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変わるのもの、変わらないもの
小さく漏れた声を、すぐに拾ってくれる友人がいる。
「エンどうした。何か疲れてるんじゃ」
優しい心を持っていて、寄り添い過ぎて疲れるんじゃと、ズボラな質のエンは思ってしまう。
「カイは気付いちゃうか。疲れたと言うか、そろそろ戻そうかと思ったことがあって」
戻すとは元はそうだったと言うことか。不思議そうにカイと呼ばれた友人は瞬きをした。
「ふうん。戻したくないのなら、今のままでも良いんじゃないの」
無理をさせず、心を解(ほぐ)してくれるカイ。少し息を吸って、エンは話し出す。
「エンって名前を漢字で書くと、縁があるとかの縁って言う字で、その音の方が好きなんだけど。ユカリが本当の読み方」
手元を見ればたまにしか読まない新聞。戸籍法が変わるとか書いているそれのことだろうか。
「ユカリも良い音だと思うよ」
間を空けずに言葉が届き、目をぱちくりする。
「ありがとう。私だって、嫌いな訳じゃないけど、もっと可愛い女の子に付ける名前じゃないかなと思ってしまって」
少し照れながら伝えたので、ぶっきらぼうに聞こえるかと心配になる。
「僕も本当はヒラクって読むとしたら、どう思う?」
カイは漢字で書くと扉を開くの開。
「どうって、カイもヒラクも格好良いと思う。私は好きだな」
割りと気軽に使った好きという言葉なのに、慣れなくて最後は小声になってしまった。
「そう言うことだよ。別に外国では愛称で呼んだりするんだし、本当はユカリさんだったとしてもエンって呼んで欲しいのであれば、そう呼ぶし」
そう言えばそうだと気付く。呼んで欲しいなら、自分でアピールしたら良いのだ。
「それでまだ悩んでる?」
なるほどと思いつつ、声にはならず。俯いてるように見えたのか、覗き込まれる。
「ううん、聞いてもらって落ち着いてきた。ユカリでもエンでも私は私」
慌てて顔を少し上げると、優しく微笑む友人がいる。
「良かった。エンは元気な方が良いよ」
「カイはいつも優しいよね」
優しい?と少し怪訝気な顔なカイ。
「そうでもないよ。優しくありたいと思うけど」
エンが思っているニュアンスとは、少し違うようだが、微笑むだけで多くは語らない友人である。
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今までは戸籍にふりがながなかったのですが、今後は記載されるそうです。そこから着想したものです。