのに使います。
色んな種類のものがたくさんありますので何でもいいです。
白ビニールテープ
白シール同様に使います。単体でキレイに白く発色します。
アクリル絵具
白のアクリル絵具やアクリルガッシュでハイライトを塗ります。塩ビ板の上に塗る場合は、プライマーを塗っておくとよりベターです。
層間の接着
層間は普通の接着剤で接着すると、インクが溶けたり透明度が落ちたりしてしまいます。
ここではそれを防ぐための接着方法をご紹介します。
外周をGクリヤー等で接着する
面接着をそもそもしない方法。無難です。
層間に空気が入ってしまうため、段差がある場合は段差が見えてしまいます。
ラミネート加工
表面をプラスチックで挟んで熱でプレスする方法です。
非常に簡単に目が作れる方法の1つです。
OHPフィルムやミラーカッティングシートを重ねてプレスすれば接着も不要で、簡単に目が出来上がります。
専用の機械が必要なのが難点です。あと、ラミネーターの値段と品質が比例します。下に貼ってあるアイリスオーヤマのやつだとローラーの痕がスジになって残ります。
【メリット】
非常に簡単
一度導入してしまえば低コスト
【デメリット】
機械の導入が必要
ラミネーターの値段と品質が比例する
のぞき穴など、段差のあるものをプレスした場合、段差が見える
田代さんのショコラアイはこれです。
レジン
レジンで層間を接着します。やったことないです。
以下の記事にやり方が掲載されています。
美透明接着剤
GSIクレオスが出している接着剤。
インクジェットプリンターのインクを溶かさず、かつ透明度の高い接着剤です。
ただし、気泡が非常に入りやすく、複数個作って出来の良いものを採用する必要があります。
OHPフィルムの面接着や、チロルアイの制作に使用します。
透明度の比較はしてないですが、より低コストに作りたいのであれば、モノタロウのもっとくっつけ太郎でもいけます。
こちらの方が大容量で安いです。
角膜素材
目に角膜を取り付けることで、よりリアリティのあるキラキラした目に仕上げることができます。
塩ビ半球
塩ビの薄い透明な板でできた半球素材から角膜を切り出します。
直径30cmの半球から切り出すことが多いです。
【メリット】
比較的透明度が高い
加工が比較的楽
ハンズで購入可能。最寄りの店舗に取り寄せもできる
通販でもハンズ以外でも取り扱っている店舗がいくつかある
【デメリット】
柔らかいため傷が付きやすい
薄く強度がないためへこみやすい、へこむと跡が残る
ホームセンターでは入手できないことが多い。ハンズ以外では通販しか選択肢がない
PET半球
PETの薄い透明な板でできた半球素材です。
使い方は塩ビ半球と同じですが、塩ビよりも強度があり、わずかに透明度が劣ります。
【メリット】
目には十分な透明度
加工が比較的楽
塩ビ半球よりも丈夫
予算がマジでないのなら炭酸飲料のPETボトルを使うという手もある
【デメリット】
理論上、塩ビ半球よりもわずかに透明度が劣る(並べて見比べてもほぼ分からない程度ですが)
多少強度がある程度なので、強く押したらもちろんへこんで痕が残る
ハンズにはない。買える店が少なく、通販でしか入手できないので若干入手性に欠ける
塩ビテーブルクロス
塩ビ半球を熱湯で加熱し、おたまやスチロール球体等に当てて曲げながら氷水で冷却します。
加工が必要な点が難点です。
軟質塩ビシートはホームセンターで切り売りしてもらうと良いです。
最初に作ったリコの目はこれです。初制作なのでクオリティはそこまで高くありませんが……。
【メリット】
塩ビ半球より厚みがあるため、丈夫
柔らかいため、へこんで傷が付くということがない
【デメリット】
多少コツがいる
茹でる際に白く曇りやすい
意外と曲がりにくく、曲げるのが大変
曲げるときにいい感じに曲げるためにスチロール球体などが必要
以下の記事にやり方が載っています。
ガラス半球(ガラスカボション)
リアルな目を作るときに使います。半球の下に印刷した紙等を入れたり、印刷した紙をレジンで貼り付けたりして使います。
【メリット】
透明度が高く、よりリアルな目に仕上がる
【デメリット】
重量がある
割れやすい
加工が非常に難しいので基本はそのままの使用になる
傷が付いたときの補修がほぼ不可能
あまり大きな半径のものはなく、最大でも50mmほどで、大きな物ほど高い
レジン/アクリルアイ
まだ手を出せてないので詳しくは分かりません……。
レジンやアクリルで目を作ります。中に写真用紙やOHPフィルム等を仕込んで固めることで、立体的な黒目を作ることができます。キラキラとしたラメ等を仕込むこともできます。
ガラスには透明度が劣るのと、経年劣化による黄変が欠点です。
OHPフィルムの接着剤として使うこともできます。
詳しくはググるなり、他の人の情報を見るなりしてください。
よりリアルさを追求するならば、虹彩の型を利用することで、内部に立体構造を忠実に再現した、非常なリアルな目を作ることもできます。
詳しくは、義眼セミナーに行ってみてください(私は行ったことはありません)。
グラスアイ
私の知る限り、最高レベルに難しい目の制作技術の一つです。
バナーワークやガラス鋳造、フュージングといった手法を使って目を作ります。
レジン/アクリルアイと違って経年劣化による黄変や色の退色が少なく、透明度の高い非常に高品質な目を作ることができます。
多くの高価な道具とガラスを溶かせる環境を用意する必要があるうえに、技術的にも非常に難易度が高く、気泡を入れずに綺麗な左右対称で同じ形状の目をペアで作るのは専門の職人がいるほど、ものすごく高度な技術がいります。
自作をするのなら、相応の時間の修行と設備投資を覚悟しなければなりません。
現実的には、既製品を購入するか、制作依頼をするのが妥当なラインではないでしょうか。
既製品はドール用は多く出回っていますが、着ぐるみ用の大きいサイズは剥製用などしか流通していないのが現実です。
角膜の周囲を埋める
角膜を付ける場合、空気が入らないようにしなければ、角膜の内側が汗を含む熱気と水蒸気で曇ってしまいます。(いわゆる白内障)
これを防ぐためには、目の周囲の隙間を何らかの素材で埋める必要があります。
コーキング
密閉性を生み出すために生まれてきた素材です。
時間経過で固まり、ゴムのような状態になって隙間を密閉します。
グルーガンのような難点もなく、角膜の周囲を埋めるのには最高の素材の1つです。
グルーガン
ただの熱可塑樹脂です。
目の周囲を埋め、密閉するのに使います。
剥がれやすいのと、熱で溶けてしまうのが難点です。
その他のテクニック
角膜の外側に穴を開ける
熱した針で角膜の外側のうち、目の内側あたりの目立たない箇所を突いて、穴を開けます。
こうすることで曇りをある程度防ぐことができます。
もちろん、前述のコーキング等は忘れずに。
基本の考え方
基本的に、視界が確保できる目は、すべて以下の層の組み合わせで出来ていると考えれば良いです。複数同時に兼ねている素材もたくさんあります。
なお、レジンアイのような隙間から覗くことが前提の目は、必ずしも以下の必須項目は必須ではありません。
支持材 ※必須
目の強度を保つための層。目の形状を保ち、変形を防ぐ。
アルミパンチ、塩ビ板、ラミネートなど。
白版・反射材 ※必須
目を発色させる層。白または鏡面で出来ており、上に載せられた絵具やフィルムを発色させる。
白版:紙、白く塗ったアルミパンチ、ジャバクロス、ビニールクロスなど。
反射材:ミラーフィルムなど。
光沢材
目に光沢を与える。
塩ビ板、ラミネート、液晶保護フィルム、ラミネートシールなど。
発色層 ※必須
目に着色する層。透明なものと不透明なものがある。透明なものは白版や反射材が必須。
絵具、印刷した紙やステッカー、印刷したOHPフィルム、IROMIZUなどのカッティングフィルム、印刷したアルミパンチなど。
面接着剤
面で接着する。視界となる都合上、透明である必要がある。
一部の接着剤は光沢材とともに使用することで目の段差を埋め、のぞき穴を分からなくする。
ラミネート、美透明接着剤など。
外周接着剤
外周を接着する。
Gクリヤーなど。
角膜
目の角膜となるパーツ。
塩ビ・PET半球、ガラスカボション、レジンなど。
コーキング材
隙間を埋め、白内障を防ぐ。
コーキング、グルーガンなど。
例えば、一番シンプルなアルミパンチにシールを貼って穴を開けた目は、
支持材:アルミパンチ
白版:シール
発色層:インク
となります。
これらの層を組み合わせて理想の目を作る、と考えればいいでしょう。
まとめ
目には無数の選択肢があります。
成功率は低いけどクオリティは非常に高いチロルアイ。
割りと簡単に作れてクオリティの高いOHPアルミパンチアイ。
昔から信頼され続けて今でも使われるアルミパンチシールアイ。
作りたい着ぐるみのデザインや、どんな活動をしたいのかや、自分の技量に合わせて、最適な方法を選んでみてください。
強いて個人的なおすすめを挙げるなら、アルミパンチにSTUDIO JOTAさんで印刷してもらうか、OHPアルミパンチアイか、Hoshinoさん方式がいいんじゃないでしょうか。
それでは。
明日の記事は「【着ぐるみ制作】ダクトテープダミーの作り方」です。
2024/08/19 Furtic Studioを追記